去年の夏、日本で公開されてまったく売れなかった映画『X-MEN:APOCALYPSE』。その映画を観て書いた本Blogの記事でも記した通り、わたしは20th Century FOXによる映画「X-MEN」シリーズは、さっさと終了させて、MARVEL=DISNEY帝国によるMCUに「X-MEN」キャラたちも参加してほしいと今でも心から祈っている。とにかく、全体としてきちんとシリーズ構成が設計されておらず、場当たり的である。もちろんわたしは映画「X-MEN」シリーズに関しては、2000から始まった最初の3部作は大好きだし、ウルヴァリンのスピンオフ2本もいいし、それから、第1世代ミュータントの悲劇を描いた『X-MEN:First Class』は最高に面白かったと思っている。だが、その次の『X-MEN:Days of Furute Past』でとんでもない展開となり、そのトンデモ設定を引き継がざるを得なかった去年の『X-MEN:APOCALYPSE』でもはや手の施しようがなくなってしまった。故に、もう終わらせてほしい、とわたしは思ったのである。
 折しも、去年は「X-MEN」世界における異端児『DEAD POOL』単独スピンオフがUS国内ではシリーズ初の「R指定」ながらも、本編の倍以上を稼ぐ超える驚異の大ヒットとなってしまい、本末転倒というか、もはやどうにもならない状況となり果てていたわけで、わたしはもう、本当にFOXによる映画「X-MEN」シリーズに絶望していた。
 そんな状況下で、またもやFOXは、一番の人気キャラであるウルヴァリン単独作品『LOGAN』を世に送り出した。しかも本作もUS国内では「R指定」である。わたしは、はっきり言ってまったく期待していなかったし、どうせ『DEAD POOL』の大ヒットに乗じて、首が飛んだり手がちぎれたり、血まみれ映画になり果てたんでしょ、という完全なる予断を抱いて、わたしは昨日、劇場へ向かったのである。そして、本Blogにおいてこき下ろしてやる!とさえ思っていたのが本音だ。
 しかし―――結論から言うと、本作は紛れもなく超名作であり、これはすげえ、こいつは最高の「X-MEN」の真のファイナルじゃねえか!!! と絶賛するに至ったのである。FOXよ、頼むから調子に乗ってこの先また「X-MEN」作品を作ろうと思うなよ。本作で完結させるのが、最高なんだから! さっさと、もう莫大な金額を提示してもいいから、今すぐMARVEL=DISNEY帝国に権利を売り戻してくれ。頼むよ!
 以下、ネタバレがあると思いますので気にする人は読まないでください。

 まあ、あいかわらずFOXの予告は肝心の物語がさっぱり伝わらない内容だが、その世界観は伝わると思う。最初に言ってしまうけれど、本作は、これまでの「X-MEN」映画の歴史をまたもや完全に無視しているといっていいだろう。あれはどうなった、あのエンディングと繋がらねえじゃん。そんな世界観であるので、はっきり言ってわたしは序盤は結構いらいらしながら観ていた。まーたFOXの野郎、めちゃめちゃにしやがって……と、実際腹立たしくさえ思っていた。おまけに、そもそも不老不死であるウルヴァリンが、何故年老いているのか。そして、なぜ他のミュータントたちがみな死に絶えてしまったのか。この最大のポイントも、まったく説明はない。そういう意味では全く不親切というか、ぶった切りである。一応、これまでの映画シリーズは時系列で示すと次のようになると思う。ちょっと簡単にパワポで図を作ってみた。記憶だけで書いたので年号は自信なし。
X-MEN
 まあ、要するに超問題作『FURUTE PAST』で歴史が大きく改変されてしまったわけだが、実際、原作のコミックでもそういうことは実のところ頻繁に起こっているので、ここでけしからんとわたしが非難しても、実はほぼ意味はない。なので受け入れるしかないわけだが、本作『LOGAN』は、これまでのシリーズのどの流れなのか、明確にはわからない。完全に独立した別の歴史かもしれないし、一方ではちょろちょろと、「それっぽい」ことを示唆する小道具とかが映されるため(例えば『SAMURAI」の刀とか)、どういうことなんだよ、とこれまた観ていてイライラする。
 しかし――である。X-23として原作でおなじみのローラが出てきて、ローラと、もう完全におじちゃんで耄碌してしまったプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアとの逃避行が始まると、そこからはどんどん面白くなってくるのである。もう完全に、戦いに疲れた男と無垢な少女とのロードムービーであり、実に心にしみるのである。とにかく渋く、カッコよく、泣かせるのだ。
 展開としては、人為的に「製造」されたミュータントの少女を、コミック「X-MEN」で描かれているミュータントの住まうコロニー「エデン」に連れて行ってくれ、と製造していた会社の女性に頼まれたウルヴァリンが、その会社からの追手の追撃をかわしながら、「エデン」を目指すというものなのだが、わたしは心底驚いたことに、本作『LOGAN』の世界には、「X-MEN」のコミックが存在するのである。こ、これはまさか「第4の壁」を突破(=自分がコミック世界の人間であることを自覚している状態。DEADPOOLがその例)しているのか!? とわたしは興奮したが、劇中でのウルヴァリンの話によると、「そんな漫画は、事実に基づいてはいるけれど、面白おかしく誇張したインチキだ。エデンなんてものはありはしない」だそうで、どうやらこの世界ではX-MENたちの活躍は知られていて、それが漫画化されているだけらしい。なるほど。しかし、コミックを信じるローラは、エデンの存在を信じ、そこに向かうことだけを希望としている。ウルヴァリンとしては、何にもありゃしねえよ、そこに行っても失望するだけだぜ……と思いながら、ボロボロな体でエデンを目指すわけだ。
 その道中では、当然激しいバトルが繰り返される。あろうことか、X-24として、ウルヴァリンそのものといえるクローン・ミュータントまで出てきて(=だからHugh Jackman氏は一人二役)オールドマン・ウルヴァリンはもう満身創痍だ。そもそも、たまに勘違いしている人と出会うけれど、ウルヴァリンの爪は、あれは人為的に後付けされたただの武器で、ミュータントとしての重要な力はどんな傷もたちどころに治っちゃう「ヒーリング・ファクター」の方だ。それがあるからこそ、強い戦士だったわけで、本作では「ヒーリング・ファクター」能力が弱まっている。いくら爪があっても、例えるならただの中年オヤジが刀を振り回したって怖くないでしょ? そういう状態なので、あのウルヴァリンが、もうボッコボコである。そんなピンチを救うのが、まだ10歳程度の少女だ。その少女は、研究所の連中からは「特許物」と呼ばれ、製品の一つに過ぎない。しかも、ウルヴァリンのDNAから製造されており、いわば娘である。そういう意味では、明確に父と娘の心の旅路を描く作品となっているわけだ。まあ、鉄板ですわな、そういう展開は。はっきり言って、ラスト、少女がウルヴァリンを「パパ」と呼び、そして墓標の十字架を、一度抜いて、斜めに、「X」の形に直して据えるシーンはホントにもう、ジーンと感動したね。いや、マジで最高でした。これ以上ない、映画「X-MEN」の完結だと思う。
 というわけで、物語的には、これまでの映画「X-MEN」シリーズが大好きな私としては、結構突っ込みどころというか良く分からない点もあるものの、中盤からはもう大興奮&大感動してしまったわけで、それは確実に、役者陣の素晴らしい演技に支えられていると断言してもいいだろうと思う。
 まず、主人公ローガンことウルヴァリンを演じたのが、当然のことながらHugh Jackman氏。本作限りでウルヴァリン役からの引退を表明しているHugh氏だが、その言葉が守られることを切に願う。もうこれ以上の感動的なラストはないでしょ。それにしても、本当に疲れ、くたくたになったウルヴァリンをよくぞ演じ切ってくれました。完璧だったと思います。来年2月のアカデミー賞にノミネートされてもまったくおかしくないと思うな。とにかくカッコよく、最高です。
 次は、これまた疲れ切っていて、もう完全に要介護状態ですらある老いたプロフェッサーXを演じたのが、これも当然、Patric Stewart氏だ。本作では、能力の暴走を恐れながらも、ウルヴァリンのメンターとしての最後の教えを施すおじいちゃんとして、実に渋い演技ぶりだった。本作では、プロフェッサーXは「世界で最も危険な脳」の持ち主として、その能力の暴走はもはや災害みたいな認識がされている。そのために抹殺対象になっているわけだが、その設定はわからんでもないけど、一体全体、どうしてこうなった……他の仲間はどうしちゃったんだろうな……まあ、そちらの説明をし始めちゃうと、軸がぶれちゃうのかな……本作はあくまで、ローガンとローラのお話だからな……。
 で。X-23こと、ウルヴァリンのDNAから製造されたローラを演じたのが、Dafne Keenちゃん12歳。素晴らしい! 実に素晴らしい演技で、おっさん客はもう号泣必至であろうと思う。いや、わたしは泣いてないすけど。本作ではほぼ笑顔はなく、常に深刻な顔をしているし、本当にもうクライマックス直前までセリフすらないのだが、しぐさや表情は結構可愛らしく、実に守ってあげたくなる少女でしたな。凶暴だけど。その見事な演技については、わたしとしては、天才少女現る!と絶賛したいと思う。成長が楽しみなちびっこですよ。どうか美しい女優に育っておくれ……。

 はーーー。なんかもう書くことなくなっちゃったな……まあ、わたしはこの映画を絶賛したいわけだが、一つ注文を付けるとすると、本作は2029年と明確に年代が示されるが、ウルヴァリンが乗っている車だけは、若干の未来調で2024年モデルとか言っていたけど、ほかの車が、まったく今の2017年の車なんだよな……わたしは車好きなので、その点はちょっと甘いというかイマイチだったすね。ま、まったくどうでもいいことですが。未来感で言うと、ローラを追う勢力の男のメカニカルアーム(義手)とかは、ほんの些細な小道具だけど実にクオリティの高いCGで、大変良かったと思います。
 しかし、やっぱり年老いて、死が自らに迫ってくると、一番に考えることは自らの遺すもの、端的に言えば子供のことなんだろうな。死に瀕すれば、今までのオレの人生って何だったんだ、オレは一体何のために生きて来たんだ、と思うのは、ミュータントでも変わらないわけで、自分の生きてきた証、ってやつなんでしょうな。ほんと、心にしみる作品でした。ラストが最高です。

 というわけで、結論。
 映画『LOGAN』は、その背景はあまり語られず、これまでのシリーズとの関連性もかなりあいまいで、またしてもFOXがひどい「X-MEN」を作りやがった……と思ったら、中盤以降はもう最高で、感動すらある超名作であった。ほんと、マジでもうこの作品を完結作として、FOXは二度と「X-MEN」映画を作らないでほしい。そして、いつかMCUに「X-MEN」が参戦する日が来ることを、わたしとしては切に望みたいと思う。しかしHugh氏は本当にお疲れさまでした。あなたの演じたウルヴァリンは最高でした。以上。

↓ 一応、複数作品のエッセンスを取り込みつつ、メインのビジュアルイメージはコイツだそうです。マーク・ミラー氏の作品は、もはやコミックではなくグラフィック・ノベルですな。激シブすね。