なんというか、最近、小説や映画で良く見かける形式として、現在時制の出来事と、過去の出来事が交互に語られるような作品がやけに多いような気がする。いやいや、全然最近じゃないか。むしろ使い古されているといった方がいいか。まあ、とにかくわたしとしては、妙に最近よく見かける気がしたのでそう書いたのだが、要するに、現在時制が勿論メインであるものの、主人公あるいは重要人物の過去が、だんだんわかって来て、ああ、そういういことだったのか、と分かるような仕掛けの物語で、マジか!やられた!と驚きの面白さを提供してくれる場合もあれば、なーんだ、でがっかりな作品も多い。
 ある種の叙述ミステリーと言えばいいのかもしれないけれど、そういう作品でつまらない結果となると、なんだか腹立たしくなるのはわたしだけだろうか。 わたしが昨日読み終わった小説『STONE BRUISES』(邦題:出口のない農場)は、残念ながら読み終わって腹立たしくなる方の、残念話であった。

 思うに、これは完全にわたしの好みだが、わたしの場合、主人公がバカだと、まるで物語に入れず、イライラするだけで、こりゃつまらん、と判定してしまう傾向がある。バカな主人公は、とにかく行動が、「確実にオレならそうしない」方向の行動をとり、そしてやっぱり痛い目に遭い、だけど何故か最終的には何とかなる。何とかならないと、お話にならんすわな。その、何とかなる様子が、なるほど、と思わせてくれるならまだ許せるのだが、たいていは、うっそお、そりゃないだろ、コイツ超ラッキーというか、これぞまさにご都合主義か!と思いたくなるような場合が多い。まあ、そりゃ誰でもそうだと思うけれど、とにかく、主人公はバカでは勤まらない、というのがわたしの持論である。
 本作の主人公、ショーンは、実にバカなゆとり青年だ。このショーンが、どうやら何かをやらかし、ロンドンからフランスへ逃亡し、フランスの片田舎で車を乗り捨てるところから物語は始まる。金もろくにないショーンは、ヒッチハイクであてもなく逃亡を図ろうとするが、とある森にさまよい、そこで動物捕獲用の罠にまんまと足をがっちり噛みつかれて大けがを負い、その場で気を失う。そして気が付くと、なにやら農場に運ばれ介護されている状況であることを知る。そこは、美しい姉妹と、なにやらいわくありげなおっかないオヤジが住む農場であり、ショーンはそこで傷をいやしつつ、その家族と交流しつつ、家の修理などを手伝い始めるのだが、どうもこの農場も何やらいわくがあって――というのがメインで、この現在時制の農場暮らしと交互に語られるのは、ショーンがロンドンにいた頃の話である。どうやらショーンは、彼女と問題があって、彼女は麻薬にはまってしまったらしいお話がぶつ切りに明らかになっていく。
 というわけで、問題は、まずロンドンで何が起こってショーンは逃亡しているのか、という点と、怪しすぎる農場一家は、一体に何ゆえに周辺コミュニテイーから疎外されているのか、という2点に集約されると言っていいだろう。ショーンも過去に何かあった、そして農場一家も何やら秘密を抱えている、というわけで、お互い秘密を抱える身ということで、お互い警察とは距離を置きたいという奇妙な利害の一致があり、ショーンはある意味のんきに農場生活を送るわけだが、実になんというか……イライラする。日本語タイトルは「出口のない農場」だが、実際のところ出口は普通にあって、いつでも出ようと思えば出られるのに、単にショーンがグズグズして出ていかないだけの話だ。何度か、ショーンはもう出ていくんだ!と決断するのだが、そのたびに、いや、まだ足痛えし、とか、なにかと言い訳を編み出して居座るわけで、実にぶっ飛ばしたくなるゆとり青年である。
 わたしのイライラは、第一にショーンが頭が悪いことによるものだが、もう一つはやっぱり、交互に、小出しに語られるロンドンでの過去が実にしょーもないし、また、大したことない話なのにもったいぶっているというか……ぐずぐずしているというか……とにかく展開が遅いのだ。全編通じて、話のテンポは遅い。その点もわたしのイライラを募らせる原因だったように思う。
 たぶん誰もこの物語を読んでみようと思う人はいないと思うので、ズバリ、ラストのネタバレを書いてしまうが、最終的にショーンはロンドンへ帰り、実は誰もショーンがフランスへ行っていたことなんて気が付いておらず、友達も、あれ、お前最近見かけなかったけどどっか行ってたの? ぐらいのノリで、実にあっさり、ショーンは、なんだ、逃げる必要なかったじゃん、と普通の生活に戻るのだ。わたしはもう、お前いい加減にしろこのバカガキが!と、もう読むのをやめようとしたら、ちょうどそこで物語は終了したので、もう唖然というか……何だったんだ一体……というやるせなさで読了に至ったのである。
 ただ、農場での姉妹の姉、に関しては大変キャラが立っていて、その点だけは良かったと思う。というわけで、キャラ紹介をまとめてさっさと終わりにしよっと。
 ◆ショーン:主人公のイギリス人。ゆとり青年。推定20代中盤。映画が大好きだけど別に何をすることもなく定職もなく、ぶらぶらしているふざけたガキ。彼女を麻薬付けにしたヤクザを殺ってしまい逃亡中、だが、完全ノ―プランで捕まらなかったのは単にラッキーか、イギリス/フランスの警察が無能なだけ、と思っていたら、実はロンドンではまったくそんな殺人に誰も注目しておらず、単にヤクザのごろつきが一人くたばった、としか思われておらず、全然捜査も行われていなかったことがラストで判明。
 ◆アルノー:ショーンが逃げ込む農場の主。養豚がメイン事業。どうやら過去に、とある男と組んで悪事をもくろんでいたが、その男は失踪中であり、周囲からはアルノーがその男をぶっ殺して豚に喰わせたんじゃねえか、と思われている。
 ◆マティルド:アルノーの娘。美女。幼子を抱えた寡婦。その幼子の父は、アルノーが組んでいた男で、失踪の理由を知っているんじゃねえかと、これまた周囲に疑われている。実に可哀想な女子。
 ◆グレートヒェン:アルノーの娘でマティルドの妹。美人。なにかとショーンを誘惑しようとするエロ系女子。天真爛漫というよりも、若干頭が弱いとしか思えない。いつも指図ばかりする姉が嫌い。そして彼女の出生には秘密があって、実際気の毒な人。
 ◆クロエ:ショーンのロンドンでの彼女。ドラッグにはまっていた過去がある。立ち直ったからこそショーンと付き合っていたはず、なのに、ある日ショーンを捨て、勤め先のバーに現れたヤクザの元カレのもとへ走る。非常に微妙だが、クロエとしてはショーンをヤクザから守るために別れた、というのが正しいのかな? ショーンはそんなことも気が付かず、クロエに捨てられたと思っている大バカ者。そしてクロエは大変気の毒な運命に……。
 他にも多くのキャラクターが登場するけれど、実際どうでもいいというかたいした役割もないので、省略。うーん、なんかもはや書くことがない。そうだ、最後に著者のことをメモしておこう。
 著者は、Simon Beckett氏というイギリス人だそうで、「法人類学者ディヴィット・ハンター」という大ベストセラーシリースを書いている方だそうだ。ヴィレッジブックスから日本語訳が出ているらしいです。ええと、これか。
法人類学者デイヴィッド・ハンター (ヴィレッジブックス)
サイモン ・ベケット
ヴィレッジブックス
2009-02-20

 おっと、絶版か? どこも品切れだな……これじゃあ読めないな……残念。こちらの評価は非常に高いそうで、なんでも、理由は分からないけどドイツで大ヒットしたらしいです。CSI的な、スカーペッタ的なお話かなあ。そして今、本書『出口のない農場』のAmazonレビューを見て驚いた。みんな大絶賛してるんだ……うそだろ……マジか……絶賛するポイントがわたしにはさっぱり分からんす。ま、いいや。

 というわけで、結論。
 電子書籍のコインバックフェアで、あらすじを読んで面白そうだと思ったので買った本書『出口のない農場』だが、まったくわたしの好みに合わず、実にイライラしっぱなしの読書体験であった。原題の『STONE BURISES』も、ちょっと意味がピンと来ない。bruisesって「あざ」とか「傷」「傷跡」だよね? うーん……いや、やっぱり良くわからんす。わたしがあらすじを読んで、これは? と思ったのは、「ケガを負った青年がとある農場に監禁され……」的な部分は、ひょっとしたらわたしの大好きなStephen King氏による『MISERY』的なお話かしら? と期待したのだが……残念ながらその期待は完膚なきまでに粉々に打ち砕かれました。やれやれ……だぜ。以上。

↓ 良くわからないけど、「法人類学者」シリーズの2巻3巻は普通にまだ買えるみたいすね。営業がちゃんと仕事してるのか、実に怪しい。
骨の刻印 (ヴィレッジブックス F ヘ 5-2)
サイモン・ベケット
ヴィレッジブックス
2012-03-19

骨と翅 (ヴィレッジブックス)
サイモン・ベケット
ヴィレッジブックス
2014-02-20