ベンガジ、と聞いて、正確な位置や国を即座に答えられる人間が、現代日本においてどのぐらいいるだろうか? まったく根拠はないが、おそらくはほとんどいないだろうと思う。かく言うわたしも、国は知っていたが、すぐに世界地図でここ、と指摘できるほどには知らなかった。
 2012年9月11日に起きた、アメリカ在外公館襲撃事件の舞台の一つが、ベンガジである。
 この事件は、アメリカ大使が殺害された第2の911としても大きく報道されたので、記憶に残っている方もいるだろう。わたしは偶然その原因というか遠因というか、ともかく背景の一部と言って間違いなさそうな事件を当時調べていたので、よく覚えている。わたしが当時、興味があって調べていたのは、いわゆる「アラブの春」と呼ばれる一連の民衆蜂起・革命である。そして、その背景として大きな役割を果たしたといわれるSNSがもたらす人類の変化に、わたしは非常に興味があったのだ。まあ、トランプ大統領当選をはじめとする世界各国での「Populism」の台頭にしても、ひょっとしたら韓国の大統領弾劾にしても、SNSの果たす役割は、現在の人類においてわたしの感覚ではどんどんと「イヤな」方向に進んでおり、実に恐ろしいというか、不気味な未来が待っているような気がしてならないわけだが、実際のところわたしが抱くそんな不安は、何の価値もなかろうし、もし仮にわたしの不安が的中しようとも、その頃にはわたしはきっとさっさとこの世からおさらばしているので、まったくどうでもいいと思っている。
 ともあれ。SNSを発端にして、と語られることの多い「アラブの春」という一連の現象だが、あれから数年を経た今現在では、そのことごとくが失敗に終わったことが既に証明されている。そして、中でもリビアという国家は、当時40年以上独裁してきたカダフィ大佐を処刑することで革命は成し遂げられたかと思われたものの、その後は完全な失敗国家としてなかば無政府状態に陥り、とんでもない内乱を引き起こし、現在外務省の発表する渡航情報は「レベル4:退避勧告」が発令されているような、ウルトラ危険地帯で、ISIS団の跳梁跋扈するヒャッハー地帯である。こういったことは、先日観に行った宝塚歌劇の『スカーレット・ピンパーネル』でも描かれた通り、王を倒してフランス革命万歳とか言っても、その後に来たのは恐怖政治で、ギロチンでバンバン首をはねてたんだから、人類はあまり進歩してないのかもしれないな。ちなみに日本は、2014年7月から現在にいたるまで在リビア大使館を閉鎖中で、隣の在エジプトの大使館で業務継続中だそうだ。とにかくヤバい、というわけである。
 そんなヤバい国の第二の都市、それがベンガジ、である。地理的には、地中海を挟んで、ギリシャの一番先っちょから真っ直ぐ南に550㎞ぐらいかな。東京大阪間が512㎞だそうなので、そうだなあ、東京から新神戸ぐらい、なのかな、イメージとしては。あと、イタリアのシシリー島からも、750㎞ぐらいすね。つまり何が言いたいかというと、アメリカ政府が本気を出せば、飛行機なら数時間で駆け付けられる位置にある、ということである。
 というわけで、以上は前振りだ。
 わたしが昨日、家で観た映画、『13 HOURS』(邦題:13時間 ベンガジの秘密の兵士)という作品は、まさしくこのベンガジで起きたアメリカ在外公館襲撃事件を描いたもので、非常に凄惨で痛ましい顛末を追ったものであった。しかも監督は、『Transformers』でお馴染みの爆発野郎ことMichael Bay氏である。まあその迫力たるや、わたしはもう非常に恐ろしかった。そうか、そういえばこの映画、先日発表されたアカデミー賞で、録音賞にノミネートされてたっけ。たしかに、音響はすごい迫力でしたな。そして、わたしは内容的に、かの名作『Black Hawk Down』や『Lone Survivor』のような感じかしら、と思っていたのだが、あの事件とはちょっと質の違う恐ろしさで、もうずっと緊張しっぱなしの映画であった。

 この映画は、実は日本では劇場公開されず、ビデオスルーだったそうで、字幕付き予告はないだろうな、と思ったのだが、DVD販売用の吹替え版予告があったのでとりあえず貼っときます。しかし、こういう作品をちゃんと放送してくれるWOWOWは偉いと思う。と、わたしのWOWOW愛は深まるばかりだ。
 さて。アメリカ在外公館襲撃事件については、リンク先のWikiに任せることにするので、事件の背景などはもう書かない。本作が、どんな映画であったかをごく簡単に説明しよう。
 本作は、事件の数日前に、ベンガジにやってきた、一人のGRS隊員の目を通した事件の顛末を追うものである。GRSってなんぞ? と思う人も多いだろうと思うので(勿論わたしも知らなかった)説明すると、Gloval Responce Staffの略だそうで、要するに、CIAの職員やスパイたちを警護する屈強な男たち、のことだそうだ。わたしは本作を見ながら、いわゆる民間軍事会社に所属する男たちなのかな、と思っていたが、どうやら、雇い主はちゃんとCIAで、臨時職員的な扱いらしい。ただし、あくまでも警護が任務であり、積極的な交戦は許されないし、その存在は公のものではないそうだ。専守防衛はJSDFと同じで、要するに「軍人」とは扱われないようだ。探してみたところ、このThe Washington Postの記事が分かりやすいかな。Google翻訳でもそれなりに読めるのでどうぞ。
 とまあ、そんなGRS要員としてやってきた男は、さっそくすでに働いているGRSのメンバーと合流する。彼らはSEALs出身だったり、Ranger出身で、普通の海兵隊出身者もいるがそれだと若干見下されるような、超屈強な戦士たちだ。ただし、驚いたことに圧倒的に数が少ない。当時すでにもう超危険地帯だったベンガジの、CIAが借り上げた広大な屋敷を警護するのに、たった6人のチームである。ポイントとなるのは、大使館や領事館といった、US政府の施設警護は当然軍人が当たるわけだけれど、CIAの借り上げ屋敷はその存在が秘されていて、いわば政府は関与しない的な拠点ということだろう。ただし実際はもう現地民にはバレバレである。なぜなら、US政府が支援している民兵組織が余裕で裏切ったりペラペラ喋ったりしているし、屋敷も物々しい威容で西洋人がひっきりなしに出入りしているからだ。そんな、ある意味全く防衛力のない拠点を守る、という絶望的な状況にある。
 だから、6人のGRSチームは心配でならない。大丈夫かこれ、と。しかし、CIAの現地責任者の通称チーフは、全く耳を貸さない。曰く、予算がなくて人員確保できないのだという。世界で最もヤバいところになりつつあるのに、そんな馬鹿なである。あまつさえ、ここは高学歴の人間が働く場であって、お前らのような脳筋バカどもはなにもするな、でしゃばるな、と一方的に告げたりもする。とにかく、自称高学歴の頭のよろしいCIA職員たちは、隙だらけで、情報の受け渡しに街へ出る時も全く無防備で、GRSチームは緊張が絶えない。そして、とうとうベンガジへ大使がやってくることになる。しかも、一人の護衛もなし、まったくの丸腰での来訪だ。大使は領事館に入るので、GRSチームの担当外ではあるが、GRSチームの滞在するCIAのアジトから、数キロ離れた領事館へ行ってみて驚いたことに、こちらも駐留武官の数はごくわずかで、実力も低そうだし、実に警備状況としては穴だらけだ。こりゃあヤバイ。6人の男たちは不安を抱えていると、TVでは、どっかのバカが作った映画がイスラムを侮辱する内容だ、というデモがエジプトで始まり、どうやらここリビアにも飛び火する可能性が高い。折しも、日付は9月11日。US政府からも、911の日は特に気を付けろなんて警報も出ている。無事に済めばいいが……と願う気持ちもむなしく、突然、領事館は多数の武装集団に襲撃され、大使はパニックルームへ避難したものの、建物に火を放たれたれ万事休す一歩手前。このままでは、確実に大使は死ぬ。しかし、CIAの現地責任者のチーフは出動はまかりならんと言う。なぜならCIAが軍事力を持って存在していることは公式には認められないからだ。そしてどんどんと状況は悪化し、ついにGRSチームは独断で出動することを決意する。SEALsやDeltaと言った特殊部隊の隊員が絶対に守ろうとすること、それは「仲間を絶対に助ける」ことだからだ。そして領事館に出動した彼らは、そこからの13時間を、悪夢の、そして地獄の13時間として過ごすことになるのだった――的なお話です。
 はーー。全然短くまとめられなかったわ。
 まあ、そりゃあこの映画が、あくまで映画であって、演出や誇張は当然あるのは分かってる。けれど、この6人の男たちの戦う理由は、わたしにはちょっと『七人の侍』のようにも感じられた。家庭があるのに、可愛い子供たちもいるのに、なぜ彼らはわざわざベンガジで危険な仕事につくのか。とあるキャラクターはぽつりと言う。
 「家に帰るたび、もう最後だと思う。”家にいる”と。でもなぜか戻ってくる。なぜだろう なぜ帰れない? 家にいたいのに」
 「……辞め方を習ってないからな」
 「……妻が妊娠したんだ……絶対死ねない……」
 軍に身を置き、戦闘に体の髄までどっぷりつかった男が、平和な日常を送れなくなるというのは、例えばウルトラ大傑作『American Sniper』などの色々な映画でも過去に何度も描かれてきたことだけれど、わたしにはどこか、『七人の侍』的な、生きる場所を失い、死に場所を求めている男たちのように思える。なんかとても悲しいですなあ。そしてこういう感想を持つことも、美化していると批判されるのかもしれないな……。
  ところで、一番の問題が、アホなCIAの現地責任者たるチーフの判断ミスではなく、US政府がまったく動かなかった点にあるのは明らかだろう。作中で、領事館を捨て、CIAの拠点に戻ってから、そちらが今度は攻撃されることになって、チーフは慌てて本国政府に救援を求めるのだが、イタリアからはすぐに行けるはずなのに、一切来ない。しかも、ペンタゴンは一部始終を上空からのドローン映像で観ているのだ。一発、Hell Fireミサイルを発射するだけで状況は一変しただろうに……そして制服組は出動を何度も願うのに、スーツ組はただ傍観するだけである。ラスト近くで、CIAの女性職員が、空爆しなくてもいい。ただ超低空飛行で威嚇するだけでもいいからF-16を出動させてくれ!とイタリアの基地に連絡するが、結局動かず。唯一動いてくれたチームも、空港からの道が分からなくて(現地の案内人どもがクズだった)、空港に何時間もただ待機させられるなど、どんどん時間は無駄に経過してしまう。結局、大使、領事館のIT系担当職員、そして勇敢に戦ったGRSマン2名、の合計4名のアメリカ人が死んでしまったわけで、悲劇としか言いようがない。もちろん、現地の過激な武装勢力の男たちもたぶん100人近く死んでいるので、わたしにはもうどちらが善でどちらが悪なのかわからないし、そもそもこの戦いに善悪は存在するのかどうかすらまるで見当がつかない。ただ、確かなこととして言えそうなことは、この戦いは避けられたのではないかということだ。この戦いの責任は、そして4人の命の責任は、たぶん間違いなく政治家にあるとわたしは思う。
 ちなみに。この作品はそういう意味で政府批判でもあるし、まあ観る人が観れば、軍人美化的な印象を持ってけしからんと批判することになるのだろう。そして、ポイントとして挙げておかなくてはならないのは、この事件が起きた時の国務長官が、まさしくHillary Clinton氏だったらしいんだな。そしてこの作品はまさしく選挙期間中の去年の1月にUS公開されており、Hilary陣営からすれば、もうとっくに知られている事実とは言え、よりによってこの時期にこの映画が公開されるのは、とても不都合だったことは容易に想像できる。だから日本で公開されなかったのか? とは思えないけれど、まあ、日本で去年公開されていればそれなりに話題になったかもしれないすね。わたしとしては、本作は是非とも、劇場の大スクリーン&大音響で観て観たかった。劇場公開されず大変残念です……。あ、あと、そういえば、本作の状況は、「ジャック・ライアン」シリーズの、確か『米露開戦』でのウクライナ(セヴァストポリ)での戦闘に凄く良く似ているような気がしますね。つーか、あの描写はこの事件をベースにして書かれたのかな……どうだろう。また読み直してみようかな、という気になりました。

 というわけで、全然まとまらないけれど結論。
 日本未公開の『13HOURS』(邦題:13時間 ベンガジの秘密の兵士)という作品がWOWOWで放送されたので、昨日録画を観て観たところ、その内容は極めて凄惨で痛ましく、実に悲しい物語であった。いつも書いているキャストについては、もう長いから書かない。タイトルのリンク先をチェックしてください。みな素晴らしい熱演だったと思う。しかし、こういう映画を見て、あ―日本は平和だなー、で終わらせちゃあダメなんでしょうな。でも、わたしにできることって一体……。ま、たぶん、自分自身の生き方に反映させるしかないだろうし、人類一人一人が真面目に変わっていくしかないのではなかろうか。なお、どうやら本作は興行的にはUS本国でも全然売れず、評価も、かなり賛否両論だったようです。この数字では日本で劇場公開されなかったのもやむなしか。うーん、もったいない。わたしはこの作品を劇場で観たかったっす。以上。

↓ 一応、ノンフィクションの書籍が原作だそうです。日本語訳は発売されてないのかな。