先日、わたしの愛する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERにて、還元率の高いフェアをやっているときに、早川書房で絞り込んで、何か面白そうな小説はねえかなあ、と渉猟していたのだが、ふとそのタイトルに魅かれて、あらすじをチェックしてみたところ、なかなか面白そうだったので買った本がある。
 日本語タイトルは『幸せなひとりぼっち』 といい、原題はスウェーデン語で『En man som heter Ove』というらしい。意味としては、あとがきによれば「オーヴェという名の男」ということらしいが、ちょっと調べてみたらなんと映画も去年公開されていたそうで、わたしは全然知らなかったけれど、原作も映画も本国スウェーデンでは大ヒットした作品だそうだ。というわけで、へえ、そうなんだ、と思いつつ、さっそく読み始めてみた。
幸せなひとりぼっち (ハヤカワ文庫NV)
フレドリック バックマン
早川書房
2016-10-21

 そして、のっけから結論を言うと、わたしは猛烈に感動してしまい、これはもっともっと売れてほしい!と強く思う次第である。よって今回は、大絶賛の方向で本書の内容をまとめつつ、万人にお勧めしようと思う。
 たぶん、まずは映画の予告編を見てもらった方が、どんなお話か伝わるかもしれないので、こちらをさっそく貼っておこう。

 ん……んん……ちょっとアレだなあ、自分で貼り付けておいてなんですが、ズバリ、原作の方が面白い、かもしれないなあ……原作を読んだ今、上記予告で描かれるシーンがどういうシーンか、分かるところと分からんところがあるのはちょっと驚いた。映画は原作通りじゃないのかもしれない。まいいや。ちょっと、まずは簡単に物語を紹介しよう。
 主人公・オーヴェは59歳。妻に先立たれ、会社を「早期退職」という名のリストラで放り出されたおっさんである。彼は、いわゆる「頑固おやじ」で、周囲には相当煙たがられている。それは、オーヴェには明確な「自分ルール」がいっぱいあって、それを忠実に守って生きているためで、決して妥協しない、口論上等、超けんか腰な、はたから見ると恐ろしくやっかいな、なるべく関わり合いになりたくないおっさんだ。ただ、しつこいけれど何度でも言うが、オーヴェにはオーヴェの理論があって、自分がまともであって、周りがおかしい、と本人は思っている。
 そんな彼が、妻を亡くし、仕事を失くした今、実行しようとしていることは、ズバリ自殺だ。もはや生きている理由はない。そして、愛する妻のもとへ行きたい。ならば死ぬだけ、というわけで、彼はすべての準備をきっちり、まさに一部の隙もないほど死後のことを手紙にしたため、妻の好きだったスーツを着用し、死のうとする――が、どういうわけかその度に邪魔が入り、ことごとく失敗する。例えば、さて、準備OK。さ、死ぬか、と思った矢先に、きっちり手入れした庭にへったクソな運転で車が入って来たり、よーしじゃあ、ガレージで車の中にマフラーから排ガス入れて死のう、とすると、ガンガンガンとガレージを叩く音がして誰かがやって来るし、別の日、じゃ、しょうがねえ、電車に飛び込むか、と思って駅へ行けば、後はもう轢かれるだけ、というタイミングで、ホームで卒中を起こしてぶっ倒れる奴がいて、思わず助けちゃってヒーローとして新聞記者がやってくるし、とにかくもう、ことごとく、ああもう!なんなんだよ! 死なせてくれよ! という展開が繰り広げられる。
 しかし、そんな出来事が続くうちに、煙たがっていた周りの人々は、あれ?このおっさん、実はすげえんじゃね? 何でも直せちゃうし、何でも超詳しいし、と気が付いて、どんどんオーヴェを頼りとし、オーヴェもまた、この馬鹿もんが!と怒鳴りつけながらも、どうにも放っておけない。それは、亡き妻が生きていたなら、絶対に、「あなた、助けてあげなさいな」と言ったに決まっているからで、死んでからあの世で妻に再会した時に、大好きだった笑顔を向けてくれないのではないかと思ってしまうからだ。
 とまあ、そういうわけで、本作は、超偏屈親父の生き様と、それに感化されていく周りの優しい人々を描いた物語だ。形式としては、短いエピソードが連なる短編連作(全39章からなる)と言ってもいいかもしれないが、その短いエピソードが非常に濃度が高くて、実に毎回面白い。そして作中では、時折オーヴェの生い立ちから妻との出会いも描かれ、それがなかなか美しく心に迫るものがあって、とても読後感は爽やかだ。
 実はわたしは、最初のうちは、オーヴェというおっさんが全く好きになれなかった。ただのイカレたクレーマー親父か? 老害もいい加減にしとけよな……みたいなヒドイ感想を持ってしまい、最後まで読み通せるのか心配になったほどだ。
 ところがですよ。最初の1/4ぐらいからもう、あれっ? このオヤジ……なんだよ、面白いな……と思い始め、ついにはわたしもオーヴェに好感を持ち、ラストはもう泣ける展開で、実に楽しめたのである。
 思うに、わたしはオーヴェに自分を見たのではなかろうか。59歳なんて、日本ではまだ全然おじいさんじゃないすわな。まだ普通に働いていている人の方が圧倒的多数だろうし。でも、オーヴェのように、「ひとりぼっち」でいる男は、ごまんと日本にもいると思う。そして実に残念なことに、まさしくわたし自身もそうなりそうな気配濃厚だ。そして、さらに残念極まりないことは、オーヴェをものすごく幸せでうらやましい、とさえ思ってしまったのだ。オレ……絶対こんな幸せな人生を生きられねえだろうな……と思ってしまい、自分が情けなく悲しくなってしまったのである。はあ……まったくもう、いやになるわ……何もかも。わたしも、きっと相当偏屈な親父と思われているだろうし、わたしの若者を見る目は、まさしくオーヴェ的だ。たぶん、わたしのことを知っている人がこの本を読んだら、マジでわたしのことを思い出すんじゃないかってくらい、十数年後の自分が描かれているようにさえ思った。やっばいなあ……どうしたらいいんでしょう……。
 ま、もはやわたしの人生はどうにもならんので、物語の各キャラクターを自分用備忘録としてメモしておいて、記憶が失われたときのヒントを残しておこう。
 ◆オーヴェ&ソーニャ夫妻
 オーヴェは、幼少期に母を喪い、少年期に父を喪った孤独な男。以後、黙々と働き続け、ひどい扱いを受けて過ごす。そのせいで、役所は大嫌いだし人も信用しない。作中の言葉を引用すると「人を信用しないただの偏屈屋だと一部の人から思われていることは、オーヴェもよくわかっていた。だがはっきり言ってそれは、信用すべき理由を他人から示されたことがいまだかつてなかったせいだ。」そんな彼は、一部の人からは、超真面目に仕事をきっちりやる男として評価を受けていたし、気に入られてもいたので、何とか最低限の暮らしはできていたし、いろいろな技能を教えてもらって生きていたのだが、青年期にソーニャに出会い、恋をする。この恋がまた不器用でイイんすよねえ……。ちなみに、オーヴェは頑固に「SAAB」以外の車は乗らないし認めない。同じスウェーデンのVOLVOもダメ。BMWやAUDIなんてありえない。トヨタ車なんておもちゃ同然。フランスのルノーを買おうなんて気が狂ってるし、韓国のヒュンダイはもう論中の論外という持論を持つ。このあたりの車の話は、車好きのわたしには大変笑えるポイントでした。
 そして妻のソーニャは、対照的に明るく社交的で超美人。周りからは、なんでまたあんな男と? と反対もされていたのだが、ソーニャはオーヴェの、「正義、公正、勤勉な労働、正しいものが正しくある世界、それを守ることでメダルや卒業証書や誉め言葉がもらえるわけではないが、それが物事のあるべき姿だという理由で、信念を貫く」姿に惚れ、「そうした男がもうあまりいないことを、ソーニャはちゃんと理解していた。だからこそ、この男をしっかりつかんだ」のだそうです。まったく、世の女子たちもこういう男を見る目を養っていただきたいものですよ。
 しかし、こんな幸せな二人も大変な不幸に襲われる。妊娠中に事故に遭い、子どもは流れソーニャは一生を車椅子となってしまう。幼少期からの辛い暮らしやこの事故によって、オーヴェは完全に神を憎悪する男になってしまうが、しかしそれでもソーニャは明るく楽しい女性だった。先生として数多くの生徒を育て、「ねえ、オーヴェ、神さまはわたしたちから子供を奪ったわ。でも、千人ものほかの子供を与えてくれた」と言うぐらい、いい先生として晩年まで過ごした。ほんと、ソーニャに関する記述は非常に泣けるイイ話が多い。
 ◆パトリック&パルヴァネ夫婦&七歳児&三歳児(ナサニン)の姉妹
 オーヴェのお向かいに引っ越してきた一家。まず夫のパトリックはかなり呑気な男で、極めて不器用かつスットロイ。車の運転も絶望的にヘタ(愛車はどうもトヨタ・プリウスらしい)。ちなみに名前が判明するのは結構あとの方で、ずっとオーヴェは「うすのろ」と呼んでいた。序盤で、オーヴェから梯子を借りて家の窓の修理をしようとして転落、以後、ずっと松葉杖のまさしくうすのろだが、性格は穏やかなイイ奴。そして妻のパルヴァネも、そんな夫にイラついていて、オーヴェに車を入れ直してもらったことから(一方的に)仲良くなる。イランからの移民。かなりオーヴェと気が合う。オーヴェに車の運転を習う。オーヴェが怒鳴っても負けない気合があって、オーヴェが認める、ほとんど唯一の人。妊娠中。ラスト近くで三人目の子を出産します。
 で、この夫婦の子供が二人の姉妹で、上の子が通称「七歳児」。名前が出てきたか全然覚えにない。ずっと七歳児と呼ばれている。おしゃまな子で、偏屈なオーヴェを最初のうちは嫌っているが、徐々にその心も溶けていき、最後はもう、かなり泣かせるとってもいい子。そして妹の通称「三歳児」はちゃんと「ナサニン」という名前が出てくる。この子は三歳児らしい天真爛漫なかわいい子で、最初からかなりオーヴェが大好き。この子がまたかわいいんすよ……。
 ◆猫
 名前のない猫。オーヴェの家の前で傷だらけで雪の中で半分凍えていたところを、オーヴェ&ご近所のみんなに助けられる。ちなみにオーヴェは全く猫が好きではないけれど、ソーニャが猫好きだったし、パルヴァネ達もうるさいので介抱してあげただけ、と本人は思っている。ちなみにその時、パトリックはネコアレルギーで病院行き。本当に使えないうすのろですよ。(間違えた!)猫アレルギーはイミーだ。オレの腹で温めよう!と言ってくれたはいいけど猫アレルギーで発疹ができちゃうんだった。なお、この猫は非常にオーヴェに似た、確固たる意志を持っているようで、実にその似た者同士振りが笑いを誘う重要キャラ。
 ◆ルネ&アニタ夫婦
 オーヴェ&ソーニャと40年前の同じころに新興住宅地に引っ越してきた夫婦。ルネは、昔はオーヴェの数少ない友の一人だったが、とある出来事がきっかけで仲は決裂、以後数十年、不倶戴天の敵として数々のご近所バトルを戦ってきたが、数年前からアルツハイマーを患い、戦線離脱。オーヴェはそのことが何気に淋しいと思っている。車はVOLVO派で、SAAB派のオーヴェとは何かと対立していたが、ある日BMWを買ったことで完全にその溝は埋まらないものに。日本でも、トヨタ派、日産派の、それ以外を認めようとしないおっさんっていますよね。この車の話はとても面白い。
 そしてアニタは、ずっとソーニャの一番の友人だった優しい女性だが、現在、体が弱り、ルネの介護も難しくなってきていて、在宅介護をちょっと申請してみたところ、あなたに介護能力なし、とお役所に判定されてしまって、ルネをホームに入れるよう勧告されてしまっている。このお役所バトルも本筋の一つ。しかし、福祉先進国として有名なスウェーデンも、こういうやりすぎ福祉というか、おせっかいともいえるお優しい現実があるんだなあ、と勉強になった。
 ◆アドリアン
 郵便配達員。郵便配達だけじゃ収入が心もとないので、カフェでバイトもしている。ゆとり青年。もともと、彼女の自転車を直してやろうと、自転車放置禁止の場所に自転車を置いていたことで、オーヴェに説教を喰らうが、その自転車をオーヴェが直す手伝いをしたことで急速に「オーヴェさんすげえっす!」と懐いてくる。実は、ソーニャの元教え子であり、オーヴェはそれを知って、このガキに冷たくしたらソーニャが怒るだろうな、と思って、手助けしてやっただけ。最初はルノー車を買おうとしていたけど結局トヨタ車を買った。オーヴェ的には、ルノーやヒュンダイに比べれば、まだ許せるみたい。
 ◆ミルサド
 アドリアンのバイトするカフェの店員。ゲイ。そのことを父親に言えずずっと苦しんでいる。オーヴェは、お前……あっちの人間か? という反応で、だからどうした、と特に差別意識はないようで、そのあけっぴろげな質問にミルサドはオーヴェを信頼し、後にカミングアウトするに至る。
 ◆アメル
 ミルサドの父。カフェオーナー。息子がゲイであることを知って大激怒。ミルサドを家から追い出す(そしてミルサドはしばらくオーヴェの家に居候する。オーヴェはうちはホテルじゃねえ!と激怒するもちゃんと泊めてやる)。しかし、オーヴェがカフェにやって来て、めったに飲まないウイスキーをアメルと二人で吞み、男同士の話し合いをすることでやっとアメルの心に息子を理解しようとする気持ちが芽生える。
 ◆イミー
 オーヴェのご近所に母親と一緒に住む、汗っかきのデブ。ITオタク。アプリ開発者。凍えた猫をその腹で温めてやる活躍を見せる。だけど猫アレルギーで病院行き。笑っちゃった。また、七歳児への贈り物(iPad)の買い物にも付き合ってくれたり、かなりイイ奴。後にミルサドと同性婚を挙げる。
 ◆アンデッシュ
 オーヴェのご近所さんの一人。オーヴェの家の前でいつも小便をする小さいわんこを連れた、通称「金髪の棒っきれ」というヒステリックな女と付き合っている。Audiに乗る「かっこつけ」と呼ばれていた。しかし女が「あの偏屈じじい、あたしの犬のことを「毛皮のブーツ」なんていうのよ、キ―――ッ!!!」と怒った時に、「毛皮のブーツ、最高じゃん、わっはっは!!」と大爆笑したことで破局。以来、オーヴェに好意を抱いたらしい。トレーラー会社経営で、ラスト近くでちょっとした活躍をする。
 ◆レーナ
 新聞記者。偶然オーヴェが駅で助けた男の話を聞いて、取材にやって来る。オーヴェとしてはずっと相手にしていなかったけれど、最終お役所バトルで活躍。のちにアンデッシュと結ばれる。

  とまあ、こんなキャラクター達が見せる、とても暖かいお話で、読後感はとても爽やかだ。今、ふと思ったけれど、そういえばこの物語は、なんとなく有川浩先生の『三匹のおっさん』に通じるものがあるような気がする。TVドラマも3シーズンまで作られた人気作なので、ご存知の方も多いだろう。そして、『三匹のおっさん』が人気になるこの日本においては、本作『幸せなひとりぼっち』も、大いに受け入れられる素地はあるのではなかろうか。ぜひ、ぜひ読んでいただきいたいとわたしは心から願います。最高でした。
 最後に、作家について備忘録としてまとめておくと、日本語で読める記事がインターネッツ上にほとんどないので良くわからないのだが、あとがきに結構詳しく書いてあった。なんでも、元々は雑誌などのライター出身で、ブロガーとして人気者になった人だそうだ。そのブログで人気を集めたのが、偏屈で頑固なおっさんの話をオーヴェという架空のキャラにのせて面白おかしく書いた記事だったんですって。で、その面白ブログがウケて、小説に仕立て上げたのが本作、ということらしい。2012年に発売になったらしいですな。へえ~。そして人口990万のスウェーデンにおいて80万部売れ、全世界でも注目されたんですと。そうか、スウェーデンって、日本の人口の1/10もいないんだ……てことは日本の感覚で言えば数百万部ってことか。それはすごいや。本作の後にも、年1作のペースで作品を発表しているそうで、他の作品も読んでみたいですな。宝塚に遠征した新幹線内で、いつもわたしはグースカ寝てしまうけれど、今回はずっとこの作品を読んでいました。いやー、ホント楽しかったよ。


 というわけで、結論。
 ふとしたきっかけで読んでみたスウェーデンの小説『幸せなひとりぼっち』という作品だが、最初のとっかかりは、若干イラッとするような、嫌なおっさんの図が描かれるけれど、まあとにかく読み進めてみてくださいよ。きっと、いつのまにか、この超偏屈なオーヴェというおっさんが好きになっていると思います。 つーかですね、やっぱり映画版も観ないとダメかなあ……先ほど調べたところでは、来週から新宿で上映があるみたいなんだよな……行くしかねえか……。よし、観に行こう!決めた! 以上。

↓ なるほど、英語版はタイトルがそのまんますね。邦題の『幸せなひとりぼっち』。読み終わった今思うと、なかなかいいタイトルじゃあないですか。。
A Man Called Ove: A Novel
Fredrik Backman
Washington Square Press
2015-05-05