いきなりだが、↓この写真を見て、何と書いてあるか読めるだろうか? そして、この碑がどこにあるか知っている人はいるだろうか? いや、そりゃあまあいるだろうけど、たぶん非常に少ないのではないかと根拠なく思う。
aterui02
 阿弖流為とは、アテルイ、母禮は、モレ、と読む。そして場所は、京都の清水寺の境内だ。わたしがこの写真を撮ったのは、ファイルのタイムスタンプによれば2002年の2月のことのようだ。懐かしい……早朝のまだ誰もいない静かな清水寺を一人訪れて、まさかこの場に阿弖流為の碑があるとは知らなかったわたしは、へえー!? と興奮して撮影したのである。
 そしてなぜ、わたしが阿弖流為という人物を知っていたかというと、これがまた我ながら変化球で、わたしの大好きな原哲夫先生の漫画に、『阿弖流為II世』というとんでもない漫画があるからだ。

 ↑これっすね。内容は、まあとにかくトンデモストーリーで、ギャグとして笑って読むのが正しいと思うけれど、蝦夷の英雄、阿弖流為が現代によみがえってさあ大変! というもので、石原慎太郎氏にそっくりなキャラが都知事として出てきて、壮絶にぶっ殺される痛快なシーンが忘れられない傑作である。
 ま、それはともかく。きっかけは原哲夫先生の漫画ではあったけれど、わたしは子供のころから気になったことはとりあえず調べてみる男なので、原哲夫先生の漫画を読んだ後で、果たして一体、阿弖流為なる人物とは何者なんだろうか、つか、実在の人物なの? と実は全然知らなかったので、調べてみたことがある。すると、どうやら奈良時代~平安時代にかけて、蝦夷(えぞ、じゃなくて、えみし)の武者として、朝廷との壮絶な戦を闘いぬいた勇者であるらしいことが判明した。そういうわけで、2002年の2月に一人で冬の京都を旅している時に、清水寺で偶然、上に貼った碑を見かけて大興奮、となったのである。

 そして写真を撮ってから15年が過ぎた。 わたしは阿弖流為のことをすっかり忘れていたのだが、先日、わたしが愛する宝塚歌劇において、そしてこれまたわたしが一番応援している礼真琴さん主演で、とある演目の発表があったのである。そのタイトルは――ミュージカル『阿弖流為―アテルイ―』といい、そのまんまの、まさしく阿弖流為であった。もう夏が待ちきれねえぜ! とわたしは現時点ですでに相当テンションが上がっているわけだが、ちょっと待て、オレ、阿弖流為といっても、ちゃんと知ってるのは原哲夫先生の漫画(しかもトンデモストーリー)だけじゃん、劇団☆新感線の芝居も観てないし、NHK-BSでTVドラマ化された作品も観ていない。このままじゃマズいんじゃね……? という気がしてならないので、では、基本の原作小説から読んでみようという気になり、高橋克彦先生による『火怨 北の耀星アテルイ』を買って読んでみることにしたのである。


 そして、読み始めた。そしてどんどん熱くカッコイイ男たちに夢中になり、大興奮のうちに読み終えたのである。ズバリ、ラストはもう、泣けて仕方がなかった。金曜日の電車の中でラスト10ページぐらいを残して終わり、我慢できず会社に着いてコートも脱がず読み、読み終えたわたしはもう、涙と鼻水でとんでもないことになった。いやあ、最高です。ホント面白かった。これは登場キャラクターも多くて、さながら三国志や水滸伝的なので、礼真琴さんのミュージカルを観る前に予習しといてよかったわ、と心から満足である。ちなみに2000年に吉川英治文革新人賞を受賞した作品らしいですな。これ、愛する礼真琴さんが主人公・阿弖流為を演じるわけだけど、超泣けるものになるんじゃないかと、早くも傑作の予感がしてならないすな。
 で。物語は、西暦780年の第2期蝦夷征討から、803(?)年までの23年にわたるお話で、非常に興味深く、小説としてももちろん読んでいてワクワクするような、実に上質な作品であった。
 現代の我々はきっとほとんどが知らないことだろうが(偉そうに言うわたしも知らなかった)、794ウグイス平安京、でお馴染みの、平安京(=京都)へ遷都するまでは、都(=天皇の住んでいるところ)は、平城京にあり、要するに奈良、である(※正確に言えば、平城京から784年に長岡京に遷都して、そのわずか10年後に平安京に遷都)。だから「奈良時代」と呼ばれているわけだが、そのころの東北地方は、朝廷の権力のあまり及ばない、ほぼ異国であった。そしてその地に住む「蝦夷(えみし)」と呼ばれる人々は、都の人から見たら獣同然の、人に非ざる存在として認知されていたのである。
 本書によれば、朝廷が蝦夷征伐を意図した理由はいくつかあって、まず、そのころ奈良の大仏などの建立により、「金」(かね、じゃなくてGOLDの金)が欲しかったこと。そして当時の東北地方には金鉱がいっぱいあったことが挙げられている。また、上記のように2回も遷都をすることで、京の人々は疲れて朝廷への忠誠が薄れかけていたため、蝦夷という外敵を明確に設定して、それをもって人心を一つにまとめようとしていたこと、などが挙げられている。 
 そして、この時代はには、まだ、いわゆる「武士」は存在しない。武士とは、要するに職業軍人である。だから朝廷軍の兵士たちは、きちんとした軍事教練を受けていない、ただの平民が徴募されたもので、ただの寄せ集め部隊であるし、司令官もただの貴族が役職として任命されているだけである。 ただし、数は膨大で、万単位の兵力で蝦夷に攻めあがるわけで、いかに素人軍団と言っても蝦夷からすれば十分以上の脅威だ。
 こういう状況なので、物語は、いくつかの氏族からなる蝦夷が一致団結するところから開幕する。そしてその、中心となるのが、物語の開幕時は18歳の少年である阿弖流為だ。その強さとカリスマ性をもった阿弖流為が、仲間を増やし、訓練して練度を上げ、戦略をもって大軍と戦うさまを描いたのが、本作のメインストーリーだ。 しかし、物語は後半、朝廷側の将、坂上田村麻呂が登場することで変化が起きる。都にも潜入し、自らが戦う相手を知っていくことで、阿弖流為は「終わらない戦い」を「終わらせる」にはどうしたらいいのか、が最大の焦点となる。そして阿弖流為が選択した道は――と感動のラストへと至る物語は、もう男ならば泣けること間違いなし、である。
 ダメだ、全然わたしの興奮を伝える文章が書けない!!!
 というわけで、物語に登場する熱い男たちを紹介しておこう。
 ※2017/06/16追記:とうとう宝塚版の配役が発表になって、やけにこのBlog記事のPVが上昇しているので、おまけとして配役もメモしておこう。なお、わたしはこの小説を大絶賛しているのだが、物語的に非常に「少年マンガ」的な熱い男たちの物語なので、女性が読んで面白いのか良くわかりません。
 ◆阿弖流為:胆沢の長、阿久斗の息子。腕っぷしの強さと人を惹き付けるカリスマを持った若きリーダー。アラハバキの神のお告げ?的な、後に蝦夷を率いる将となるヴィジョンを観る。そのまっすぐで優しい心が人を魅了するわけで 、実にカッコイイ。宝塚版で演じるのは勿論まこっちん!超カッコイイことはもう確定的に明らかです。どうでもいいけど、大劇場じゃない公演もDVDじゃなくてBlu-rayで発売してもらいたいものだ。今時DVDなんてホント意味不明だよ……。
 ◆飛良手:「ひらで」と読む。一番最初に阿弖流為の仲間となる、蝦夷最強の剛の者。もともと蝦夷を裏切って朝廷に付こうとするが、阿弖流為の心にグッと来て仲間に。以降、最後まで阿弖流為の側近として付き従う。ラストはもう泣ける!!! 宝塚版で演じるのは、予想外の天華えまさん。『桜華』『スカピン』で新公初主演の98期。応援してるぜ!
 ◆母礼:「もれ」と読む。飛良手が、真っ先に仲間にすべきと阿弖流為に進言して会いに行った男。黒石の長。頭脳の男で蝦夷の軍師として大活躍。まあ、要するに諸葛孔明的な存在。阿弖流為より7つ年上。妹の佳奈は阿弖流為と結婚したので、文字通り義兄弟に。ラストはもう、マジ泣いたわ……。宝塚版で演じるのは綾凰華さん。同じく98期。『スカピン』新公でロベスピエール役。期待してるぞ! そして母礼の妹であり。後に阿弖流為の妻となる佳奈を宝塚版で演じるのが、同じく98期のくらっちこと有沙瞳ちゃん。歌ウマなくらっち、間違いなくまこっちんとのデュエットは美しいに決まってますね。いつか、まこっちんとTOPコンビにならねーかなー……。
 ◆伊佐西古:「いさしこ」と読む。江刺の長の息子。もともと父は鮮麻呂とともに朝廷に従属していたが、阿弖流為と出会い(もとは太伊楽という名だったが、鮮麻呂の叛乱後、すぐに伊佐西古の名を受け継ぐ)、友となる。阿弖流為より3つ年上で、勇猛果敢なでぶちん。基本的に好戦的だがいつも阿弖流為や母礼の策を聞いて、なるほど、とちゃんと作戦を守るタイプ。伊佐西古の最期も涙なくしては読めない。カッコ良すぎるぜ伊佐西古さん! 宝塚版で演じるのは、まこっちんと同期のひろ香祐ちゃん! マジか! 頼んだぜ!
 ◆猛比古:「たけひこ」と読む。元鮮麻呂の配下で、命知らずの強い武人。阿弖流為の「我々は美しい山や空のために戦っているのだ」という言葉に感動して仲間に。以後、飛良手と猛比古の二人は阿弖流為の軍勢の最強2TOPとして大活躍。伊佐西古とともに果てる。宝塚版では……クレジットがないな。出てこないのか……え―超残念!
 ◆天鈴:蝦夷ではなく、物部(もののべ)の一族の長、二風の息子。二風亡き後棟梁に。元々は出雲の出で、現在は蝦夷とともに陸奥に住む豪族。経済的な支援と、情報網を駆使して阿弖流為をバックアップ。天鈴がいなかったら阿弖流為の活躍はなかったと言えるほどの重要人物。宝塚版で演じるのは、まさかの101期生、颯香凛さん。まじかよ、老け役のベテランが演じるかと思ってたぜ。
 ◆多久麻:阿弖流為が一番尊敬していた伊治の鮮麻呂(あざまろ)の配下。一時は朝廷に従属していた鮮麻呂による朝廷への叛乱ののち、阿弖流為配下に。頼りになる男。宝塚版で演じるのは99期生の天路そら君。もう体調は大丈夫? 頑張って!
 ◆取実:軽米の若者。飛良手が鍛えた軍勢で成長した若者で、軽米の長達が優柔不断で頼りにならず、父からの勧めで阿弖流為の本営に移籍。後半のみの出演。取実の最期も泣けるんすよ……!! 宝塚版ではクレジットなし。残念だけど、出番は後半のみだし仕方ないか……。
 ◆和賀の諸絞(もろしま)、気仙の八十嶋(やそしま)、稗貫の乙代(おとしろ)、志和の阿奴志己(あぬしこ):阿弖流為の親父世代の各地の長。ラストの諸絞の心意気がもう泣けてたまらん! この中で言うと、宝塚版では、先日娘役転向を(わたし的には突然)発表した音咲いつきさんが、諸紋を演じるようで、これがラスト男役になるんでしょうな。諸紋はなにかと阿弖流為たち若者に文句をいうものの、超いいおっさんなんすよ……ホントにラストの諸紋は泣かせてくれますぜ!
 ◆坂上田村麻呂:朝廷で唯一蝦夷を理解する男。そして阿弖流為の宿命の敵。ただし、敵とは言っても二人は固い絆に結び付けられていて、お互いを尊敬しあう仲。田村麻呂もまた立派な男よ……。ちなみに、今現在、阿弖流為の碑が清水寺の境内に設置されているのは、清水寺が田村麻呂が寄進したお寺だから、だそうです。本作を読んだ今聞くと、大変泣かせる逸話ですな。そして、この超重要人物を宝塚版で演じるのがまこっちんと同期のせおっちでお馴染み瀬央ゆりあさんだ。 田村麻呂がカッコ良くないと、この物語は面白くなくなるんだからな、せおっち、頼むぜ!
 ◆御園:田村麻呂の片腕で都最強の男。飛良手との一騎打ちもカッコイイし、最期は伊佐西古と刺し違える。最後のセリフはもう号泣モノ。宝塚版で演じるのは、94期の漣レイラさん! おっと! 御園は田村麻呂の唯一の理解者でもあるわけで、せおっちのこと、よろしく頼むよ! 期待してます!

 とまあ、こんな熱い男たちの泣ける物語で、わたしはもう大興奮でした。特に、下巻後半の阿弖流為の悲痛な決意は超ヤバイすね。永遠に終わらない戦いのケリをつけるには、これしかないという選択なわけで、 ほんと、平和な現代は、さかのぼるとこういう男たちの血と涙が築き上げたものなんだなあ、と思うと、なんというか泣けるし、そしてそういう過去をまるで知らないというのは、ひどく罪深いような気がしますな。罪深いってのは大げさか、なんというかな……申し訳ない気持ち、かな。なんだかとても、感謝したくなりますな。いろいろなものに。

 というわけで、もう長いのでまとまらないけど結論。
 高橋克彦先生による『火恨』という作品は、北の英雄・阿弖流為の戦いを描いた、熱い男たちによる泣ける傑作であった。実に北斗の拳的な、わたしの大好物な男たちの物語で、わたしはもう超感動しました。そしてこの作品をミュージカルとして、わたしが最も愛する礼真琴ちゃん主演によって、この夏上演されるわけで、こりゃあもう、1度じゃすまないね。3回ぐらいは観に行く所存であります。ただ、非常に長い時間軸のお話なので、これはちゃんと予習しておいてよかったと思う。もし宝塚ファンで、夏の『阿弖流為』を観に行くつもりなら、本作を読んどいたほうがいいような気がしますよ。それにしても泣けそうだなあ……実に楽しみであります! 以上。

↓ つーかですね、こっちもチェックしといたほうがいいかもしれねえなあ……。 
アテルイ [DVD]
市川染五郎
松竹
2008-02-15