散々このBlogでも書いている通り、わたしはいわゆる「ライトノベル」にも特に偏見を持っておらず(ただしレーベルには大いに好き嫌いがある)、面白そうなら普通に買って読む男である。であるが、昨今のライトノベルには残念ながらあまり面白そうな作品がなく、それ故に読む冊数も減っているわけだが、先日、なんか面白そうなのねえかなあ、と本屋さんで渉猟していたところ、とある作品が目に留まった。タイトルとイラストがとてもイイ。それだけの理由で、あらすじもチェックしていない。だが、わたしはこれまたこのBlogでも散々書いている通り、すっかり電子書籍野郎に変身しているので、本屋さんで手に取って、へえ? と思った後、帰りの電車内で、さっきの作品は電子書籍で買えるのかな? とさっそくチェックしてみたところ、ちゃんと売っていたので、とりあえずチェックを入れて、その数日後にコインバックフェアがあったので、早速買ってみた。
 わたしが愛用している電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERは、その運営会社の資本的に、どの出版社の作品でも扱っているわけでなく、たとえばAmazon Kindleでは売ってるけど、BOOK☆WALKERでは売ってない、みたいなことがあるので、本作がわたしの嫌いな、そしてBOOK☆WALKERではほぼ取り扱っていない小学館の作品だったので、買えるか心配だったのだが、ライトノベルの品ぞろえに強みを持つBOOK☆WALKERだからなのか、小学館の作品でもガガガ文庫はきちんと扱っていて助かった。さすがBOOK☆WALKER。あざっす。
 というわけで、この度わたしが買って読んでみた作品が、小学館ガガガ文庫から今年の9月に発売になった『やがて恋するヴィヴィ・レイン』という作品である。

 わたしは小学館が大嫌いなので、ガガガ文庫を買うのはたぶん2冊目なのだが、その著者、犬村小六先生は、わたしは読んでいないけど、アニメ化(劇場アニメ)もされた『とある飛行士への追憶』で世の中的には大変お馴染みの作家だ。結構売れたはずだけれど、わたしは単にガガガ文庫が嫌い、という理由だけで読んでいないので、大変失礼ながら犬村先生の作品は初めてである。では、なんでまた嫌いなガガガ文庫を買ってみようと思ったかというと、前述のようにタイトルが気に入ったのが一つ、そして、こちらが最大の理由なのだが、わたしはイラストを担当している岩崎美奈子先生の描くイラストが大好きだから、である。今回も、大変良いと思う。淡くて柔らかいタッチは大変わたし好みで、結論から言うと、いわゆるジャケ買いした、というのが実際のところである。
 というわけで、さっそく読み始めた。
 物語は、まあいわゆるファンタジーに属するものだろう。ただしその世界観は、とりわけ珍しくはなく、ズバリ言えばどこかで読んだ様な気のするものだ。世界はどうやら3層に分かれていて、下層は魔物の世界、上層は天界のようなイメージ、そして中間層が普通の人間界、みたいな感じである(読み進めていくと、上層に住むのは高度に文明の発達した普通の人間、下層も魔獣はいるけど普通の人間の住むところと分かって来る)。
 で、物語は中間層に住む一人の奴隷的立場の少年が、「空から降ってきた少女」と出会うところから始まる。なんだ、ラピュタかよ、と思いつつ読み進めると、ごく初めの段階で少女は亡くなり、その後、少年は少女がいまわの際に残した「ヴィヴィ・レインを探して……」という言葉に従って、各地を巡る旅に出る――が、金がなくなると傭兵となって軍に参加する生活を送り、そこで「王国」の姫君に出会い――てな展開である。
 というわけで、どっかで読んだようなお話なのだが、それが悪いということでは決してない。結論から言うとわたしは最後までかなり楽しんで読ませてもらった。この少年、ルカのキャラクターがとても好ましく、出てくるヒロインも(ライトノベルの例に違わず複数のヒロイン候補が出てくる)非常に好感が持てる。物語の端々に、本作がシリーズの1巻であり、後に・・・・・となることをまだ知らない、的な語りが出てくるのが正直興ざめだが、今後の物語の展開に大変期待したいような、新たな物語の始まりとしては非常に楽しめたのである。
 この作品で一番独創的なのは、上層階(=「エデン」と呼ばれる)と中間層(=グレイスランド)は妙な交流があって、中間層での戦争で派手な戦いや劇的な戦い、大規模な戦いに勝利すると、エデンから「グレイスポイント(GP)」というものが与えられ、そのポイントを集めると、エデンから先進兵器が「下賜」されるんだそうだ。読み進めていくと、エデンの人々が飛行船でグレイスランドの戦争を娯楽として見物している描写が出てくるが、要するにそういうことらしく、エデンの先端技術で製造された兵器である「機械兵」という、まあ要するにロボット的な兵器が、戦局において重要な役割を担っているらしい。なんかそんな点もラピュタっぽいけれど、この「ポイントをためて引換える」というのは、世界観にふさわしいか良くわからないが、独特で興味深いポイントだろう。また、科学技術的な面では、特に説明がないが、機械兵は「ソーマ」なる燃料を燃焼させて動力を得る「ソーマエンジン」なる内燃機関があるらしく、とりわけポイントとなるものではないが、そういった謎テクノロジーも、若干のスチームパンク的な雰囲気を醸し出している。
 で。わたしがとりわけ気に入ったのは、主人公ルカのキャラクターなわけだが、彼は全く持たざるもので、身体能力的にも全く普通。だけど、彼は読書を通じて知力を鍛えることに余念がなく、すべては頭で勝負する少年だ。作中で、ルカの所属する陣営が城塞都市を陥落し、軍のお墨付きで「麻袋に入る分だけ」の略奪が許され、周りの兵士たちは待ってましたと金目の物を漁るのに対し、ルカも、戦後の「ヴィヴィ・レイン」を探す旅のための金を得たいと思うものの、彼が選んだ略奪物は、その都市の図書館に収蔵されていた稀覯本だった、というエピソードも、わたしとしてはなかなか好ましい。そしてその、ルカにとってとても大切な本を、後半でやむなく別の目的に使ってしまうくだりもイイ。また、ルカの頭の良さを見抜いて登用する姫様も大変よろしいキャラクターで、二人のちょっとしたドキドキ感も読んでいて心地いい。二人の運命は、謎の予知夢的なものによって、将来的に対立することがほのめかされてしまうが、それもある意味お約束なので、まあ許せる部分だろうと思う。
 ただ、わたしとしては、ルカや周りのキャラクターの言葉遣いあたりは、あまりに現代日本的すぎて、若干興ざめではあると思った。なんか、ファンタジー世界のキャラクターが、現代若者言葉で話し始めると、急にガッカリしますなあ……。ま、このあたりはわたしがおっさん読者だからであろうと思うし、主要読者であるゆとりKIDSたちには全く問題ない点だろう。とりわけ、キーキャラとして中盤から登場するアステルは、キャラ的にも若干とってつけた感があるし、しゃべりの内容も性格付けも、正直テンプレっぽさは感じる。このキャラに妙なツンデレ的言動をさせても仕方ないと思うのだが、まあ、そういう需要があるんすかね。別にどうでもいいんだけどな。
 というわけで、わたしとしてはなかなか楽しめた本作だが、明確にシリーズ1巻であり、次巻以降へのヒキとして、かなり多くの謎が残されたままになっている。そのラストのヒキも、まあ普通のありがちな終わり方ではあるものの、わたしとしてはおそらく次巻も買って読むであろうほどには、本作を気に入った、というのが結論であろう。しかし、やっぱりタイトルがとてもイイすね。とりあえず1巻の段階では、まだタイトルの意味は(明確には)判明しません。薄らぼんやりとほのめかされます(?)けど。

 というわけで、結論。
 いや、もう結論書いちゃったけど、本作『やがて恋するヴィヴィ・レイン』は、大変期待の持てる第1巻であった。わたしが飽きずにこのシリーズを読むとしたら、読者に媚びたような恋愛話やハーレム展開にページを割くのではなく、ヴィヴィ・レインという存在の謎を、主人公ルカには真摯に追って行っていただきたいと思う。結論としては、面白かっす。そして、やっぱり岩崎美奈子先生のイラストは極上ですね。以上。

↓ 2巻は1月の発売のようですな。楽しみです。まだamazonには登録されてないようなので、コイツを貼っとくか。