わたしは日頃、冷静で落ち着いた男として周囲にはおなじみだが、ある日、わたしの元部下で非常に可愛い女性が、実は猛烈な「トレッキー」だったことを知ったときはマジで取り乱すほどびっくりしたことがある。「トレッキー」って分かりますよね? 熱烈な「STAR TREK」ファンのことである。
 えええっ!? ナンデ? ナンデまたトレッキーに!? と聞いてみたところ、なんでもCSか何かで観たら面白くてはまったらしい。わたしは、35年ぐらい前に、夕方毎日テレ朝で放映していた「宇宙大作戦」を小学生か中学生の時に興奮して観ていたし、劇場版も全て観ているので、一応大体は知っているつもりだったのだが、彼女のSTAR TREK愛は本物で、当然TV版最新シリーズまですべて観ていて、Blu-rayでもシリーズを揃え、あまつさえ、熱く「ピカ―ド艦長が一番好きなんです!!!」と語り出したときはマジでびっくりした。わたしが、「えっ!? ジャン=リュックが一番好きなの? ハゲなのに?」と返答したら、「凄い!! ファーストネーム知ってる人と初めて会いました!!! 嬉しい!!! でもハゲは余計です!!」と、彼女もまた普段は冷静で落ち着いた女子なのだが、それまでわたしに見せたことのないような超・笑顔で盛り上がったのを覚えている。以来、わたしは彼女には、「バルカン式挨拶」で「長寿と繁栄を」と挨拶するようになったわけだが、彼女のような「本物」のトレッキーからすれば、わたしはまるでド素人だ。ちなみに、わたしは当然(?)STAR TREKよりもSTAR WARSの方が好きなわけだが、それを彼女に言ったら、鼻で笑われました。曰く、「STAR WARSはなんというか、浅いですよ」だそうで、わたしもつい、「まあ、そりゃあSTRA TREKはDeep Spaceだからなぁ」と反応してしまい、またしても「そうです!深宇宙なんです!!」としばらく彼女の熱いトークに付き合うこととなったわけである。やれやれ。
 そんな若干ニワカなわたしでも、映画版はきちんと全作観ていたので、2009年に公開されたJJ,Abrams監督による『STAR TREK』は、当然楽しみに劇場へ観に行ったクチだ。そして、その内容にかなり驚いた。わたしはまた、リメイクなんだろうな、と思って観に行ったわけだが、全くもってリメイクではなく、きっちり新しいお話であり、 正確には違うかもしれないが、劇場版の「10」の続編的な映画だったわけである。つまり、年老いたミスター・スポック(演じたのはもちろん、オリジナルのLeonard Nymoi氏)がタイムスリップして一番最初の時間軸にやってくるお話だったのだ。そしてあろうことか、歴史が塗り替えられてしまったわけで、以降、このパラレルワールドともいうべきJJ版のSTRA TRECKは、「ケルヴィン・タイムライン」シリーズとして正史となっている。
 そして、続くJJ版の第2作目『Into Darkness』は素晴らしく面白かった。この映画は、旧劇場版第2作の『The Wrath of Khan』を観ていると超面白い。実にうまく『Wrath of Khan』をアレンジていて、エンディングは見事に旧作の逆の結果になっていて、わたしはもう、大興奮したわけである。やっぱJJはすげえ奴だ。 JJならば、STAR WARSを託すに最適の男であろう、と。
 で、先週から公開になった最新作が、この「ケルヴィン・タイムライン」シリーズの第3弾、『STAR TREK Beyond』である。わたしとしては、JJが監督から降りた時点で(まあ、そりゃSTAR WARSで忙しかったんだろう)、相当興味を失ってしまい、まあ、観に行くけど、それほど楽しみではないかな……ぐらいのテンションだったので、初日にはいかず、昨日の夜、会社帰りにふらっと観てきた次第である。そして結論から言うと、十分面白かった、けど、超トレッキーではないわたしには、普通かな、ぐらいの面白さであった。それほど興奮はしなかったっす。というわけで、いつも通り以下ネタバレ全開です。

 上記予告は、見せ場シーンてんこ盛りに編集されたもので、はっきり言って上記予告を見てもさっぱり物語は分からない。なので、わたしもどんなお話か、全然知らずに観に行った。簡単に話をまとめると、「深宇宙」を航行するエンタープライズ号の船長、カークは、現在の探査任務に就いて約3年。任務は5年なのでまた2年ほど残っているのだが、どうも、はっきり言ってもう疲れちゃったようで、最新の補給基地「ヨークタウン」の提督に異動してえなあ、船を下りて地上勤務に代わりてえなあ、と申請したらしい。そしてスポックも、オリジナル・スポックの訃報を受け取り、生き残りのバルカン人として、子孫を残し、大使としてオリジナル・スポックの仕事を受け継ぎたい、船を下りる潮時かもなあ、なんて思っている。
 ところで、一応説明しておくと、ケルヴィン・タイムラインの世界においては、まだ若いスポックと、遠い未来からやってきた老いたスポックの、二人が同時に存在しているんだな。その老いたスポックを、とりあえずわたしは「オリジナル・スポック」と表現してみたわけだが、まさしく演じたLeonard Nymoi氏は去年亡くなってしまったんだよね……残念ながら。まあ、その事情を汲んだ脚本とも言えるかもしれない。本作のエンドクレジットで、きちんと「レナード・ニモイに捧ぐ」と出たのもきちんと礼儀に適っている。
 そんな、若干テンションの低いカークとスポックの二人が、ヨークタウンで補給を受けていると、とある救助ミッションに出動することになり、そこには、巧妙に準備された罠が待ち受けていて……てなお話である。
 なので、問題は、その罠を張って待ち受けていた敵キャラの動機が、本作では一番のポイントとなる。そして、テンションの下がったカークたちが如何にして再び闘志を燃やすか、という流れがドラマの核と言ってよかろう。
 しかし……である。
 まず、待ち受けていた敵、の正体はかなり後半に判明して、その点は非常に素晴らしい脚本だったと思う。しかも、敵のボスを演じた役者が、エイリアンメイク(メイクというよりありゃCGか?)で最初は誰だかわからないのだけど、実はIdris Elba氏(→『THOR』のヘイムダルでおなじみのあのお方)だということが分かる流れは、実に良かったと思う。このキャラは、ひょっとしたら本物のトレッキーの方が観れば大興奮なキャラなのかもしれない。わたしは分からなかったです。
 だが、カークたちが、もはや「家」であるUSSエンタープライズ号が大破し、大切なクルーたちも無残にいっぱい殉職してしまうといったような、「自らの一番大切なもの」の喪失によって、再び結束というかテンションが上がる、という流れは、どうも見ていてあまり気持ちが良くない。名もなきクルーたちがどれだけ亡くなったことか。そして、やっぱりUSSエンタープライズ号が無残に大破する姿も、映像があまりにリアルなCGなだけに、あまり見たいものではなかったと思う。ちなみにラストでは結構あっさりUSSエンタープライズ号は再建されて、そのあっさり感も、わたし的には、あれっ!? こんなに簡単に新造できちゃうんだ? とちょっと興ざめ感はあった。
 おまけに、重要なキーとなる、敵の本拠地に住んでいた謎のエイリアン女子が、非常に浮いているように思える。極めて重要な役割を与えられているのだが、どうも……結局彼女は何者なのか、わたしにはよくわからなかったのが残念であった。また、どうでもいいけどラストで敵の大群が、あの方法でドカンドカン爆発しちゃうのもよくわからないし。
 加えてアクションも、まあ正直に言うと、見慣れたものというか目新しさはないかなあ……なので、どうも、どこかで観たようなショットが多いように感じてしまった。なんとなく、本作の監督であるJustin Lin氏の代表作『ワイルド・スピード』で見たようなアクションカットがすげえ多いような気がしました。スコットの崖っぷち宙ぶらりんのあのシーンなんて、まさしく『ワイルド・スピード』そのままですな。
 なので、どうにも興奮するところまでいかなかった、というのが今回の映画の結論である。うーーーん……十分面白かったと思うのに、どこか消化不良なんですよね……。物語のテンポが悪いのかな……それとも、思いっ切り中華マネーが入っているとか、ドバイの金持ち資本も入っていることがオープニングのプロダクションロゴで分かってしまって、無意識に反感を感じてしまったのかな? そのせいなのか、群衆シーンやクルーには、やけにアジア系の顔が見かけられるようにも感じたのは気のせいだろうか。

 まあ、我ながらよくわからないままで大変気持ち悪いのだが、まあ、ひとつ、確かなこととして言えそうなのは、JJが監督をしていたらこうはならなかったのではなかろうか、ということで、これは根拠なくそう思う。
 というわけで、どうにも半端というか、うーーん、であったわけだが、今回の作品で、備忘録として書いておかなくてはならないのは、二人のキャストについてだ。
 まずは、非常に位置づけが微妙になってしまったエイリアン女子を演じた、Sofia Boutellaちゃんだ。彼女は、去年観た『KINGSMAN:The Secret Service』で両足が刃物のおっかない女子を演じた時、くっきりした太眉が可愛かったのが印象的だ。元々ダンサーでマドンナのバックダンサーも務めたことがあるそうで、今回は結構格闘シーンがあるけど、いい蹴りをしてましたね。ま、顔はエイリアンメイクなのでさっぱりわからないけど、動きは実に良かったですな。
 そしてもう一人は、チェコフを演じたAnton Yelchin君だ。本当に残念ながら、今年事故で亡くなってしまった。まだ27歳の若さで、これからだというのに本当に気の毒というか、残念だ。このケルヴィン・タイムラインでは何気に一番大活躍したチェコフがいないエンタープライズ号なんて、とても悲しいよ……もちろんエンドクレジットでは、彼にも哀悼の意が捧げられているけれど、ホント、チェコフ抜きではもう航海できないんじゃないかと思う。なんか、ケルヴィン・タイムラインももう潮時じゃないかなあ……という気がした。

 というわけで、結論。
 新生「ケルヴィン・タイムライン」シリーズ第3弾となる『STAR TREK Beyond』は、面白い、けど、どうもなにか輝きが若干薄れた印象のある映画であった。映像は相変わらず凄い、けれど、どこかで見たような画が多く、新鮮さや驚きのようなものはないように思う。また、新キャラのエイリアン女子も、どうも位置づけが微妙で、大変魅力的なキャラだけに、もうちょっと深く掘り下げてほしかったようにも感じた。このあたりをどう思うか、筋金入りのトレッキー女子に聞いてみようと思う。大絶賛かもしれないし、酷評かもしれないな。ちょっとどう受け取るか、分からんす。以上。
 
 ※追記:ずーーと、綴りをTRECKと間違てたので、正しくTREKに直しました。いかにニワカか、もろバレ……。

↓ やばい…・・・借りっぱなしだ……ごめん……まだ全部観てないんだ……。
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2012-09-14