先日、なんか面白そうな本はねえかなあ、と、常日頃愛用している電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERを何の気なしに渉猟していたわたしだが、海外文芸コーナーの「人気順」の上位に、早川書房から発売されているとある作品が目についた。なんでも、かの『The Martian』(邦題:火星の人)と同様に、いわゆる「セルフ・パブリッシング」でAmazon Kindleにて自費出版され、大いに売れた作品らしい。要するに、ド素人が初めて書いたインディーズ作品というわけである。
 なので、普段のわたしなら完全スルーなのだが、『The Martian』の面白さはもう全世界が認めており、わたしも映画しか見ていないがとても興奮したので、本作に対しても、ふーん? と思って、とりあえずあらすじを読んでみたところ、非常にトンデモ科学SF的な臭いがプンプンするものだった。
 というわけで、どうしようかしら、と、19秒ほど悩んだ後、まあ、読んでみなきゃ始まらんわな、と、まあ、じゃあ買ってみるか、と購入し、読んでみた。 そして先ほど読み終わったわけだが、結論から言うと、想像以上のトンデモ・ストーリーで、こりゃあ、またどうせ映像化されるんだろうけど、映像化には相当金がかかるぞ……とどうでもいい心配をするに至ったのである。ズバリ、スケールは大きいが、お話としてはかなり……なんというか、ラノベですな、これは。
 タイトルは『The Atlantis Gene』。日本語タイトルは「第二進化 アトランティス・ジーン1」という作品である。「1」とついていることから想像できるように、どうやら本作は、メリケン国ではお約束の「三部作」になっているそうで、その第1巻というわけである。


 著者のA.G.Riddle氏については、ほとんど情報がない。本人のWebサイトによると、フィクションを書くんだ―!! という自身の真の情熱を追及するために会社を辞める前は10年ほどネット企業で働いていたらしい。現在は何歳がよくわからないけど、まあ、まだ30代ぐらいとお若いんでしょうな。
 要するに、日本でいうとラノベ作家になるんだ―的な情熱に駆られて念願のデビューを果たした的なサクセスストーリーで、実際、そのデビュー作である『The Atlantis Gene』は、キャラクターこそおっさんだけれど、物語の設定や流れはもう完全にラノベである。
 なので、読んでいても、かなりの無茶や妙なロマンスが入ってきたり、場面転換や異常に長い説明セリフなど、正直なところかなり苦笑せざるを得ない部分が多い。たぶん誰でもそう思うと思う。
 だが、それでも読ませる熱量は高く、氏が自ら言う情熱なるものは十分に感じられ、その点は非常に好ましいので、この作品は比較的若者向けと思った方がいいような気がする。そのノリについてこれるかどうか、が、本作の評価を分かつ指標のような気がした。

 こんな風に、本人のTweetでも熱心に営業しているし、どうやらBookTrailerも製作中のようですな。で、どんなお話かというと、もうまとめるのが面倒くさいので、早川書房の公式サイトからあらすじを勝手にパクっておこう。こんなお話である。

CBSフィルムズ映画化予定! 人類進化の謎を巡るSFスリラー三部作、開幕

人類進化の謎を巡るSFスリラー三部作、開幕!  南極の氷中で発見された、ナチス潜水艦と「アトランティス」の遺跡。それが事件の始まりだった……。対テロ組織工作員デヴィッドは、世界的企業を隠れ蓑にしたテロ組織イマリを調査するうちに、疫病で人口を激減させ、人類の次の進化を強制的に引き起こそうとする計画の存在を知る。何者かから送られた暗号には南極、ジブラルタル、ロズウェルの地名が記されていたが――個人出版発、驚異のSFベストセラー三部作開幕!

 どうですか。かなりいい感じに中二病が発症してますね。本作では、9.11すらも謎組織によるもので、主人公は9.11で恋人を亡くしている設定で、そこから対テロ組織「クロックタワー」の工作員になったらしいのだが、この「クロックタワー」の設定が、非常に甘いというか半端で、若干なんだそりゃ感はある。しかし、本筋は、謎の「アトランティス遺伝子」の方なので、その点は別にどうでもいいかもしれない。かなり長大な歴史の背後に常にあったという脅威と、それに対抗しようとしていた勢力の長年の研究なんかも出てきて、さらにはナチスドイツの陰謀も混ざり、とにかくまあ、一言でいえば中二病的妄想SFである。正直、科学的、とはちっとも思えないので、SFというよりファンタジーと分類すべきかもしれないが、作中ではトンデモ理論がきちんと設定されているので、その点ではれっきとしたSFと呼んでいいと思う。
 また、後半、主人公とヒロインが逃げ込んだチベット奥地の僧院で入手する「日記」が、ヒロインの出生の秘密や敵役の正体に迫る物語のカギとなるのだが、これがまた随分と時代がかったラブロマンスとなる。読んでいるうちは、一体この日記に書かれていることがどうつながるんだろう、と思うわけで、それが終盤で、な、なんだってーーー!? そういうことなの!? というかなりあっと驚くというか唖然とする展開は、物語の手法としては古典的すぎるし説明ばっかりだけど、十分な説得力はあって、実はこの作品は結構面白いんじゃないか? と最終的には思うに至った。
 冒頭に書いた通り、本作は三部作の第1作目なので、本作のエンディングは、極めてハリウッド的な、「ここで終わりかよ!?」というのと同時に、「な、なにーーー!?」という終わり方で締めくくられる。
 だからまあ、この先が気になる人は続きを読んでね、ということになるし、そもそも本作は三部作全体として評価するのが正しいのだろう。わたしとしては、気にはなる、けれど、すぐにもう興奮のうちに次を買うぜ、とまではいかないかな、というのが現在の結論である。

 というわけで、結論。
 いや、もう結論は上に書いた通りです。本作『The Atlantis Gen』は、かなりのトンデモストーリーだけど、確かな熱量は間違いなく存在している。少なくとも、上記に記したあらすじを読んで、へえ? と思った方には、十分楽しめると思う。わたしも散々なことは言ったがそれなりに楽しめた。しかし、あらすじを読んでピンとこない方には、最後までピンと来ないと思います。しかし……冒頭にも書いたけれど、これを映像化するのは相当な金がかかるぞ……スケールはかなり壮大です。以上。

↓ こちらが2作目です。3作目はまだ日本語訳が発売されてないみたいですな。