以前も書いた通り、わたしはライトノベルでもまったく躊躇せず手に取り、読む男だが、中でも、最強レベルに別格の天才だとわたしが思っているのが、上遠野浩平先生である。
 3月に、上遠野先生の代表作である『ブギーポップ』シリーズの最新刊を読んで、やっぱ最高に面白い、つか、もう電子書籍で全巻買い直してくれるわ!! と調子に乗って、とりあえずその時は、電撃文庫の作品を全巻買ったものの、実はその時、こっちはどうしよう……と悩んで保留してしまったシリーズがある。
 それは、講談社ノベルスから出ている『事件シリーズ』という作品群なのだが、こちらもめっぽう面白く、わたしは大好きである。が、この時、わたしは重大な、きわめて罪深い過ちを犯してしまった。な、なんと、今年の1月に、その『事件シリーズ』の最新刊が発売になっていたのに、全く気が付かずスルーしてしまっていたのだ!!! 何たる愚か者か!!! 実に自分が腹立たしい!! というわけで、先週の末に、「げええーーーッ!? こ、これは新刊!? 嘘だろ!? ドッゲェーーーッ!! なんでオレは買ってなかっただァ―――ッ!!」と、激しく動揺し、即購入し、読み始め、こ、これは超傑作だ!!! と感動に打ち震えることとなったのである。その新刊のタイトルは――『無傷姫事件』。今年読んだ小説で現状ナンバーワンです。いやあ、本当に上遠野先生は天才だと思う。超最高に面白かったです。
 なお、以下、シリーズを知らない人は、わたしが何を言っているかさっぱりわからないと思うので、たぶん読んでも無駄です。さようなら。

 はい。シリーズを知っている人は続きをどうぞ。
 しかし……わたしとしては大変に盛り上がったわけで、その興奮をとりあえず書いてしまったわけだが、『事件シリーズ』の新刊は約7年ぶりになるのかな。だいぶ間が空いてしまっていて、登場人物など細かいことは結構忘れている。が、それでも今回の新刊『無傷姫事件』は大丈夫、と申し上げておきたい。
 冒頭、シリーズの主人公(?)たる「戦地調停士」のEDがとある地方に調査にやってくるところから始まる。それは、「無傷姫」と呼ばれた、とある国家元首の調査で、「無傷姫」が代々保持しているという噂の「竜の委任状」の存在をEDは確認しに来たのだが、その調査は、4代続いたそれぞれの「無傷姫」の生涯を紐解く作業であった――的なお話でした。
 ところで、わたしは完璧に忘れていたけれど、今、Wikiをチェックしてみたら、この「無傷姫」という存在は、シリーズ1巻目の『殺竜事件』でも言及されてる存在なんですね。そうなんだっけ? もう全く記憶になかったっす。すげえなあ。だって、『殺竜事件』が出版されたのって……ええと、2000年の話だぜ? 16年目の伏線回収と言っていいのかもしれない。いやあ、本当に興奮します。そして、完璧にそんなことを忘れていたわたしでも、まったくもって大変に楽しめました。
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 ※2016/08/04追記:現在、シリーズの最初からまた読み直しているのですが、上記の情報はサーセン、ウソでした。第1作には、マーマジャール・ティクタムは明確に登場するけれど、「無傷姫」に関する言及は一切ありませんでした。ホントサーセン。
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 キャラクター的には、EDや「風の騎士」ヒースロゥ、レーゼ、それから「ミラル・キラル」の二人といった、今までのお馴染みのキャラも出てくるけれど、本作は、70年ほど前の初代「無傷姫」の誕生からの、この世界の歴史を過去から順に追うものなので、基本的な時制は過去で、現在のEDたちは章の合間にチラッと出てくるだけです。そしてEDの過去的な部分もちらっとほのめかされるというか、垣間見えて、そりゃあもう大興奮ですよ。
 で、なにより興奮するポイントとしては、わたし的には大きく分けると3つあった。

 1)初代「無傷姫」
 上遠野先生のシリーズを読んできた我々には、300年前に「リ・カーズ」と「オリセ・クォルト」の超絶大喧嘩があったことは大変おなじみだと思いますが(さすがにわたしでもこれは覚えてた)、な、なんと、ですよ、初代『無傷姫』は「オリセ2号」として開発された合成人間なのです。これは、もう冒頭すぐに分かることなので、ネタバレですがいいよね? その、オリセ2号=オリセの妹、とされる合成人間が、現在時制から約70年前に、とあるきっかけで封印から目覚めるところから物語は始まるのだが、この設定だけで、我々ファンは白米3杯いけますね。のっけからもう大興奮。そしてそのキャラ造形が恐ろしく上遠野先生の描くキャラそのもので、実にイイ!! そして初代の跡を継ぐ3人の「無傷姫」もそれぞれ全く違うキャラクターで、読んでいて大変わくわくした。
 初代は合成人間、2代目は生真面目な少女、3代目は自由奔放な少女、そして4代は自分を持たない少女。それぞれがそれぞれの時代の「無傷姫」を演じ、務めるその生き方は、読んでいて大変爽快であり、かつ、非常に感動的とすら言える生き様だったと思う。
 そして、各「無傷姫」のイラストも大変素晴らしいと思う。このイラストを担当したのは獅子猿氏。もうキャリアもかなり長いベテランの方だが、非常に各姫のキャラクターを表す姿で、髪型や服装のデザインもとても特徴があって、完璧な仕事だと思う。もし、『殺竜』の金子一馬氏だったらと想像しても、今回の獅子猿氏のイラストは決して引けを取らないだろうし、極めて美しくカッコ良いと思った。素晴らしい。

 2)七海連合誕生秘話&戦地調停士誕生秘話
 このシリーズの主人公EDの所属する組織が「七海連合」だが、その創設秘話が本作では語られる。ただ、秘話と言っても、非常に成り行きで、じゃあそういう組織を作っとくか、名前もなんかカッコイイし、みたいな実に緩い(?)成り立ちで、この部分も非常に面白いと興奮した。その創設者たるユルラン・ヤルタードという人物も今回たぶん(?)初登場で、しかも彼は「無傷姫の天敵」と呼ばれる存在だったことが明かされる。でも、ユルランはあえてその通り名を世に広めていた的な秘密が非常に興味深かった。彼の根本的な望みは、「強いということがどういうことなのか」を知ることであり、生涯、初代無傷姫ハリカ・クォルトの謎を追求しようとしていたわけで、そのための資金稼ぎのために「ヤルタード交易社」を設立し、後にそこから3代目のマリカ姫に、勧められて作った集団が「七海連合」となる。「七海連合」の名付け親は、その3代目マリカ姫だったことが語られる部分は非常に爽快と言うか、そうだったんだ、そう来たか、と痛快でありました。
 そして、「戦地調停士」という職業(?)も、ユルランが設定したもので、第1号調停士となったハローラン・トゥビーキィも、その名から想像できる通り、今までシリーズに何度も出てきた「聖ハローラン公国」の第17王位継承者たる皇子で、元々王族に嫌気がさして音楽を作っていた変わり者で、ユルランの紹介で3代目マリカ姫と対面してからこの物語に登場するのだが、出番は少な目だけれど非常にキャラが立っていて、これまた大変に上遠野キャラ成分濃厚で良かったと思う。

 3)今まで名前だけ出てきたキャラが何人か登場&初登場キャラがイイ!!
 もう、いろいろめんどくさくなってきたので、キャラをずらずらあげつらってみようと思う。
 ◆バーンズ・リスカッセ大佐 :シリーズのファンならわかりますよね? リーゼのおじいちゃんがまだ若い頃の姿で初登場!!
 ◆オース・クラングルタール博士:リスカッセ大佐とともに無傷姫に会いに行く。付け髭のなかなかいいキャラ。何を研究している博士かって? そんなの当然「界面干渉学」ですよ!! しかも「界面干渉学」の始祖だそうです。
 ◆ユルラン・ヤルタード・・・無傷姫の天敵として上に書いた通り、「七海連合」の創設者。
 ◆ハローラン・トゥビーキィ:漢字で書くと、「波浪蘭飛毘行」。上に書いた通り、聖ハローラン公国の第17王位継承者にしてユルランの親友であり、後に第1号戦地調停士になる。
 ◆ヒギリザンサーン火山:人ではないけど今まで何度か出てきた山の名前。今回、その噴火の当時の様子が語られる。かなり重要な事件。
 ◆人食い皇帝メランザ・ラズロロッヒ:暴虐な男。2代目無傷姫と会談をする。今まで何度か名前は出てきてる。
 ◆ダイキ中将:ラズロロッヒの部下だったが凡庸な男。後の「ダイキ帝国」はこの人の名前から来ていることが今回判明!!
 ◆マーマジャール・ティクタム:『殺竜』にでてきたあの人。「戦士の中の戦士」という最強の男。確か、「竜」と喋れたり出来たんじゃなかったっけ? 今回、彼がまだ少年の頃に、2代目無傷姫と出会うシーンがあって、わたしはもう大興奮!!
 ◆オピオンの子供たち:人の名前ではないけれど、EDもまさに「オピオンの子供たち」の出身。今回、「オピオンの子供たち」にはどのような事が起きたのかが少し触れられる。

 はーーー。全然まとまらない散らかった文章になってしまったが、最期に一つだけ、ちょっと記録として残しておきたいことがある。それは、今回のエピローグ、エンディングが、上遠野先生の作品としては最高レベルにさわやかで、温かいのだ。ちょっと感動すら覚えるぐらい、非常にグッと来るエンディングで、そんな点もわたしがこの作品を現状の「2016年ナンバーワン」に位置づけるポイントでもある。
 また、あとがきも、いつもの上遠野先生節が全開で炸裂しているけれど、非常に考えさせるもので、かと言っていつものような難解な話でもなく、とても面白かった。要するにですね、この作品は最初の1ページ目から最後のページまで、完全にもう素晴らしいということですな。ホント最高に面白かったです。

 というわけで、全然まとまりがないけど結論。
 『無傷姫事件』は、まあ、記憶がフレッシュだからだと思うけれど、わたしとしては「事件シリーズ」最高峰、と言いたい気分です。ので、本当にそうか、もう一度「事件シリーズ」全作品を電子で買って、読み直そうと思います。 とにかく面白かった。最高です。そしてそんな最高の作品を、出版後半年経って読むなんて、ホントにオレはもう抜かってたとしか言いようがありません。もっと頑張ります!! 以上。

↓ やっぱり、1作目の『殺竜』は面白かったなあ……電子で全部買う。もう決めた!!