というわけで、このところずっと読んでいる「暗殺者グレイマン」シリーズの3作目、『暗殺者の鎮魂』を読み終わった。
 1作目『暗殺者グレイマン』の記事はこちら
 2作目『暗殺者の正義』はこちらの記事へ。
 上記でも何度も書いている通り、このシリーズの最大の特徴は、主人公コート・ジェントリーこと暗殺者グレイマンのキャラクターにある。彼は、妙に正義感があって、悪党しかその手に掛けないという「自分ルール」を持っていて、変にいい人過ぎるが故にどんどんピンチに陥り、血まみれになりながらなんとか勝利するというのがどうもパターンのようだ。冷徹なんだか、いい奴なんだか、もう良くわからないのだが、読者から見れば、その「自分ルール」故に、まあとりあえず応援はしたくなるという不思議な男である。そして最終的に事件はきっちり解決し、読後感としてはいわゆるカタルシス、すっきり感があって大変面白いとわたしは思っている。
 そしてこれも何度でも書くが、外見的な描写はあまりないのだけれど、わたしは彼のビジュアルイメージとしては、勝手にJason Statham兄貴か、Mark Strong伯父貴をあてはめ、絶対マッチョのセクシーハゲだと確信している。ピッタリだと思うな、たぶん。
  で、第3作目となる『暗殺者の鎮魂』である。
暗殺者の鎮魂 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2013-10-25

 今回のお話は、前作の数か月後から始まる。前作の作戦により、完全にCIAからも、そしてロシアのヤクザからも、命を狙われる身となってしまったグレイマン。南米のアマゾン川の奥地に身を隠していたが、そこも強襲され、逃走するオープニングアクションがあり、舞台はブラジルから中米を抜け、メキシコに移る。しかし、逃亡中のグレイマンはメキシコのバスターミナルで、ふと一つのニュースを見てしまう。それは、かつて自分の命を救ってくれた男が死亡し、しかも悪党として報道されていたのだ。
 普通、冷徹な暗殺者で、いろんな勢力から命を狙われている男なら、そのまま逃走を続けるだろう。が、我らがグレイマンは、勿論そんなことはしない。律儀なことに、わざわざその男の墓参りに出かけるグレイマン。そして未亡人となった女性(妊娠中)の一家に歓迎されてしまい、あまつさえ、死んだ命の恩人が常に気に掛けていた、妹に出会って若干惚れてしまう。そして、恩人を殺したカルテルのボスが、イカレた狂信者で、未亡人とお腹の胎児を狙って殺し屋を放っていた――的な展開である。こうまとめると、なんだそりゃ、と思われるような物語かもしれないが、まあそんな展開で、未亡人一家と妹を守るために、グレイマンがまたも血みどろの戦いを行うのが本書のあらすじである。正直、基本的にずっとピンチ続きで、読み終わって疲れました。
 今回、わたしが面白いと思った、読みどころポイントを、自分用備忘録としていくつかまとめておこう。
 ■(事実なのか知らんが)メキシコは恐ろしい国!!
 今回の敵は、いわゆる麻薬カルテルである。メキシコのカルテルの恐ろしさは、もうそこら中で描かれているのである意味おなじみだが、まあ、とにかく人命が安い国だという事が本書でも嫌というほど描写される。そして軍も警察も、国家ですら、癒着しており、どうにもならんというのがかの国の現状のようだ。もちろん、普通の市民は善良に暮らしていても、だれがどこでカルテルとつながっているかさっぱり分からないからタチが悪いのだが、どうやら、善良な人々は、「アメリカ人どもが麻薬を欲しがるから(=需要があるから)悪いんだ!!」と思っているらしい。まあ、確かにそれはそうかも、であろう。何しろ麻薬ビジネスは100円のコーラを400,000円で売るようなもので、ボロ儲けだし。なので、今回グレイマンの敵となるカルテルのボスは、常にイタリア製スーツを着こなす優男で、完全にビジネスマンであり、しかもまっとうなビジネスも数多く行っているため、ちょっとした自国の人気者でもある。加えて、メキシコ軍人として戦闘訓練を受けていて、US-Armyでも訓練をしっかり受けた経歴があって、まあとにかく、目を合わせちゃダメな人である。そういった男がボスを務める組織を敵に回すのだから、もちろんグレイマンは満身創痍で、おまけに今回は、超ヤバイ拷問も喰らう。あれはもう、、読んでるだけで痛そうですね。
 ■グレイマン、初(?)の非単独行動
 いつもは完全に一匹狼で単独で戦うのがこれまでのパターンだったが(正確には前巻後半は共同作戦ではある)、今回のグレイマンは未亡人一家を守りながらの団体行動である。しかも未亡人一家はすぐお祈りをしたがって、さっさと行動したいグレイマンは何度も、早くしろよ……とイライラすることになってしまう。この辺は、ハリウッドB級アクションが大好物なわたしには、よく見かける光景だけれど、どうなんだろう……ちょっと、敵もグレイマンも、無計画すぎるし、隙がありすぎのような気がしてならない。おまけに!! 今回、初めてグレイマンin LOVEですよ!! まあ、グレイマンの愛に不器用な様はかなり良かったっすね。しかも、わたしはかなり笑ってしまったのだが、物語のラスト近くで、彼女が大好きなのに、オレの生き方に彼女を巻き込むわけにはいかない、一体どうやって別れを告げたらいいんだ……と悩むグレイマン氏に、彼女は告げる。「わたし、修道女になるわ!!」 おそらく描写にはないけれど、あっさり振られたグレイマン氏がガクーーーッとズッコケたことは想像に難くない。まったく、不器用な人ですよグレイマン氏はw
 ■CIAは敵か味方か?
 前作で、完全に再びCIAを怒らせ、Shoot on Sight(目撃次第射殺せよ=SoS)指令が継続中のグレイマンだが、まだ、本作最大の謎(?)である、「そもそも何故グレイマンはCIAから狙われなければいけないのか、過去に何が起こったのか」は本作でも解明されなかった。が、今回、前作で名前だけ登場していた、グレイマンのかつての上司が登場する。この彼はかなりいいキャラクターでしたね。今後も登場するかもしれないけれど、残念ながら彼も、上層部のいきさつは知らないようで、過去に何が起こったかは知らないようでした。これ、次の4作目を読んでも解明されず、ずっと引っ張るのではなかろうか……。
 ■グレイマン、再び敵を増やすの巻
 事件は、後半で、敵カルテルと対抗するために、その敵であるライバルの組織とグレイマンが手を結ぶ展開になる。グレイマン曰く、手を組むことにしたそのライバル組織のボスは「理性的な人間の想像するもっとも邪悪な人間像を具現している男」なんだそうだが、そんな男とがっちり握手。しかも2回。まあ、手段は問わないということだけれど、実のところ、グレイマンは彼らもまた道具としてしか見ておらず、最後はまんまと騙して、結局手を結んだ組織からも命を狙われることになってしまうのがわたし的にはかなり良い展開だと思った。この、最後のシーンはかなりカッコイイです。
 (裏切られた組織のボス)「殺してやる」
 (グレイマン)「順番を待てよ、カウボーイ」
 (裏切られた組織のボス)「いずれだれかがお前を殺る。それは分かっているはずだ」
 (グレイマン)「わかっている。そのだれかになれなかったのを悔しがる人間が、おおぜいいるはずだと思うと、胸がすくんだよ」
 いいっすね、この余裕というか、強がりぶりは。これ、絶対Jason Statham兄貴に演じてもらいたいなあ……超カッコイイと思うんだけどな。
 というわけで、今回もまた血まみれであり、さらに敵を増やしたグレイマン氏。果たして次はどんな戦いになるのか、まだあらすじすらチェックしていないので全くわからないけれど、さっさと読んでしまおうと思います。

 というわけで、結論。
 「暗殺者グレイマン」シリーズ第3弾、『暗殺者の鎮魂』は、これまでと違って団体行動での逃走劇で、ちょっと調子が狂うグレイマンの様子がほほえましい部分もありますが、基本的には今まで通り血まみれで、敵がメキシカン・カルテルという事で、相当な数の死者が出ます。ので、おそらくはもう、これは普通の人には全くおススメできません。ハリウッドB級アクション好きには大変楽しめると思いますが、ちょっと普通の人には無理かな。あと、原題の『BALLISTIC』というタイトルは、日本語で言うところの「弾道(学)」という意味だと思うけれど……うーーーん、ちょっと読み終わっても内容的にピンと来ない。どこに引っ掛けてるんだろう……分からんす。以上。

↓ 今のところの日本語での最新作が、このシリーズ第4弾。この先の5巻はUS国内で2016/02/16に刊行されたばかりの模様です。
暗殺者の復讐 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2014-05-23