アメリカでは2015年10月から公開され、わたしもNYでポスターを見かけ、観たいけど時間が合わず、早く日本で公開されないかな、と待ちに待った映画が公開された。そして、昨日の夜、さっそく観てきた。いやー、面白かった。映画を観終わってこんなに興奮したのは久しぶりである。
 その映画は『The Martian』である。
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 ↑NYではこんな感じ。しかし日本では、なぜか「オデッセイ」という日本語タイトルになってしまった。原作小説の日本語タイトルの通り、元々の意味は『火星の人』である。また、「70億人が彼の還りを待っている」という日本のキャッチコピーもどうもピントがズレているような気がする。元々のキャッチコピーは上の写真にある通り「Bring Him Home」。彼を生還させよ、という意味であって、それは火星で一人頑張る主人公を何とか生還させようと努力する人々の合言葉である。NYタイムズスクエアとロンドンのトラファルガー広場に集まって中継を見守る人々の様子が映されるけれど、観てるだけで別に何もしていない。あくまで努力を重ねている当事者たちの気持ちの言葉だ。
 わたしがこの映画で気に入らないのは、それだけ。いや、もうひとつあるな。それはあとで書きます。とにかくタイトルとキャッチコピーは全くダメだと思うが、映画自体は、それはもう、素晴らしかった。最高です。
 
 基本的に物語はこの予告に描かれている通りである。年代は明示されないが、現在NASAが進めている火星への有人探査飛行が達成されているのだから、まあ近未来と言っていいだろう。
 火星で地質調査をする6人の宇宙飛行士=科学者たち。全くどうでもいい無駄話をしながら、ある意味楽しげに作業を続ける彼らだったが、なにやら嵐がやってきそうだという気象情報を得る。着陸船が横倒しに倒れてしまっては、周回軌道上に残してきた宇宙船ヘルメス号に戻れない=地球に帰れなくなる。なので、調査途中で残念だけど、撤収するしかない。だが嵐の規模と速度は想定を超え、着陸船に戻る際に、吹っ飛んできたアンテナが一人の宇宙飛行士に直撃、LOST CONTACTとなってしまう。もはやどうすることも出来ず、女性船長は皆を守るため、5人で離陸し、火星から離脱する。が、吹っ飛ばされた宇宙飛行士は生きていた。もはや帰る手段のない彼には、残された食料も水も、とてもじゃないが次回の探査飛行までもつわけもない。そこから、たった一人の、人類の知恵と経験を武器とした生き残り大作戦が始まる――という、予告そのままのお話である。
 とにかく、彼の生き残り大作戦がいちいち素晴らしく、賞賛に値する戦いぶりなのだ。
 食料、水、通信手段。それらを次々と何とかしようとする姿は、恐ろしくカッコイイ。どうすればいいか、その方法に関して、科学者の彼には十分な知識がある。なので彼は、まず調査し、計算し、仮説を立て、実験し、うまく行くこともあれば失敗もし、また別の方法を次々に実践していく。 凄いよこの人は。わたしは観ていて、もう完全に物語りに入り込み、主人公と一緒に喜び、一緒にがっかりし、一緒に絶望したりと、まさしく映画の醍醐味とはこういうものだという2時間20分を堪能させてもらった。わたしが特に感動したのは、水の生産方法と、通信手段の確保の様子である。地球サイドでも、最初は完全に死んだと思って、盛大な葬式までやった後で、ほんのちょっとしたことから、主人公がまだ生きていることを確信するに至り、また、宇宙から撮影している遠い映像だけしかないのに、「アイツ……何やってるんだろう……あーーーっ!! 分かった!! そういうことか!!、 よし、じゃあこっちもアレを用意しよう!!」と、主人公の行動の意味が通じる様は、わたしは非常に感動した。しかもその、通信手段のキーとなるデバイスが、科学ファンにはお馴染みのアレ<マーズ・パスファインダー>だったりして、もう大興奮である。わたしはこのくだりが今回一番感動した。まさかアレを使うとは……!! しかも静止画しか送れないアレを使って、ASCIIコードを使ったTEXTでやりとりすることをひらめくなんて、もう科学技術好きにはたまらない展開である。素晴らしい!! やっぱり、このような頭のいい人たちのひらめきや行動は、全く無駄がなく、観ていてとても気持ちのいいものだ。
 映画や小説などを観たり読んだりしていて、わたしが一番イライラするのは、キャラクターの行動の意味が分からない時だ。なんでそんなことするの? という意味不明の行動をされると非常にイラッとする。そうじゃなくて、こうすればいいじゃん、と思ってしまうと、もうその世界から気持ちが離れてしまう。たとえアホらしい行動であっても、そのキャラクターならそう行動するだろう、と理解できればいいのであって、そこには頭の良し悪しはあまり関係がない。もちろん、アホらしい行動には、理解は出来たとしても気持ちが醒めてしまうので、あまり気持ちのいいものでないが、この映画には、そういう、理解できない行動やアホらしいことは一切ない。すべてがきっちりと筋が通っており、実に爽快なのだ。 
  また、わたしの心を打ったのは、膨大だったり複雑だったり、恐ろしく面倒なことも、黙ってせっせとコツコツ取り組む主人公の姿勢である。わたしが良く、部下を指導する際に言うことは、「難しいこと」と「めんどくさいこと」は全く別物だぞ、ということである。つまり、どうやったらいいかわからないことは、難しい問題だから一緒に考えるけれど、「こうすればいいんじゃね?」とひらめいたことは、それがどんなに作業量が膨大で複雑で時間がかかることでも、それはやればいいだけの話で難しいことじゃない、単にめんどくさいだけなんだから、さっさとはじめようぜ。とにかく手と頭を動かせ、という意味である。この映画では、主人公も、主人公を救おうとする人々も、あらゆる知識や経験をフル動員して、とにかく行動する。まったくもってお見事であった。ラスト近く、主人公が「オレは人類初の宇宙海賊だぜ!!」と名乗るところは、わたしはもう嬉しくてたまらなかったな。キャプテン・ハーロック誕生だよ!! ホント素晴らしい。
 
 で。役者陣と監督についてちょっと触れておこう。
 まず、主人公マーク・ワトニーを演じたのは、Matt Damon氏。本作でアカデミー主演男優賞にノミネートされている。ほぼ完璧な演技で、今、この映画を観て興奮冷めやらないわたしとしては、アカデミー賞をあげてほしいと思うぐらい良かった。また、この映画はある意味漂流サバイバルを描いているので、今回もかなりげっそり痩せた彼の姿を観ることができる、いつもは結構マッチョな彼だが、相当減量したんでしょうな。あれまさかCGかな?? いずれにしても、前向きで明るいキャラクターは、Matt Damon氏ならではの持ち味であろうと思う。
 ほか、競演陣はかなりのメジャー級俳優が多くて、誰を取り上げたものかと思うが、ざっとチェックしておくと、まず彼を火星に置き去りにしてしまった仲間のクルーたちだが、女性船長を演じたのがJessica Chastainさん。今回は彼を置き去りにしてしまったことに強い後悔の気持ちを持ちながら、毅然とした実に立派な船長を見事に演じてくれた。特に、ラスト近くの主人公救出アクションは、わたしが行く!! という強い意志がとても伝わる素晴らしい表情だった。非常に良かったと思います。やっぱりこの人、綺麗だなあ……。で、他の4人の仲間は、『ANT-MAN』の親友役などでお馴染みMichael Pena氏がいつも通り、一番明るい面白キャラを演じて緊張を和らげてくれるし、主にコンピューター系で活躍してくれる生真面目な女性クルーは、『Fantastic 4』でインビジブル・ウーマンを演じたKate Maraちゃん。PCオタクとしての彼女の私物が主人公を救うところもあって何気に活躍してくれました。そしてその彼女と、若干いい雰囲気を醸し出して、事件後結婚したらしいイケメンクルーを演じたのは、『CAPTAIN AMERICA』の親友バッキーことウインターソルジャーでお馴染みのSebastian Stan氏。もう一人のドイツ人クルーはよく知らない方で、実際はドイツ人ではなく、ノルウェー人のAksel Hennie氏という俳優さんみたいですな。というわけで、Marvelヒーロー関連の方が3人いるのもちょっとした奇遇ですね。また、地球サイドでは、『12Years a Slave』でお馴染みとなったChiwetel Ejiofor氏や、イギリス人のコワモテの人、みたいな役の多いSean Bean氏など、結構なメジャー級が揃っている。 
 そして監督は、世界最強監督選手権で確実に優勝候補の一角に名が挙がるであろうSir Ridley Scott様78歳である。やっぱり、広大な火星をあれほど美しく撮れるのはこの人以外にはいないと思う。以前も書いた通り、正直ここ数年、若干イマイチな作品が続いたが、本作は本当に素晴らしい。光とスモークを撮らせたら世界最強なのは間違いなかろう。ただ今回は、意外とクリアと言うかパキッとした画作りで、ちょっと今までにないような感じがしなくもない。わたしは冒頭のタイトルが出るまでの2分ぐらいの画は、監督の代表作『ALIEN』の冒頭に非常に似ているような気がした。音楽のトーンやタイトルの出方など、たぶんわたしはここだけで、この作品の監督が誰だか分かったと思う。アカデミー監督賞にノミネートもされなかったのが非常に残念です。
 はーーー、もう語りたいことはまだまだあるが、この辺にしておこう。最後にひとつだけ、冒頭に書いた気に入らないことの3つ目を記しておきます。これは若干ネタバレなんだけど……『GRAVITY』(邦題:ゼロ・グラビティ)において中国が活躍するのを観てぐぬぬ……と思ったわたしだが、今回も、まーた中国だよ……。まあ、製作出資者にチャイナマネーが入っているのだろうなという邪推はともかく、事実として日本の宇宙開発は遅れているのだろうと思う。こういうところで日本じゃないのが、本当にわたしは残念だ。日本の科学者、技術者の皆さん、どうか頑張ってください。わたしは猛烈に悔しかったです。
 ※2016/02/07追記:この映画について、Web上では「まさに火星版DASH村」として盛り上がってるらしいtweetを見た。確かにw でも城島リーダーのコラは反則ですww  笑わせてもらいました。

 というわけで、結論。
 まだ2月だけれど、わたしにとってこの映画『The Martian』は、2016年暫定No.1ムービーである。今すぐ、劇場へGO!! でお願いします。超おススメですので。なお、本作は、US国内で2億ドル以上、全世界でも6億ほど稼いでおり、大ヒットしております。また、格付けサイトでも非常に高評価で、観ない理由は何ひとつありませんので、絶対に劇場へ観に行ってください。以上。

↓ 原作にも俄然興味が出てきた。読むか……? どうしよう。元々はオンライン小説だったそうですね。
火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
2015-12-08