はーーー……昨日書いた通り、わたしはとある海外翻訳ミステリーを一昨日から興奮して読み始めているわけだが、今、読み終わってしまった。やれやれ。たぶん、読書を習慣にしている人ならば、上巻・下巻ともに4時間かからないぐらいで読めると思う。合計約8時間弱。はーーー……面白かった。幸せです。続きが読めたなんて。
  というわけで、これである。
ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)
ダヴィド ラーゲルクランツ
早川書房
2015-12-18

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)
ダヴィド ラーゲルクランツ
早川書房
2015-12-18

 昨日も書いたので、もはや紹介の必要はなかろう。全世界で8000万部売れた、大ベストセラー。しかし、著者は刊行前に亡くなっており、その続きは読めないものと誰しもががっかりしていたあの『ミレニアム』シリーズの、まさかの続編である。
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 ※2016/01/29追記:やたらと「ミレニアム4」「文庫」で検索してここにたどり着く方が多いので、余計なお世話の蛇足ですが、文庫が出るのは出版界の常識からすると2年以上あとです。わたしもかつては文庫が出るまで待つ派でしたが、よく考えると、どうせ文庫でも1冊1000円近くするので、それならもう、さっさと読みたいときに読む派に変わりました。かつて、「ミレニアム」の1~3を文庫が出るまで待ったわたしが言うのもアレですけど。置き場所に困る人にも、電子書籍というソリューションがありますよ。超便利です。
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 昨日は、この続編は出版社側が、存在するとされている第4巻の途中までの原稿や、シリーズ全体のプロットをなかったものとして、まったく別の作家に書かせたいわゆる二次創作らしいと書いたが、出版社だけでなく、亡くなった作家の父と弟も、続編を書くことを出版社とともにお願いしたそうだ。どうやら、正当な版権所持者は遺族である父・弟・出版社であるらしい。なので、亡くなった作家Stieg Larsson氏と長年パートナーとして苦楽をともにしたであろう女性は、一切関与していないようだ。なんかそれも残念な話ですが。まあ、100%間違いなく断言できるのは、亡くなった作家のためではなく金儲けのための刊行であろうということだ。だって、そうでないなら、存在するといわれる未完原稿をないがしろにするわけないもの。そういう点では非常に、どこか素直に大歓迎する気持ちにはなりにくいが、まずは味わってみたいという誘惑には抗えないのも事実である。

 ともあれ。
 実際に発売された『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』を読み終わった今、確かな自信を持って言えることは、シリーズを読んできた方なら、この『4』を十分楽しめることは間違いなかろうということである。非常に面白かった。巻末の解説によれば、文体も非常にLarssonを思わせるもので、きっちりと勉強して書かれているそうだが、はっきり言って『ミレニアム』シリーズを読んだのはもうだいぶ前でそんなこと言われてもわたしには全然記憶にないし、そもそも翻訳で読んでいるので、わかりっこない。ただ、これも昨日書いたが、ちょっと場面転換は上手じゃないかも、とは思う。主体のキャラが変わったとき、すぐに物語の筋を追わず、その人物描写が若干長めに入るので、そこで流れが一瞬切れてしまう箇所がいくつもあるのは、おそらく誰でも感じるのではなかろうか。しかし、そんなことはどうでもいい。物語として面白ければ。で、実際のところ、非常に面白かったわけで、わたしとしては大満足である。

 おそらく、これまでの3部作を読まないで、いきなりこの作品を読もうとする人はまずいないであろう。いるとしたらよっぽど変な人だと思うな。ま、そんなこともどうでもいいので、あくまで『ミレニアム』3部作を読んでいることを前提に話を進めますが、明らかに、『ミレニアム』3部作は、まだ未完であったと誰もが感じているはずだと思う。あいつって結局どうなった? というキャラクターが一人、残っていたことを覚えているだろうか? わたしは明確に覚えていた。なので、絶対に今回の『4』では、そのキャラクターとの対決の話になるであろうと思って、最初の上巻のページを開いたのである。

 上巻は、とあるコンピューターサイエンスの天才の話から始まる。まだ一体、どんな話になるか分からない。また次に描かれるのは、我らが主人公ミカエル・ブルムクヴィストが所属する出版社の看板雑誌「ミレニアム」が、またもや存続の危機に陥っており、うっかり受けた資本提携先から、「ミレニアム」の誌面について横槍が入りそうだということが分かる。おいおい、せっかく資金を出してくれたハリエット(第1部のヒロイン)はどうなっちゃったんだよ? と思いつつも、現在の世界的な出版不況からすれば、そりゃ、雑誌だけでは出版社が生きていけないことは、嫌というほどわたしは承知しているので、この展開は、痛いほど良く分かる。ああ、「ミレニアム」もそりゃヤバイわな、と。増資を引き受けてもらって、その時は「経営には口出ししません、今まで通りやっていただければ」なんて口約束があっても、その後に、しっかりと経営に口出ししてくるなんてことは、残念ながら世には普通に起こることである。なので、主人公ミカエルが、「ミレニアム」を救うには部数を回復し、どうしても売上を伸ばさないといけないわけだが、残念ながら前3作でモノにしたスクープの栄光も落日のものとなり、やたらとバッシングにさらされてしまっていた。あいつは古い、過去の人だ、みたいな。
 そんな、もうしょんぼりな状態のミカエルに、冒頭のコンピューターサイエンスの天才と会って話しを聞いてみて欲しいという情報提供者が現れる。なんでも、天才はとある画期的な発明をなしている、が、ハッキングの被害にあった。それは間違いないことで、天才もそう言っているし、その天才が唯一認めている「凄腕ハッカー」もそう断言している、と。ミカエルは、まーたどうせ、与太話でしょうよ、と思って適当に話を聞いていたものの、その「凄腕ハッカー」なる人物が、「女」であり、「タトゥーとピアスだらけで、ゴスとかパンクとか、そういう感じでした。あと、がりがりに痩せていました」という話を聞いて、な、なにーーー!! ということになる。ここまで読めば、当然シリーズを読んできた我々も、な、なんだってーーーーー!? ですよね。わたしも大興奮。とうとう来た。我らがヒロイン、リスベット・サランデル様の登場ですよ!!!
 とまあ、ここまでの間に、実はもっといろいろな出来事があるのだが、ネタバレになるので書きません。いずれにせよ、ここから先はわたしはもう、ページをめくる手がどんどん加速していくわけです。そして、あの、シリーズ三部作では結局ほとんど出てこなかったアイツが、やっぱり黒幕であることが下巻ではっきりする。これはネタバレかも、とは思いましたがその人物に心当たりがある人なら、結構はじめの方、上巻の真ん中あたりでピンと来ると思います。

 しかし、きっちりこの『4』で、想像通りアイツとの対決が描かれたことは、ファンとしては大変嬉しい展開であったと思う。なかなか分かってるじゃあないか、とわたしとしてはこの作品を高く評価したい。ただ、結末は若干の、ほんの少しだけど、ここで終わり!? 感はある。まあ、確実に今後も描くためのヒキとしては非常にアリだし、事件自体はきっちりと、そして結構美しく終わるので、十分以上にお見事ではあると思う。こうなったら、早く次を出版していただきたいですな。予定では、次の『5』が2017年、『6』が2019年だそうで、まるで『STAR WARS』と同じ展開だそうです。
 また、映画の方も、シリーズ第1作目をせっかくDaniel Craigという現代最強イケメン007を主役としてハリウッドリメイクしたのに、その後のシリーズの映画化は全然進んでいませんが、どうやら次は、今回の『4』を映画化するらしいという情報も既に出ている。それはそれで、わたしとしては十分アリだと思う。『2』と『3』は明確に前編後編といった構成なので、長いし、シリーズとしては絶対に欠かせない物語が描かれているけれど、映画としてその部分を飛ばすことは、小説をちゃんと読んでいれば、という前提条件の下ではあるけど、アリですね。とはいえ、キャストとして、主人公ミカエルはもっとおっさんイメージなので、Daniel Craigだとカッコ良すぎるし、強そうに見えすぎると思うけどな。リスベットは、ハリウッド版のRooney Maraちゃんよりも、スウェーデン版のNoomi Rapaceさんの方がイメージに合っているとは思うけど、もう、今のNoomi Rapaceさんではダメでしょうな。歳を取りすぎてるので。↓こちらがスウェーデン版の映画の予告

 とまあ、わたしとしては非常に楽しい8時間を過ごせたわけで、今回大抜擢されて本作を書いてくれたDavid Lagererantzs氏を大いに賞賛したい。そりゃあまあ想像を絶するプレッシャーであったろうに、良くぞ頑張ってくれました。その辺のことは上巻のあとがきに結構書いてあります。
 また、どうでもいいのだが、今回の『4』のサブタイトルは、スウェーデン版オリジナルでは「われわれを殺さないもの」というものらしい。これは……要するに監視社会のことだろうか? いろいろ書くとネタバレになるのでやめときます。なお、「蜘蛛の巣を払う女」 というサブタイトルは、英語版のサブタイトルの翻訳ですね。ちなみに、第1作の「ドラゴン・タトゥーの女」というサブタイトルも、実は英語版のサブタイトルで、スウェーデン版のサブタイトルを訳すと「女を憎む男」という意味らしい。まさしく、リスベットの敵、ですな。

 最後に、既に読んだ人、これから読む人に、昨日も挙げた参考となるものを挙げておこう。
 冒頭の方に出てくる、リスベットとフランス・バルデルが大学で出会ったときの議論、あれを理解したい人は、これを観た方がいい。これを観た人なら、あのシーンの二人の会話がすんなり理解できると思う。映画として超傑作。わたしはかなり好き。
インターステラー [Blu-ray]
マシュー・マコノヒー
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2015-11-03

 それから、フランス・バルデルが研究していた内容を理解したい人は、これを読むとかなり具体的に分かると思う。まあ、本の内容としては、かなりつまらないけど、知識としては十分以上に人工知能の危険性を理解できるものです。
人工知能 人類最悪にして最後の発明
ジェイムズ・バラット
ダイヤモンド社
2015-06-19

 わたしは偶然、↑の映画も観てたし、本も読んでいたので、非常に本作を楽しめたし、フランス・バルデルが命を狙われる背景も実感として理解できた。
 また、このBlogを読んでいる人にはお馴染みのように、わたしはクソ映画オタであり、Marvel コミックのヒーローが大好きなわけです。本作『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』を既に読み終わった人なら、わたしが何を言いたいか、分かるよね? わたしは、敵が「サノス」と名乗っていると判明した時点から、もうリスベットのハンドルネームについて、まさか!? と思いました。そしてそれが的中したときは、もう大興奮でしたw

 というわけで、結論。
 『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』はわたしはもの凄く面白いと思います。たぶん、亡くなったStieg Larsoon氏の書こうとしていた作品とはまったくの別物だとは思う、けれど、もう二度と会えないと思っていたリスベットと、再び出会えた我々は、やっぱり幸せだと思います。シリーズを読んできた人は、是非とも今すぐ書店へGO!! でお願いします。以上。

↓ やっぱ、一度は行ってみたいですなあ……。
るるぶ北欧 (るるぶ情報版海外)
ジェイティビィパブリッシング
2015-02-25