わたしにとっての青春は、明らかに小学校から高校卒業・大学入学までの80年代だと思う。大学生から社会人になったばかりの90年代よりも、ずっと明確に80年代のほうがいろいろなことを覚えているような気がする。そんなわたしにとっては、『STAR WARS』で映画に目覚め、『ROCKY』や『RANBO』のSylvester Stalloneで育ったようなものだと言っても過言ではないわけで、非常に特別な想い入れがある。
 その、『ROCKY』シリーズの最新作とも言える作品が『CREED』である。

 わたしは、この映画のことを知って、最初の予告を見た時点で、これはすごい傑作になるという予感をひしひしと感じていた。そもそものタイトル『CREED』と聞いて、マジか、アポロの映画か!? とすぐに分からない人はまったくもって『ROCKY』愛のない人種であろう。だがわたしは、もうタイトルだけで大興奮である。クリードといえば、アポロ。それはコーラを飲んだらゲップが出るのと同じぐらい当たり前である。そして最初の予告で、アポロJr.と思われる黒人青年が、あの「星条旗パンツ」をはいて戦っている姿を観ただけでで、わたしは泣きそうであった。これ、絶対にロッキーが「これは……お前の親父さんから借りっ放しになってたモンだ。やっと返せる時が来たようだ」と手渡すシーンがあるに決まってる!!! という興奮した体で、激しく周りの人々に、この映画は絶対観ないとダメだ、と宣伝しまくったのだが、どうにもみなさんリアクションが薄い。そうか、そういう世の中なのね……と若干の失望と絶望を感じるに至ったが、まあ、実際、日本でわたしと同じくらい興奮した人は、きっと1000人もいないのであろう。折りしも、『STAR WARS』の新作が公開され、話題は完全にそっちに持っていかれてしまっており、もちろんわたしも、『STAR WARS』には特別な愛があるので大興奮したわけだが、一方で『CREED』の公開も、猛烈に楽しみに待っていたのである。おまけに、かの格付けサイトRotten Tomatosでも93%Freshという非常に高い評価である。これはもう、傑作確定じゃんか、とわたしの期待はいやがうえにも高まっていた。
 で。さっそく今日の初日に観に行ってきた。結論から言うと、超傑作!! とまでの絶賛は出来ないけれど、十分に期待に応えてくれたと思う。
 物語は、ほぼ予告で語り尽くされているので、おそらく上記に貼った予告を観ていただければ想像が付くと思う。そして、まあほぼ想像の通りだ。ひとつだけ、これは開始数分で明かされることなので、ネタバレだけど書いてしまうが、主人公は、アポロ・クリードの愛人の子、である。なので、「アドニス・ジョンソン」という名で、苗字も違う。たしかに、思い返せば、『ROCKY』の第1作、第2作目でのアポロの様子からすれば、そりゃあ愛人もいたんでしょうな、と思わせるスーパー・モテモテ振りだったので、この設定は十分許容できる。なにしろ、「アーイ・ウォンチュー!! アーーーイ・ウォンチューーー!!」と叫びながら、美女軍団を引き連れてリングに上がっていた男である。
 余談だが、わたしは実は年代的に、『ROCKY』第1作と第2作は、劇場では観ていない。劇場では『3』を中学生の時に観たのが最初なのだが、『1』および『2』はTVでしか観ていない世代なので(まだVIDEOレンタルさえない時代)、どうしてもアポロというと、日本語吹き替えの内海賢二さんの声を思い出してしまうが、とにかく、アポロといえば派手で「アーイ・ウォンチュー!!」である。そんな彼に愛人がいて、子供が出来ていたという設定は、まあ、アリだと思う。で、そんな「愛人の子」である彼は、父を当時の「ソ連人」ボクサー・ドラコにリング上でぶっ殺された時はまだ母親のお腹の中であったそうで、母親も出産後まもなく亡くなっているという設定だ。
 なので、事実上両親の顔を知らない子として、親戚をたらいまわしにされ、施設で育ち、喧嘩に明け暮れていたアドニス君(推定7歳ぐらいの子供)だが、ある日一人の女性が引き取りに現れる。その女性とは、アポロ・クリードという伝説の男の正妻・未亡人だった。あなたの父親は偉大な男だった。その血があなたには流れている。と、愛を持ってアドニス君を引き取り育てることにする。そして時は流れ、施設で殺伐とした幼少期を送ったアドニス君も、アポロ夫人に引き取られてからはきちんとした教育を受け、金融業界でスーツを着て真面目に働く立派な若者に成長する。だが、彼に流れる血は、常に戦いを求めており――、という流れである。
 まあ、強引といえば強引な物語だが、『ROCKY』愛に満ちているわたしにはまったく問題ナシである。ただ、観終わった今、やっぱりどうしても文句をつけたくなってしまう点がひとつだけある。
 それは、かなりアドニス君が「リア充」であるという点だ。まったくもって、「ハングリー」じゃあない。なので、彼が戦う理由が、アポロの血がそうさせるというだけでは、ちょっと物足りないのだ。まず第一に、金に困っていない。そして、生まれ育ったLAから、ロッキーのいるフィラデルフィアに引っ越してきても、即、彼女が出来る。ま、これはモテないわたしのひがみ100%であろうことは否定できないが、うーん、金にも困ってないし女にも困ってない、果たしてこういう男が強くなれるんだろうか? という点は、ちょっと疑問である。
 わたしは、日本のボクシングには余り興味はないが、WOWOWで放送される「Excite Match」は結構好きで、世界戦はかなりの数を観ている。そして、その解説をやっているジョー・小泉氏(知らない人はWikipediaでも読んどいてくれ)の、スーパーおやじギャグ交じりの解説の大ファンなのだが、本作のパンフレットには、そのジョー・小泉氏が解説を書いてくれている。曰く、「親子2代のチャンプはほとんどいない。なぜなら、ハングリーな境遇から王座を獲得した男は、同じことを息子にさせたがらないし、ボクサーの道を選んだとしても、偉大な父の元で裕福な暮らしをしていた男で大成した例は非常にまれ」だそうだ。なので、今回のアポロJrことアドニス君のリア充ぶりは、確かに幼少期につらい思いはしたとはいえ、ちょっとどうなんでしょう、という気はしなくもない。また、ボクシングシーンも、そりゃ映画だから仕方ないけれど、ここまで食らったら普通はもう立てないでしょ、というものであるので、純粋ボクシングファンからすれば、ちょっと文句は言われそうではある。
 後もうひとつ、強いて文句をつけるとしたら、アポロの元トレーナーで、『ROCKY BALBOA』(邦題;ロッキー・ザ・ファイナル)で強い味方になってくれたデュークが出てこないのはちょっぴり淋しいっすな。

 しかし、である。わたしはやっぱりこの映画を褒め称えたい。
 わたしがこの映画で賞賛したいのは、老いたロッキー・バルボアを見事に演じきったStalloneと、もう一人、監督のRyan Cooglerである。
 まず、Stalloneは、わたしとしてはキャリア最高の演技だったのではないかと思った。もちろん、若きころの『ROCKY』、『ROCKY2』も最高だったけれど、決してそれに劣らない、素晴らしい演技だった。元々Stalloneは脚本も書くし監督もやる、なにげに頭脳派の男だ。演技も、実際うまかったのだが、あまりにもマッチョを売りにしていたので正当な評価を得ていないと思うが、例えば『RANBO』の1作目だって、ものすごく渋い味わいのある演技振りだった。冒頭の、友を訪ねたものの既に亡くなっていて、一人とぼとぼと寒い中を歩くシーンなど、実にいい演技だった。今回も、人生の天国と地獄を十分に味わいきった男を見事に演じていたと思う。だから、どうか彼に、アカデミー助演男優賞をあげて欲しいと心から願うばかりである。素晴らしかった。
 そしてもう一人、監督Ryan Cooglerだが、今回は脚本も1986年生まれのこの男が書いたようだ。1986年生まれというと、1984年公開の『ROCKY4』の頃にはまだ生まれてもいない野郎である。この男は2011年に大学院を卒業して、2013年に『Fruitvale Station』(邦題:フルートベール駅で)という映画でデビューするのだが、何でも、大学在学中から本作の企画を立て、デビュー作の『Fruitvale Station』の準備中に、Stalloneに本作の売り込みに行って、その時は、パンフレットのインタビューによれば「ノー、ノー、ノー」と言われて断られたらしい。しかし、デビュー作『Fruitvale Station』の出来も良く、1年か1年半後に、Stalloneも「突然、天才的なアイディアだ、アレを断るなんて、なんてオレは心が狭かったんだ」と反省し、OKをもらうに至ったそうである。わたしも、実際アポロの子供をロッキーがコーチする、という基本プロットは天才的なアイディアだと思う。
 そして、わたしがこの男をすごいと思うのは、その演出である。よーく観ると、結構長回しをポイントポイントで使っていて、驚いたのがアドニス君のプロデビュー戦である。なんと全編長回し。ニュートラルコーナーから出撃して勝つまでのおよそ4~5分ほど、カメラを止めていない。また、クライマックスの戦いも、控え室から、リングに上がって対戦者が出てくるまで、ここもカメラを止めない長回しである。だから、まあおそらくは役者陣も、NGは出せないと緊張しますわな。その緊張感が、まさしく試合前のボクサーの緊張感と見事にシンクロしているようにわたしには観えた。これは相当なリハーサルと計算がないと絶対に出来ないことだ。
 最後にもう一つ。きっちりと、あの、誰もが知っている「ロッキーのテーマ曲」を、ここしかない!! というタイミングで見事に使っている点も、お見事であった。この男、若いくせによーく「わかってる」野郎ですね。Ryan Coogler(ライアン・クーグラーと読む)。この監督の名前、覚えておいたほうがいいと思う。こいつ、きっと近い将来、すげえ作品を撮ると思うな。デビュー作の『Fruitvale Station』は観ていないので、ちょっと早いとこ何とか観る機会を作ってみようと思う。
 なお、主演のアポロJrを演じたMichael B Jordan君は、その『Fruitvale Station』にも主演で出ているそうで、その後でわたしが絶賛している『Chronicle』や、今年公開されてさんざんな評価を受けてしまった『Fantastic 4』に出演したわけだが、その彼も『Fruitvale Station』での演技が絶賛されているようなので、これはもう、なんとかして観るしかないですな。
 また、ファイトシーンがちょっとアレかも、とは書いたけれど、今回のアポロJrと対戦する相手は、全員が現役ボクサー・引退した元ボクサーといった本物ぞろいなので、その点では見ごたえ十分である。ジョー小泉氏がそう言っているので、間違いないと思います。はい。

 というわけで、結論。
 『ROCKY』が好きなら迷わず劇場へGO!! そうでもない人でも、カッコイイ男の生き様を観たい人には強力におススメします。とにかくStallone隊長が渋くて素晴らしい。あと、星条旗パンツなんですが、劇中ではわたしが想像していたよりももっと感動的にJrに託されるシーンになってましたよ。以上。
 
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東宝
2014-09-17