今日は、昨日に引き続き、もうひとつチャンピオン連載中の漫画を取り上げる。単行本の4巻が発売になった『鮫島、最後の十五日』である。今、わたしが一番好きな漫画と言って差し支えない。熱く、泣けるのだ。わたしにとっては、現在のチャンピオンの筆頭漫画である『弱虫ペダル』より上である。もちろん、『ペダル』も非常に面白いけどね。

 この漫画は、相撲漫画である。それも、プロ、学生ではない。幕内力士である主人公・鮫島鯉太郎の、最後の場所である十五日間が描かれる、ようである。なお、この漫画は、以前このBlogでも書いたとおり、鯉太郎の入門から序二段までを描いた『バチバチ』、そして幕下での死闘が描かれた『バチバチBurst』という前のシリーズがあるので、それを読んでいないとダメだ。
 主人公、鮫島鯉太郎の父親は、元大関・火竜である。しかし火竜は、悪タレと呼ばれるほど素行が悪かったのだが、相撲に関しては常に全力で、いよいよ綱取りが見えてきたところまで相撲道を精進してきた。しかし、肝心の綱取り直前に土俵の外での一般人との喧嘩で角界を追放されてしまい、妻とも離婚し、酔った挙句に事故で亡くなる。鯉太郎は、そんな父親を否定しつつも、父親が常に言っていた「死んで生きれるか!」という言葉を胸に秘め、ヤンキー高校生ながら巡業の力士に挑戦し、失神しながらも幕下力士に勝ちを得る。その戦いが空流部屋の親方の目に留まり、入門に至るが、当然プロの力士には到底叶わないながらも、相撲教習所で同期のライバルたちに出会い、切磋琢磨していく。序の口での優勝、序二段では相星で同部屋の兄弟子との戦いとなるが、鯉太郎の所属する空流部屋の3人の兄弟子たちの模様も熱い。鯉太郎は、そんな熱い兄弟子の背中を見て成長していく。第1シリーズ『バチバチ』のラストは、十両昇進が確定した2人の兄弟子同士の幕下優勝を賭けた戦いが描かれる。阿形・吽形という四股名を持つ二人の兄の対決は、そこに至るまでのさまざまな力士との因縁も混じりあって、もう号泣モノだ。鯉太郎は、二人の兄の戦いを魂に焼付け、『バチバチ』は終わる。
 続く、第2シリーズの『バチバチBurst』では、幕下に上がった鯉太郎と、入門時から因縁のあった、天才と呼ばれる力士・王虎との戦いがメインだ。王虎の父は、大横綱・虎城で、鯉太郎の父・火竜の兄弟子でもある。この、父親世代の因縁も『Burst』では描かれ、最後は幕下優勝を賭けて鯉太郎と王虎が戦うのだが、やっぱり『Burst』でも、教習所時代の同期の活躍も丁寧に描かれ、最後の鯉太郎VS王虎の戦いも熱く描かれている。

 そのような、幕内に上がるまでが非常に丁寧に描かれているので、最終シリーズ『鮫島、最後の十五日』は、そのタイトルからして非常に緊張感がある。「最後の十五日」とは一体どういうことなのか。鯉太郎はまさか、あしたのジョー的な真っ白な最期を迎えることになってしまうのだろうか? この最終シリーズは、最初の第1話からして期待をあおるもので、 毎週全く目を離すことができない。どうやら、本当に十五日間の戦いを描くようで、1巻では初日の模様が描かれる。相手は、鯉太郎が同期の中でも同じソップ力士(痩せ型の力士を相撲用語で「ソップ」という)として、そしてその体型から、お互い「相撲に選ばれていない」力士として、最も多くの時間を共有してきたライバル兼親友の石川との戦いだ。飛天翔と四股名を改めた石川の熱い思いを真正面から受け止め、「俺の全部をくれてやる」鯉太郎。もう、この初日からもう泣ける話になっている。
 鯉太郎は言う。「俺は相撲に選ばれちゃいない。関取ってのは150kg超えの化け物そろいだ。オレがここまで必死に作り上げた体も100kgちょい・・・気を抜けは直ぐに痩せちまう。太れねえってのは・・・致命的なんだ。幕内に上がって・・・相撲が楽しくなる一方で・・・土俵に上がる前・・・いつも覚悟するんだ・・・この体がいつまでもつのか・・・これが・・・最後の土俵かもしれねえって。だからよ・・・ムカつくだろ・・・その最後の相手が全力じゃなかったら・・・許せねーだろそんなの!」
 だから、鯉太郎は、自分はもちろん全力を出すし、相手にも全力を求める。もうね、まったくもって男だぜ鯉太郎!! しびれるね、本当に。最高にカッコイイ。
 続く2巻と3巻では、2日目の取組が描かれるのだが、衝撃の、まさかの展開が待っていた。空流部屋という大切な居場所を賭けた鯉太郎の想いもまた、泣けてくる。だいたい、2日目の取組だけで単行本2冊を必要とする内容の濃さだ。この日に至るまでの5年間の因縁が丁寧に描かれる。ホントにね、毎週困るんだよね。読んだそばからもう、次の週が待ち遠しくなってしまうから。
 そして、今回の新刊である4巻では、3日目と4日目の前半が描かれる。3日目は、とある小学生の話だ。小学校でも家でも居場所を失った少年に、鯉太郎は戦う姿を見せることで、生き方を教える。その、小賢しい小学生は言う。「何でアナタはお相撲さんやってるんですか? どう見たって選択した競技間違ってません? その体でお相撲取ればどうなるか予測着くでしょ・・・」
 体の小さい鯉太郎の、毎日の稽古を見ての、素朴な感想だ。それに対して鯉太郎はこう答える。
「予測やら将来やら・・・ガキのくせにうるせー奴だな・・・好きで選んだこの道だ・・・今を必死で生きねー奴に、未来は近づいてこねーだろ」
 そして小学校で友達のいない少年は言う。
「まぁ・・・来年は中学受験だし・・・あんな低俗な奴らともさよならだ・・・将来笑うのは僕の方さ・・・」
 それに鯉太郎が返す言葉は、非常にカッコイイ。
「まぁ・・・お前が将来どーなろーがいいし、今のお前の考えを否定もしねーけどよ・・・人の人生に口出せるほど俺は偉くねーし余裕もねーしな・・・でもよ・・・必死こいてる奴を笑う奴に、大した奴はいねーんだよ」
 当然、こう言われた小学生は、なんだよバカーと帰ってしまうが、鯉太郎のことが気になる少年は、やっぱり空流部屋に顔を出す。2日目の取組が終わって帰ってきた鯉太郎は、2日目だってのにもうフラついている。心配になった少年は、その有様で十五日もつんですか、と聞く。鯉太郎は、笑顔でこう答える。
「さぁな・・・そんな先のことは知らねーよ。一番一番に己の全部をくれてやる・・・それが俺の相撲だ。じゃねーと勝てねーからな、俺は・・・。チケットやるから見に来いよ。教えてやるよ。俺が相撲を取る意味を・・・」
 そして鯉太郎が見せる、バチバチの戦いに、少年の心は動く。もうこの流れは、本当に美しくカッコイイ。何度読んでも泣けてくるんだよな。この最終シリーズ『鮫島、最後の十五日』では、随所に鯉太郎が満身創痍であり、限界が近いんじゃないかという姿が描写され、もう本当に心配でならない。4日目は、幕内にあがったばかりの最重量級外人力士が相手だ。巨漢相手であっても、ソップの鯉太郎は、当然全力でブチかますつもりでいる。しかし、相手の外人力士にはなにやら心の問題があるようで……というところまでが4巻だ。

 実のところ、わたしはチャンピオンを毎週買って読んでいるので、この戦いの結末も知ってはいる。だが、この『バチバチ』『バチバチBurst』『鮫島、最後の十五日』という一連の漫画は、勝負の結果ももちろん引き込まれる面白さがあるのだが、それと同等かあるいはそれ以上に、勝負に至るまでのバックグラウンドが非常に濃密で、その背景があるからこそ、勝負自体も面白いものになっている。相撲は、普通の立会いは60秒もない。その、わずか1分に満たない時間をここまで濃密に描ける佐藤タカヒロ先生はすごいと思う。なお、この漫画は、ためにし女子数名にも読んでもらったのだが、軒並み好評であるので、女子にもお勧めしたい。A嬢は特に気に入ったらしく、『ペダル』よりも面白いと言ってくれている。鯉太郎(のような男)と結婚したいそうです。

 というわけで、結論。
 『鮫島、最後の十五日』は、どう完結するのか全く予断を許さない展開だが、わたしの中ではもうすでに、傑作の予感がしているというか、既に傑作認定している。なので、秋田書店の方には、どうかお願いしたい。頼むから、最後まで描き切らせてほしい。打ちきりなんてことになったら、ホント怒るよオレ。電子と紙の単行本、両方を買って応援するから、きっちり最後まで描いてほしいと、切に願う。

 ↓ 佐藤タカヒロ先生のちょっと前の作品。柔道漫画。もちろん、応援のために全14巻電子でまとめ買いしました。やっぱり非常に面白かった。