おそらくこの先も、何度も書くとは思うが、最初に言っておく。
 わたしが一番好きな小説家は、この地球上ではダントツ1位でStephen King だ。

 よく、映画が好き、だとか、だれだれ先生のファン、とかいう話になると、たいてい「どの作品が一番好き?」 と聞かれるものだが、そんなこと聞かれても困る。だって、全部好きなんだもの。
 もちろん、大ファンの私でも、ちょっと……こいつはイマイチかのう……と思わんでもない作品もそりゃあるが、とにかく面白い作品ばかりで、1番、は何だろうな……やっぱり『Dark Tower』シリーズになるのかな……でも、最近の作品では『Under the Dome』も『11/22/63』も、もちろんのこと、すっごい面白かった。

 ともあれ。
 Stephen Kingが偉大なる作家であることは、大方の日本の小説家の先生方も認めるところではないかと思う。キングファンを公言する作家は、わたしが知る限りでもけっこういるし、今回わたしが取り上げる『Dr.Sleep』も、読売新聞紙上で宮部みゆき先生がレビューを書いていたし、有栖川有栖先生も日経で書評を書いていたのを読んだ。両先生とも、基本的に好意的な書評だったと思う。
 なお、わたしがいつもチェックしている、わたしの数万倍のスーパーキングファンの方が運営してる『スティーヴン・キング研究序説』というサイトがあって、そこをチェックしておけば、新刊情報を逃すことはないので非常に頼りにしてます。勝手にリンクしていいのかわからないので各自Google検索でもしてくれ。

 Stephen Kingのすごいというか恐ろしいところは、毎回ページ数がかなり多い作品なのに、年に2冊近いペースで作品を発表し続けていることだ。これは、日本の出版界の人間、特に文芸系の人間ならば、そのすごさが実感できることだと思う。
 もちろん、Stephen Kingの執筆スタイルの詳細を知らないので、こういう適当なことが言えるが、ひょっとしたら、日本の週刊連載を持つ漫画家のように、ものすごいブレーンというかチームというかスタッフがごっそりいて、分業がなされているからこそ、できるのかもしれないし、ひょっとしたらKing自身が書いてるのはプロットだけとか、そんな裏事情があるのかもしれない。知らないけど。それでも、どんな執筆体制を構築していようとも、あのクオリティの作品を次々と発表するその「作家魂」は、世界一レベルだとわたしは思う。
 この背景には、Kingが1999年6月19日に交通事故(普通に散歩してたら車にはねられた)に遭い、瀕死の重傷を負って、本当に死にそうになり、生還したことが影響している、と本人が『小説作法』というエッセイの中で言っている。
 超適当に凝縮して言うと、要するに、「この世界って、マジでいつ死ぬかホントわかんねえんだな。だから、とにかく毎日書きまくって、心残りのないようにして毎日を過ごさないと、ホントにダメなんだな。(なので、20数年間放っておいた『ダーク・タワー』シリーズを最後まで書き抜いて完結させよう)」って思ったらしいです。
 ↓ この本。
書くことについて (小学館文庫)
スティーヴン キング
小学館
2013-07-05


 あれっ!? わたしが持ってるのは『小説作法』っていうタイトルの四六判の単行本なんだけど、いつの間にか小学館文庫から出てたのか。しかもタイトル変わってるし。原題は『On Writing』だから、まあ、このタイトルでいいか。小学館文庫か……なかなか売ってねえんだよな……。Joe Hill(※Kingの息子で恐ろしく才能のある作家。彼の作品もKing並に相当面白い)の作品探すのに、いつも苦労するよ……。

 というわけで、とにかく前振りが長くなったけど。『Dr.Sleep』。
 今回、King は、40年近い作家生活の中で、初めて自作の<続編>というものを書いてくれた(注:『Dark Tower』シリーズは長~い1本の作品としてカウントするので、ノーカン)。今回の『Dr.Sleep』は、かの『The Shining』の30年後の物語。あの惨劇を生き延びた、「ダニー」少年(当時5歳)が、なんとアル中のおっさんとなって登場する! というあらすじをアメリカのサイトで知った時、わたしの感激はいかほどだったことか! もう、それだけで面白いにきまってるじゃねーか! と当時の部下に、不条理にキレたものだ。アメリカでの発売が2013年9月。英語でもいいから読むか? と悩んで放置して約2年。やっと日本語版が出てくれた。ありがとう、白石朗先生。あなたの翻訳は素晴らしいです! 発売日当日は興奮しながら丸善御茶ノ水に向かったわたしであった。
 
 物語は、『The Shining』の直後から始まる。先に言っておくが、キューブリックによる映画の『シャイニング』は、別に嫌いじゃないけど、明らかに別物なのでどうでもいいとして、原作の『The Shining』は読んでおいた方がいい。宮部みゆき先生のレビューでは、別に読まなくていい、と書いてあったけど、やっぱり、読んでおいた方がいいと思う。
 映画しか見ていない人の方が多いだろうから、ひとつだけ、重要なキーワードを説明しておくと、そもそもタイトルの『The Shining』とは、日本語版の小説では「かがやき」と訳されている。そう、『The Shining』という小説は、「かがやき(=The Shining)」と呼ばれる特殊な能力を持つ少年、ダニーの物語なのだ。
 なお、「かがやき」能力は、予知だったり、テレパシーだったり、若干の念動力だったり、ちょっとした超能力のようなものと思っていい。やけにカンがいいだけ、とか、「かがやき」能力の程度はどうも個人差があるようで、一定ではないのもポイントの一つ。
 映画しか見てない人は、えっ!? そうだっけ!? と思うかもしれない。けど、そうなのです。
 「かがやき」能力を持つがゆえに、かのオーバールックホテルに棲みつく幽霊どもに悩まされ、しまいには父親が幽霊に憑依されてひどい目に合う、というのが、前作『The Shining』のあらすじだ。
 
 そして今回のお話は、中年になったダニー元少年(本書では「ダン」と呼ばれている)と、ダニーがアル中から立ち直るきっかけとなった出来事が起きたころに生まれた少女と、そして、今回新たに登場する謎の集団”Ture Knots”と呼ばれるSuper Naturalな、人間の精気(?)を吸う事で生きながらえる不老不死の存在の3つのストーリーから成っている。
 そしてその3つの流れが合流したとき、物語は一気にクライマックスへ加速する――! みたいな話だ。

 どうやら、Web検索なんぞをしてみると、今回の『Dr.Sleep』は筋金入りのキングファンからすると「敵が弱い」とか「バトルがあっさり終わっちゃう」とか、ご不満な方が多いようだ。わたしも筋金入りのつもりだが、わたしとしてはまったくそんな風には感じず、非常に楽しめたのだが……。確かに、たいていのKing作品では、敵が恐ろしく強大だったり、狡猾だったり、とにかく「邪悪さ」がハンパなく、たいていの主人公は、もう本当にひどい目に合う。文字通り、体も精神もズタボロにされる場合が多い。だからこそ、この主人公マジで大丈夫か? とハラハラドキドキで読めるわけだが、一方で、それ故に最終的に勝利するときは、あれっ!? とあっさり勝って逆転してしまうこともある。
 
 確かに、今回の敵である”True Knots”は、超邪悪だけど、歴代のKing作品の敵の中ではそれほど強くはない。今回、白石朗先生は、かれらを「真結族」と訳してくれた。knot=結び目のことね。ネクタイの結び方でウィンザーノットとかあるでしょ? あのknot ね。さすがは白石先生、非常にいい訳だと思う。読み方的にも「血族」ともかけているんだろうと思う(しんけつぞく・真の血族、みたいな)。

 それはともかく、彼ら「真結族」は、良くわからないが少なくとも1000年ぐらい前には存在していて、人の精気を吸って生きているわけだけど、面白いのが、どうやら「かがやき」能力を持っている人間の精気が、とにかく濃密で、美味らしいんだな。これってアレか、JOJOでいうところの柱の一族じゃんか! と、当然私としては盛り上がるわけですよ。(注:柱の一族は人間を吸収してエネルギーとするが、普通の人間よりも、高カロリーな、石仮面をかぶって吸血鬼化した者の方が美味いというあの設定ね)
 で、「かがやき」能力をもつダニーと、そしてダニー以上の非常に強力な「かがやき」能力を持って生まれたアブラという少女が、「真結族」にロックオンされるわけだ。しかも、人間の精気は、とてつもない苦痛を受けているときが一番美味いらしく、ものすごい拷問をするんだな。まあ、極めて邪悪ですよ、本当に。読者としては、やっべえ、アブラ超ピンチ! うしろうしろ! 逃げて―――!! とか、もうドキドキなわけ。

 ダニーとアブラの交流も読みごたえがあるし、戦い方もちょっと変わっていて非常に面白い。また、ダニーがDr.Sleep と呼ばれるようになるいきさつも、非常にいい。
 そして、最後の戦いでは、なんとあのオーバールックホテルで死んだダニーの父、ジャック・トランス(※映画のジャック・ニコルソン)も深く関係してきて、最後はちょっと泣けたね。

 あと、かなり冒頭の方で、『The Shining』の惨劇直後の少年ダニーが、今後の生活で幽霊に悩まされないために、「かがやき」能力の先輩である老人(※前作『The Shining』で最終的にダニーと母を助けてくれたコックのおじいちゃん。映画にも出てくる)から習う、とある方法があるのだが、そのやり方が、小説はすげえ面白いけど映画版は超B級映画の代名詞となってしまった『Dreamcatcher』に出てくる「頭の中の書庫」と似ている点も、わたしとしては面白いと思った。
 曰く、頭の中に金庫を思い浮かべて、そこに幽霊どもを閉じ込めて、厳重に鍵をかけるのじゃ、そして頭の中の倉庫に放り込んでおけばいい、みたいな感じ。
 この「頭の中の書庫」のモチーフは、ほかのKing作品でも出てくるし、最近では映画『INTERSTELLER』で天才Christopher Nolanが描いた「多次元世界」のイメージになんとなく似てるような気もする。ああ、そういえば、同じくNolanの『INCEPTION』ではまったく同じ表現がされてたね。頭の中に入って金庫に保管されている情報(=記憶)を盗む、冒頭の方のシーンはまさにこれだ。
 

 というわけで、結論。
 『Dr.Sleep』は超面白かったです。ぜひ、読んでいただきたい。
 もちろん、『The Shining』を先に読んでから、ね。

↓わたしとしては、やはりこいつを読んでいることが必要条件だと思う。映画は、別にどうでもいいや。
シャイニング〈上〉 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
2008-08-05

シャイニング〈下〉 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
2008-08-05