2017年02月

 というわけで、毎週月曜日は週末映画興行データです。
 つーかですね、今日はアカデミー賞の発表があり、WOWOWオンデマンドの動画を観ながら仕事をしていたわけですが、『LA LA LAND』が監督賞・主演女優賞・撮影賞・美術賞・作曲賞・歌曲賞を受賞しました! 作品賞はまさかの発表ミスで場内騒然の幻となってしまいましたが、残念でしたねえ……!! わたしも土曜に劇場で観てまいりましたが、まあ、とにかくエマ・ストーン嬢が可愛いす! わたしはこのBlogタイトルにもある通り、「ミュージカル」が大好きなので、もう最高でありました。ただ、まあ、ミュージカル慣れしてないと、どうなのかなあ……いや、とにかく観て下さい。かなり劇場は混雑しておりました。たぶんこの映画は余裕で10億超えますね、きっと。作品賞は取れませんでしたが、アカデミー作品賞受賞作は、日本においては2011年の『英国王のスピーチ』(最終18.2億)以来ずっと売れてないわけで、受賞していればそれ以来の10億越えになるかもしれなかったのになあ。最終的に『ラ・ラ・ランド』がどのくらいの大ヒットになるか、さっそく初週の数字を見てみましょう。

 では、いつも通り、興行通信社の大本営発表をメモしておこう。

 1位:『ラ・ラ・ランド』が1位! 土日で4.16億稼ぎ、金曜公開なので、3日間合計では5.68億も稼いだそうです。久しぶりすね、まったくのオリジナル作品がここまでヒットするのは。この勢いなら10億楽勝、20億もあり得るかも、な状況だと思います。作品賞を逃したのは残念ですが、大ヒットになってよかったすね。しかしこの映画は、誰にでもウケるのかなあ……男と女で相当感想が違うような気もするけど、どうなんでしょうか。
 2位:『ソードアート・オンライン―オーディナル・スケール―』が今週も頑張った! 9日間累計で8~9億ほどと見積もる。数字のヒントが少ないので、かなり自信はありませんが、10億を超えてたら絶対ニュースになるはずなので、チョイ手前あたり、と推理します。この分だと最終15億以上はカタイすな。
 3位:『相棒―劇場版IV―』が16日間で12~13億ぐらいと見積もる。こちらもあまり数字は自信ないす。確かどこかで10億を超えたというTweetを先週見かけたので、週末分を含めて12億ぐらいかな、と。ソードアートも相棒も、もうチョイ上に行ってる可能性は十分あります。
 4位:『xXx トリプル・エックス―再起動』が公開土日で1.45億ほどだそうです。わたし、The ROCKことドウェイン・ジョンソン氏は大好きなんすけど、ヴィン・ディーゼル氏はちょっと……苦手っす。なのでほぼ興味なし。
 5位:『一週間フレンズ。』が9日間で4~5億ほどと見積もる。どうだろう、平日稼働次第では±1億ぐらい誤差はありそうな予感。
 6位:『サバイバルファミリー』が16日間で6~7億ほどと見積もる。10億超えるか微妙ラインか?
 7位:『君の名は。』が27週目にして、ワンランクUPの7位。もう累計224億~225億ぐらいなんすかね。間違た! 244~245億ぐらい、で、正解は244.6億だそうです!
 8位:『素晴らしきかな、人生』が公開土日で1億行ったかどうかぐらいでしょうか。ところでこの映画、名作『It's a Wonderful Life』の現代リメイクなんですか? 原題は『Life, can be wonderful』というようですが、なんか全然情報ないし、WARNERの公式Webサイト見てもさっぱりわからねえ。そういや、やけにTVスポットは観たような気がしますね。
 9位:『キセキ―あの日のソビト―』が30日間合計で13~14億ぐらいと見積もる。なんとか15億には届きそうすね。
  10位:『ミス・ペレグリント奇妙な子供たち』が26日間合計で10億超えたぐらいじゃないかと見積もる。ま、洋画としては十分ヒットと言えるでしょうな。

 とまあこんな週末だったようです。
 しかしなあ……『ラ・ラ・ランド』はどうなんでしょう。おとといの記事にも書きましたが、結構意見は分かれそうな気はします。特に若者にはどうなんだろう。おまけに、男と女では、かなり感想が分かれるような気がするんすよね。まあ、わたしはミュージカルが大好きだし、エマ・ストーンちゃんがウルトラ可愛かったので、大変楽しめました。おとといの記事には書いてませんが、どうやらオープニングは4カット、そしてわたしが気に入ったタップダンスのシーンは、完全1発撮りのワンカットで、6テイク撮影して、採用されたのは最後のテイク6だそうです。今日、WOWOWの放送でカメラマンがそう言ってました。 撮影がものすごく高い技術で、その点も超見どころっすよ、映画オタとしては。その辺のすごさは、普通の人には感じられることなのか、よく分からんす。

 というわけで、結論。
 今日はアカデミー賞の発表があり、『ラ・ラ・ランド』は作品賞は取れず、でした。でも、監督賞も主演女優賞も取れたからいいの! そして日本でも大ヒットスタートです! 以上。 

 いきなりだが、↓この写真を見て、何と書いてあるか読めるだろうか? そして、この碑がどこにあるか知っている人はいるだろうか? いや、そりゃあまあいるだろうけど、たぶん非常に少ないのではないかと根拠なく思う。
aterui02
 阿弖流為とは、アテルイ、母禮は、モレ、と読む。そして場所は、京都の清水寺の境内だ。わたしがこの写真を撮ったのは、ファイルのタイムスタンプによれば2002年の2月のことのようだ。懐かしい……早朝のまだ誰もいない静かな清水寺を一人訪れて、まさかこの場に阿弖流為の碑があるとは知らなかったわたしは、へえー!? と興奮して撮影したのである。
 そしてなぜ、わたしが阿弖流為という人物を知っていたかというと、これがまた我ながら変化球で、わたしの大好きな原哲夫先生の漫画に、『阿弖流為II世』というとんでもない漫画があるからだ。

 ↑これっすね。内容は、まあとにかくトンデモストーリーで、ギャグとして笑って読むのが正しいと思うけれど、蝦夷の英雄、阿弖流為が現代によみがえってさあ大変! というもので、石原慎太郎氏にそっくりなキャラが都知事として出てきて、壮絶にぶっ殺される痛快なシーンが忘れられない傑作である。
 ま、それはともかく。きっかけは原哲夫先生の漫画ではあったけれど、わたしは子供のころから気になったことはとりあえず調べてみる男なので、原哲夫先生の漫画を読んだ後で、果たして一体、阿弖流為なる人物とは何者なんだろうか、つか、実在の人物なの? と実は全然知らなかったので、調べてみたことがある。すると、どうやら奈良時代~平安時代にかけて、蝦夷(えぞ、じゃなくて、えみし)の武者として、朝廷との壮絶な戦を闘いぬいた勇者であるらしいことが判明した。そういうわけで、2002年の2月に一人で冬の京都を旅している時に、清水寺で偶然、上に貼った碑を見かけて大興奮、となったのである。

 そして写真を撮ってから15年が過ぎた。 わたしは阿弖流為のことをすっかり忘れていたのだが、先日、わたしが愛する宝塚歌劇において、そしてこれまたわたしが一番応援している礼真琴さん主演で、とある演目の発表があったのである。そのタイトルは――ミュージカル『阿弖流為―アテルイ―』といい、そのまんまの、まさしく阿弖流為であった。もう夏が待ちきれねえぜ! とわたしは現時点ですでに相当テンションが上がっているわけだが、ちょっと待て、オレ、阿弖流為といっても、ちゃんと知ってるのは原哲夫先生の漫画(しかもトンデモストーリー)だけじゃん、劇団☆新感線の芝居も観てないし、NHK-BSでTVドラマ化された作品も観ていない。このままじゃマズいんじゃね……? という気がしてならないので、では、基本の原作小説から読んでみようという気になり、高橋克彦先生による『火怨 北の耀星アテルイ』を買って読んでみることにしたのである。


 そして、読み始めた。そしてどんどん熱くカッコイイ男たちに夢中になり、大興奮のうちに読み終えたのである。ズバリ、ラストはもう、泣けて仕方がなかった。金曜日の電車の中でラスト10ページぐらいを残して終わり、我慢できず会社に着いてコートも脱がず読み、読み終えたわたしはもう、涙と鼻水でとんでもないことになった。いやあ、最高です。ホント面白かった。これは登場キャラクターも多くて、さながら三国志や水滸伝的なので、礼真琴さんのミュージカルを観る前に予習しといてよかったわ、と心から満足である。ちなみに2000年に吉川英治文革新人賞を受賞した作品らしいですな。これ、愛する礼真琴さんが主人公・阿弖流為を演じるわけだけど、超泣けるものになるんじゃないかと、早くも傑作の予感がしてならないすな。
 で。物語は、西暦780年の第2期蝦夷征討から、803(?)年までの23年にわたるお話で、非常に興味深く、小説としてももちろん読んでいてワクワクするような、実に上質な作品であった。
 現代の我々はきっとほとんどが知らないことだろうが(偉そうに言うわたしも知らなかった)、794ウグイス平安京、でお馴染みの、平安京(=京都)へ遷都するまでは、都(=天皇の住んでいるところ)は、平城京にあり、要するに奈良、である(※正確に言えば、平城京から784年に長岡京に遷都して、そのわずか10年後に平安京に遷都)。だから「奈良時代」と呼ばれているわけだが、そのころの東北地方は、朝廷の権力のあまり及ばない、ほぼ異国であった。そしてその地に住む「蝦夷(えみし)」と呼ばれる人々は、都の人から見たら獣同然の、人に非ざる存在として認知されていたのである。
 本書によれば、朝廷が蝦夷征伐を意図した理由はいくつかあって、まず、そのころ奈良の大仏などの建立により、「金」(かね、じゃなくてGOLDの金)が欲しかったこと。そして当時の東北地方には金鉱がいっぱいあったことが挙げられている。また、上記のように2回も遷都をすることで、京の人々は疲れて朝廷への忠誠が薄れかけていたため、蝦夷という外敵を明確に設定して、それをもって人心を一つにまとめようとしていたこと、などが挙げられている。 
 そして、この時代はには、まだ、いわゆる「武士」は存在しない。武士とは、要するに職業軍人である。だから朝廷軍の兵士たちは、きちんとした軍事教練を受けていない、ただの平民が徴募されたもので、ただの寄せ集め部隊であるし、司令官もただの貴族が役職として任命されているだけである。 ただし、数は膨大で、万単位の兵力で蝦夷に攻めあがるわけで、いかに素人軍団と言っても蝦夷からすれば十分以上の脅威だ。
 こういう状況なので、物語は、いくつかの氏族からなる蝦夷が一致団結するところから開幕する。そしてその、中心となるのが、物語の開幕時は18歳の少年である阿弖流為だ。その強さとカリスマ性をもった阿弖流為が、仲間を増やし、訓練して練度を上げ、戦略をもって大軍と戦うさまを描いたのが、本作のメインストーリーだ。 しかし、物語は後半、朝廷側の将、坂上田村麻呂が登場することで変化が起きる。都にも潜入し、自らが戦う相手を知っていくことで、阿弖流為は「終わらない戦い」を「終わらせる」にはどうしたらいいのか、が最大の焦点となる。そして阿弖流為が選択した道は――と感動のラストへと至る物語は、もう男ならば泣けること間違いなし、である。
 ダメだ、全然わたしの興奮を伝える文章が書けない!!!
 というわけで、物語に登場する熱い男たちを紹介しておこう。
 ※2017/06/16追記:とうとう宝塚版の配役が発表になって、やけにこのBlog記事のPVが上昇しているので、おまけとして配役もメモしておこう。なお、わたしはこの小説を大絶賛しているのだが、物語的に非常に「少年マンガ」的な熱い男たちの物語なので、女性が読んで面白いのか良くわかりません。
 ◆阿弖流為:胆沢の長、阿久斗の息子。腕っぷしの強さと人を惹き付けるカリスマを持った若きリーダー。アラハバキの神のお告げ?的な、後に蝦夷を率いる将となるヴィジョンを観る。そのまっすぐで優しい心が人を魅了するわけで 、実にカッコイイ。宝塚版で演じるのは勿論まこっちん!超カッコイイことはもう確定的に明らかです。どうでもいいけど、大劇場じゃない公演もDVDじゃなくてBlu-rayで発売してもらいたいものだ。今時DVDなんてホント意味不明だよ……。
 ◆飛良手:「ひらで」と読む。一番最初に阿弖流為の仲間となる、蝦夷最強の剛の者。もともと蝦夷を裏切って朝廷に付こうとするが、阿弖流為の心にグッと来て仲間に。以降、最後まで阿弖流為の側近として付き従う。ラストはもう泣ける!!! 宝塚版で演じるのは、予想外の天華えまさん。『桜華』『スカピン』で新公初主演の98期。応援してるぜ!
 ◆母礼:「もれ」と読む。飛良手が、真っ先に仲間にすべきと阿弖流為に進言して会いに行った男。黒石の長。頭脳の男で蝦夷の軍師として大活躍。まあ、要するに諸葛孔明的な存在。阿弖流為より7つ年上。妹の佳奈は阿弖流為と結婚したので、文字通り義兄弟に。ラストはもう、マジ泣いたわ……。宝塚版で演じるのは綾凰華さん。同じく98期。『スカピン』新公でロベスピエール役。期待してるぞ! そして母礼の妹であり。後に阿弖流為の妻となる佳奈を宝塚版で演じるのが、同じく98期のくらっちこと有沙瞳ちゃん。歌ウマなくらっち、間違いなくまこっちんとのデュエットは美しいに決まってますね。いつか、まこっちんとTOPコンビにならねーかなー……。
 ◆伊佐西古:「いさしこ」と読む。江刺の長の息子。もともと父は鮮麻呂とともに朝廷に従属していたが、阿弖流為と出会い(もとは太伊楽という名だったが、鮮麻呂の叛乱後、すぐに伊佐西古の名を受け継ぐ)、友となる。阿弖流為より3つ年上で、勇猛果敢なでぶちん。基本的に好戦的だがいつも阿弖流為や母礼の策を聞いて、なるほど、とちゃんと作戦を守るタイプ。伊佐西古の最期も涙なくしては読めない。カッコ良すぎるぜ伊佐西古さん! 宝塚版で演じるのは、まこっちんと同期のひろ香祐ちゃん! マジか! 頼んだぜ!
 ◆猛比古:「たけひこ」と読む。元鮮麻呂の配下で、命知らずの強い武人。阿弖流為の「我々は美しい山や空のために戦っているのだ」という言葉に感動して仲間に。以後、飛良手と猛比古の二人は阿弖流為の軍勢の最強2TOPとして大活躍。伊佐西古とともに果てる。宝塚版では……クレジットがないな。出てこないのか……え―超残念!
 ◆天鈴:蝦夷ではなく、物部(もののべ)の一族の長、二風の息子。二風亡き後棟梁に。元々は出雲の出で、現在は蝦夷とともに陸奥に住む豪族。経済的な支援と、情報網を駆使して阿弖流為をバックアップ。天鈴がいなかったら阿弖流為の活躍はなかったと言えるほどの重要人物。宝塚版で演じるのは、まさかの101期生、颯香凛さん。まじかよ、老け役のベテランが演じるかと思ってたぜ。
 ◆多久麻:阿弖流為が一番尊敬していた伊治の鮮麻呂(あざまろ)の配下。一時は朝廷に従属していた鮮麻呂による朝廷への叛乱ののち、阿弖流為配下に。頼りになる男。宝塚版で演じるのは99期生の天路そら君。もう体調は大丈夫? 頑張って!
 ◆取実:軽米の若者。飛良手が鍛えた軍勢で成長した若者で、軽米の長達が優柔不断で頼りにならず、父からの勧めで阿弖流為の本営に移籍。後半のみの出演。取実の最期も泣けるんすよ……!! 宝塚版ではクレジットなし。残念だけど、出番は後半のみだし仕方ないか……。
 ◆和賀の諸絞(もろしま)、気仙の八十嶋(やそしま)、稗貫の乙代(おとしろ)、志和の阿奴志己(あぬしこ):阿弖流為の親父世代の各地の長。ラストの諸絞の心意気がもう泣けてたまらん! この中で言うと、宝塚版では、先日娘役転向を(わたし的には突然)発表した音咲いつきさんが、諸紋を演じるようで、これがラスト男役になるんでしょうな。諸紋はなにかと阿弖流為たち若者に文句をいうものの、超いいおっさんなんすよ……ホントにラストの諸紋は泣かせてくれますぜ!
 ◆坂上田村麻呂:朝廷で唯一蝦夷を理解する男。そして阿弖流為の宿命の敵。ただし、敵とは言っても二人は固い絆に結び付けられていて、お互いを尊敬しあう仲。田村麻呂もまた立派な男よ……。ちなみに、今現在、阿弖流為の碑が清水寺の境内に設置されているのは、清水寺が田村麻呂が寄進したお寺だから、だそうです。本作を読んだ今聞くと、大変泣かせる逸話ですな。そして、この超重要人物を宝塚版で演じるのがまこっちんと同期のせおっちでお馴染み瀬央ゆりあさんだ。 田村麻呂がカッコ良くないと、この物語は面白くなくなるんだからな、せおっち、頼むぜ!
 ◆御園:田村麻呂の片腕で都最強の男。飛良手との一騎打ちもカッコイイし、最期は伊佐西古と刺し違える。最後のセリフはもう号泣モノ。宝塚版で演じるのは、94期の漣レイラさん! おっと! 御園は田村麻呂の唯一の理解者でもあるわけで、せおっちのこと、よろしく頼むよ! 期待してます!

 とまあ、こんな熱い男たちの泣ける物語で、わたしはもう大興奮でした。特に、下巻後半の阿弖流為の悲痛な決意は超ヤバイすね。永遠に終わらない戦いのケリをつけるには、これしかないという選択なわけで、 ほんと、平和な現代は、さかのぼるとこういう男たちの血と涙が築き上げたものなんだなあ、と思うと、なんというか泣けるし、そしてそういう過去をまるで知らないというのは、ひどく罪深いような気がしますな。罪深いってのは大げさか、なんというかな……申し訳ない気持ち、かな。なんだかとても、感謝したくなりますな。いろいろなものに。

 というわけで、もう長いのでまとまらないけど結論。
 高橋克彦先生による『火恨』という作品は、北の英雄・阿弖流為の戦いを描いた、熱い男たちによる泣ける傑作であった。実に北斗の拳的な、わたしの大好物な男たちの物語で、わたしはもう超感動しました。そしてこの作品をミュージカルとして、わたしが最も愛する礼真琴ちゃん主演によって、この夏上演されるわけで、こりゃあもう、1度じゃすまないね。3回ぐらいは観に行く所存であります。ただ、非常に長い時間軸のお話なので、これはちゃんと予習しておいてよかったと思う。もし宝塚ファンで、夏の『阿弖流為』を観に行くつもりなら、本作を読んどいたほうがいいような気がしますよ。それにしても泣けそうだなあ……実に楽しみであります! 以上。

↓ つーかですね、こっちもチェックしといたほうがいいかもしれねえなあ……。 
アテルイ [DVD]
市川染五郎
松竹
2008-02-15
 

 わたしの元部下のA嬢は、NYCに住んでいたこともあるバリバリの英語使いで、当時はよく仕事帰りにBroad Wayに寄って、さまざまなミュージカルを楽しんでいた筋金入りである。わたしもミュージカルが大好きなので、大変うらやましく思うわけだが、彼女は4~5年前、Ryan Gosling氏が大好きだった頃があって、へえ、じゃあこいつを観るがいい、といろいろRyan氏が出演している映画のBlu-rayを貸してあげたりしていたのだが、確か2015年の春ごろに、わたしの大好きなEmma StoneちゃんとA嬢の大好きなRyan Gosling氏が、ミュージカル作品に揃って主役として出演すると聞いて、わたしもA嬢も、そりゃあ楽しみだ、と大変期待していたのである。ああ、そういやEmmaちゃんとRyan氏が共演した『Crazy, Stupid , Love』も貸したことあったっけな。あの映画も面白かったね。
 そしていよいよその作品は去年末にUS公開され、1億ドルを超える大ヒットとなり、あまつさえ、日本時間であさっての月曜日に発表される第89回アカデミー賞において、なんと歴代最多タイの14部門でのノミネートを獲得し、一躍話題になって、いよいよ昨日の金曜日から、満を持して日本公開と相成ったわけである。
 その作品の名は『LA LA LAND』。A嬢に観に行こうぜ!と誘ったらごくあっさり振られたので、やむなく今日、朝イチで一人しょんぼり観に行ってきたのだが、結論から言うと、相当イイ! けど、若干、ちょっとどうなんだ……? という部分もあったのは事実である。これは、おそらく男と女では、かなり感想が違う問題作なのではなかろうか、という気がした。わたしはおっさんなので、二人の主人公の想いはかなりよく分かるというか納得できるので、実のところわたしはとても楽しめた映画であることは間違いないのだが、これは……若いカップルが観たらどう思うのだろうか……と若干心配である。わたしがそう思う理由を書きたいのだが、決定的なネタバレとなってしまうので、核心的なことにはなるべく触れずに、感想をまとめようと思う。あ、あともう一つ。この映画は、「ミュージカルのお約束」に慣れていないと、結構ポカーンとしてしまうかもしれないな。急に歌って踊りだすのは、慣れていない人では、え? と思うかもしれない。でも、あなた、それがミュージカルってやつですよ。わたしは全くその点は気にならないというか、歌が素晴らしいので、むしろキター!とうれしくなったね。
 それでは、まずはお約束の予告動画を貼っておこう。

 まあ、大体の物語は、上記予告で示されている、とは思うが、決定的なことは描かれていない、とだけ言っておこう。ヒロイン・ミアは、女優を目指して頑張る女子。しかしオーディションに行ってもまるで相手にされず、ルームメイトの3人の女子たちはいろいろ誘ってくれて、憂さ晴らしは出来るものの、そんなパーティーへ行ってみても、なんとなくしょんぼりな毎日だ。そして一方の男の主人公・セブ(セバスティアンの略だってさ)は、ガチガチのオールド・ジャズ好きで、いつか自分の店を開いて、もはや絶滅危惧種な本物のジャズを聴かせるんだ、という夢をもってピアノを弾いているが、所詮は定職のない、たまにクラブで弾くのが精いっぱいのピアニスト。こんな二人の双方のしょんぼりぶりが描かれ、たまたま出会った二人が、その後も何度も出会うことで魅かれていき、恋に落ちる――とまあ、そんな、なかなか甘酸っぱいラブストーリーだ。
 こういう場合、よくあるパターンとしては、どちらかがサクセスしてしまい、なんとなく距離ができてしまって――的な展開をよく見かけるような気がする。例えば、ちょっと違うけれど、だいぶ前に観たミュージカル映画『The Last Five Years』もそんなお話だった。なのでわたしもそういう展開を想像したのだが、問題はどっちが成功してしまうんだろう? という点であろうと思う。しかし――ここは書かないでおく。書いたらマズいよね、やっぱり。ただ一つ言えることは、わたしの想像を超えたエンディングであり、かなりわたしとしては、ええっ!? と驚いた、ということである。この点で、わたしは若い観客の理解を得られるのだろうかと心配になったわけで、さらに言うと男と女ではかなり受け取り方が違うんじゃないかな、と思ったのである。
 しかしですね、やっぱりとてもイイすねえ!何がいいって、そりゃあもちろん歌とダンスと二人の芝居ぶりですよ。わたしは観ながら結構足でリズムを取ったり、キメのところでは拍手をしたくなりましたな。まあ、正直、歌は超頑張っているのはよく感じられるけれど、もうチョイ、声に伸びやかさが欲しかったかな。
 まず歌だが、Emmaちゃんの歌声は、結構かすれ声系のしっとり系なんすね。もうチョイ声量が欲しいかなあ。でも可愛いから許す! そしてRyan氏も、やっぱりもうチョイ迫力欲しかったかもなあ。でも、キャラクターには合っていたのかな。決して下手じゃないし、実際かなりいいけれど、もう一声、を望みたいような気はしたのは記録に残しておこう。ハリウッドのミュージカルというと、最近ではやっぱり『Le Miserables』でジャベールを演じたRussel Crowe氏の意外な美声にわたしは非常に驚いたが(歌手活動を行っていたことを全然知らなかったので、歌えること自体驚いた)、EmmaちゃんもRyan氏も、まあ、想定内の歌声だったと思う。ただし、Ryan氏は、この映画のためにピアノを猛特訓したそうで、劇中のピアノを弾くシーンは本当に彼が演奏しているそうだ。カッコいい野郎がピアノ弾けたら、そのカッコよさは5倍増しですな。くそ、オレももしもピアノが弾けたらなあ……。
 そしてダンス! ダンスはもう完璧だったと言えよう。とりわけ、わたしが一番気に入ったのは、やっぱり二人が最初にお互いを意識する、LAのマウント・ハリウッド・ドライブで踊るタップダンスのシーンだ。ここはもう、ホントに夢のような美しさと可愛らしさがあふれてて、最高でしたね。そして撮影もかなり見どころであると言ってもいいだろう。ほとんどのシーンは、やけに長いカットで、ダンスシーンもほぼ長まわしの一発撮りだ。ただこの辺は、技術の発達した現代においては、長まわしに見えるようで実は違う、という場合もこれまたよくあるので、実際のところはよくわからない。しかし、↓こんな動画を観ると、マジで一発で撮ったんじゃねえかという気もする。

 ↑このシーンも、とてもかわいいすねえ! ちなみに、ルームメイトの一人、黄色の服の人は『EX Machina』でミステリアスな「キョウコ」という役を演じたソノヤ・ミズノさんという東京生まれのイギリス育ちのお方だ。国籍としてはイギリス人なのかな。大変お綺麗な方です。オープニングの高速道路でのダンスも、本当に高速道路で撮影したそうで、あれが一発撮りだったら相当凄いと思うけど、ちょっとよく分からない。まあ、この映画はのっけからその魅力にあふれているのは間違いないと思う。
 (※2017/02/28追記:昨日、WOWOWでアカデミー賞授賞式の中継を見たところ、カメラマン氏曰く、オープニングの高速道路のダンスは4カットで構成されていて、そしてわたしが気に入ったタップダンスのシーンは、完全1発撮りのワンカットで、6テイク撮影して、採用されたのは最後のテイク6だそうです)
 で。二人の演技ぶりだが、間違いなくこの映画を観た人は、男ならばEmmaちゃんを可愛いと思うだろうし、女性ならばRyan氏にときめいてしまうだろうと思う。
 まず、Emmaちゃんは今回、わたしの大好物であるしょんぼり顔を多く見せてくれ、もうホントに放っておけない雰囲気がある。そしてそんな彼女がセブに出会ってみせる笑顔の素晴らしさは、もうマジ天使クラスだ。以前このBlogで、Emmaちゃん主演の『Magic in the Moonlight』について書いたときも記したが、Emmaちゃんは「オレ的ハリウッド美女TOP10」の「天使クラス」に入る美女であって、今回の演技ぶりもとても良かった。本作は、「冬」に出会った二人が「春」に愛を確かめ「夏」に愛を謳歌し、「秋」に岐路を迎え、そして「冬」を迎えるという構成になっていて、特に最後の「冬」でのEmmaちゃんの演技が超絶品である。そして超絶品であるがゆえに超せつない物語に仕上がっているので、あさって月曜日、Emmaちゃんが栄光のオスカーウィナーとなってもわたしはまったく驚きません。獲れるといいね、本当に。
 そしてRyan氏であるが、元々この人は無口系キャラが似合うわけだが、今回演じるのはある意味、夢追い人の「だめんず」であり、女性のハートをくすぐるには余りある役を、繊細に演じ切っている。前述のように、ピアノ演奏シーンも非常に良い。そして、愛するミアのために、一念発起してそれまでのこだわりを捨ててだめんずから卒業しようと頑張る姿も、おそらく女性ならキュンとしてしまうのではなかろうか。しかし、その結果として迎える最後の「冬」を、女性客の皆さんはどうとらえるのか、わたしとしては大変興味が尽きない。ぜひこのエンディングは、今すぐ劇場へ確認しに行って欲しいと思う。特に女性の皆さんは。わたし的には、かなり序盤で、素人バンドが若干ダサめに80年代の名曲、a-haの『Take On Me』を演奏しているシーンで、超イヤイヤながら、オレが弾きたいのはこんな曲じゃねえ、という顔をしてキーボードを弾いているRyan氏の表情が最高に良かったと思います。そして、人々の中にミアを見つけ、超気まずそうなRyan氏が絶妙だったすね。
 最後に監督について記して終わりにしよう。監督は2014年の『Whiplash』(邦題:セッション)で一躍注目を集めたDamian Chazelle氏である。やっぱりこの監督は、音楽というかジャズが大好きなんでしょうな。音楽の使い方は素晴らしいですよ。そして前述の通り、長まわしも多用していて、ある意味古き良きハリウッド映画の様式をしっかり再現しているようにも思える。なお、脚本もDamian氏が執筆されたそうで、物語も非常にファンタジックというか、夢のようなお話で、そういう点も古き良きハリウッドの正統なミュージカルであったと思う。しかしまあ、古き良きハリウッドミュージカルであれば、もっと明確なハッピーエンドになっただろうな。かなりわたしとしては唐突感を感じてしまったのが、大絶賛一歩手前、に留まる要因であったのだろう。でもまあ、あれでいいんだろうな、きっと。この点についても、やっぱり女性の意見を聞きたいすね。

 人はきっと、誰しもが「ありえた未来」を想い、あの時なあ、ああしてれば今頃なあ、と考えることがあると思う。場合によっては、あの時のたった一言が、今を決定づけてしまったのかもしれない。そんな風に考えるのは、いわゆる「後悔」というものであり、そしてその後悔は、ほろ苦く、思うたびにどこか痛みを感じるものだ。そしてその痛みを、若干気持ちよく感じてしまうのが質が悪いというか、人間だ。ひょっとしたらそんな傾向は、女性よりも男の方が強いかもしれないすね。わたしはセブが「Seb's」のあのロゴを使った気持ちがすげえ分かる。そしてあのロゴを見た時のミアの表情が、わたしは一番グッと来た。
 しかし、これもきっと明らかなことだと思うけれど、確実に、人には「そうならなかった現在」を肯定できる日がやってくると思う。わたしのような40代後半のおっさんだと、もうほぼ、そんな境地に至っているわけで、それはあきらめではなく、現状肯定だ、とわたしとしてはカッコつけて申し上げておきたい。わたしの場合は、やっぱり40歳になるかならないかって頃だったんじゃないかなあ。
 はたして本作の主人公、セブとミアは、そんな境地に至るまでに、あとどれだけ痛みを感じることだろうか。でも、しょうがないよ。つーか大丈夫よ。だって、にんげんだもの!と、おっさんとしてはアドバイス?して終わりにしたい。
 ※2017/03/13追記:A嬢がやっと観に行ったというので感想を聞き、ちょっとだけ言葉を追加しました。

 というわけで、取り留めもなくだらだら長いのでもう結論。
 製作開始から楽しみにしていた『LA LA LAND』がやっと日本で公開になり、期待に胸弾ませて劇場へ向かったわたしであるが、言いたいことは、以下のことである。
 ◆Emmaちゃんがスーパー可愛い。ダンスもGOOD! 歌声も、意外なかすれ声で可愛い。しょんぼり顔とはじける笑顔にわたしは大満足。マジ天使っす。
 ◆Ryan氏の演技は、男視点から見るとすごく共感できる繊細な芝居ぶりでお見事。
 ◆物語的には、予想外のエンディング。これはぜひ劇場で!
 ◆演出面では長まわしの一発どり など、ダンスシーンをダイナミックに描いている。
 ◆急に歌って踊りだすのが変だって? あんた、なに言ってんの? This is !ミュージカルだぜ!
 以上。

↓ つーかですね、コイツを買って車で聞きまくるのもいいかもしれないな……。
ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック
サントラ
ユニバーサル ミュージック
2017-02-17

↓ そして今、わたしはEmmaちゃんマジ天使熱が激しく上昇中なので、久しぶりにコイツを観ようと思います。これまた超かわゆい。
ゾンビランド (字幕版)
ウディ・ハレルソン
2013-11-26
 

 というわけで、毎週木曜日は『鮫島』ニュースのお時間です。
 つーかですね、今週も電子版で買ってみた週刊少年チャンピオンですが、今週号も紙だと巻頭グラビアがあるのに電子版はナシか……うーむ……どうしたものか……でも、朝、起きたらすでにダウンロードされているってのは便利なんだよなあ……捨てる手間もないし……うーむ……一長一短ありますのう……ままならねえ世の中ですな。。。
  ま、いいや。まずは週刊少年チャンピオン2017年第13号の概要です。
 ■巻頭グラビア:電子版はナシですが、紙の雑誌だと欅坂の平手友梨奈さんだそうです。
 ■『弱虫ペダル』:共に進む力の巻。同調直接走法キター!キセキがまた顕現しそうな展開です
 ■『牙刃道』:電撃回復の巻。また一人殺しちゃった……。。
 ■『囚人リク』:ヤバみヤバみ!!!の巻。ピカソ内海の変態ぶりが炸裂して最高ですw ジャアアァアアァという擬音は何だと思ったら、超全力でお漏らししてましたwwww ヤバイのはお前だよ!!! と思わず突っ込んでしまう今週号は、ぜひ自分の目で確かめてください!!! 最高すぎるwwww
 ■『吸血鬼すぐ死ぬ』:新横浜ギルド巻。今回も安定の面白さでした。最高です。
 ■『Gメン』:八神さんの過去Part2の巻。八神さんの差し出すバットを勝太はどうするでしょうか。大変イイ展開です。
 ■『少年ラケット』:ジョー先輩立ち直るの巻。この作品はホント王道の漫画力の高さが光りますね。キャラクターや絵そのものもいいしカット割りの演出も素晴らしい!
 ■『BEASTARS』:裏市のPart2巻。まさかの愛嬌ゼロ!! 強面ジャイアントパンダ見参!! 彼の目的は…!? 次号につづく!! というエンディングのアオリがとてもいいと思います。そしてやけにカッコイイパンダも、その絵だけですげえイイすね!!! 竹担いでるし!
 とまあ、こんな感じの週刊少年チャンピオンでありました。

 それでは、今週の『鮫島』ニュースをお送りいたします。
 先週は、番付を駆け上がる【毘沙門】の過去話でしたが、今週は、一方そのころ常松は……的なお話です。まず、今週は3年前の11月にさかのぼります。空流部屋の後援会の皆さんが、皆おめでとーとお祝いしてくれていますが、どうやら常松の初入幕が決まったその日のようです。
 照れながらも、一足先に幕内力士となっていた【白水】兄貴や鯉太郎に抱えられて、超いい笑顔でガッツポーズを決める常松改め【松明】。常よ、お前もそんな笑顔をみせるようになったんだな、とわたしとしてはこのページだけでも今週号のチャンピオンを買う価値があると思います。この三人の空流の男たちの笑顔は最高ですよ。鯉太郎も【白水】兄貴も嬉しそうじゃあないですか!
 そして新入幕となった場所が始まります。まあ常識的に考えれば3年前の11月場所(=九州場所)ってことでしょうな。まさか年明けの初場所じゃあないでしょう。うーん、一度やっぱりこれまでの出来事を年表にまとめた方がいいかもしれないすねえ……まいいや。
 ともかく、その新入幕力士として場所を迎えた常松改め【松明】に、クソ生意気な【毘沙門】野郎が、「お前もやっと幕内かよ~~~~~」と寄ってきました。そしてどうやら、常が四股名を変えたのは、十両に昇進して関取となった時のようです。その時のことが【松明】の脳裏に再生されます。常は、大嫌いだった父親の【松明(たいまつ)】という四股名を継ぎたいと、今は亡き先代の空流親方に打ち明けました。曰く、「一度も火が灯らなかったこの名を 俺の力で輝かせたい」んだそうです。しかし先代は言いました。
 「そうか…だがせっかくだ…読み方変えてもっとデカくいこーじゃねーか…己だけじゃなく周りも照らす力士になれ…松明(まつあかり)!!」
 なるほど……そういうことだったんすねえ……これまた泣ける話じゃあないですか……常よ、お前ホントに空流に来てよかったな……最高の兄弟子たち、そして最高の親方じゃんか……
 で、クソ【毘沙門】野郎は、学生横綱から幕下付け出しで各界入りした常松に対し、それでなんで俺より出世が遅いんだよ、とか、常松に言いたい放題です。うるせえっつーの。しかし常は冷静に、「予定通りにはいかなかったよ…」とこれまでの苦闘を告げます。そしてその背後からやってきたのは鯉太郎。確かにお前のスピード出世は大したもんだけど、昇進が早けりゃいい手もんでもねーだろ、と常をバックアップです。しかし、そんな鯉太郎に、チョーシこいた【毘沙門】の口は止まりません。
 「だから鮫島(オマエ)はダメなんだろ~~~~…もう少し焦って頑張れよ…」
 こんな生意気な口を聞いたら、常も黙ってられないすよ。「おい…そこまでにしとけよ…」と若干キレ気味です。しかしかまわず【毘沙門】は、鯉太郎に対して、そんな体で幕内ってのが無理あんだよ、と 無神経な発言です。さらにキレる常松。そして【毘沙門】はさらに、鯉太郎の相撲スタイルについても、ブチカマシブチカマシって通用しねえ、もっと頭使えよ的な、ナメた発言を繰り返します。
 しかし、鯉太郎は、そんな【毘沙門】野郎の大きなお世話の暴言に対して、一言で流しました。
 「…………そうか…」
 この表情もイイすよ、実に。大人というか、これはなんつうんでしょうねえ…… きっと、土俵上の勝敗だけじゃない、本当の強さってものを追求しようとしている男なんでしょうな、鯉太郎は。そしてそんな鯉太郎のリアクションに、【毘沙門】野郎は、なんだよ、響かねえ男だなあ、と半ばヤレヤレ的なことを思い、そして常松は、ダメだ鯉太郎さん…この手の奴は一度ぶっ飛ばしてやらないと調子に乗るだけだ…と、ぐぬぬ…!!な表情です。
 そして!!! そんなやり取りを観ていたのか、一人の力士の登場です!!!!
 「クックック…昔の鮫島(オマエ)なら有無を言わさず殴りかかってたよな~~~~…随分立派になったもんだな…」 
 でたーーー!!! なんなんすかこの悪役感!!! 永遠のライバル【王虎】の登場だ――!!! ここはもう大興奮ですね!!! クックック…って……【王虎】さん、なんかお前、雑魚キャラっぽいぞ!!! そして【王虎】到来に常はヤバッ!! と慌てます。そして何もわかっちゃいない【毘沙門】は、呑気に「何言ってるんスか王虎さ……」と言いかけたところで、鯉太郎&【王虎】がFace to Faceで殺気を漂わせているのに気が付きます。
 鯉「(久し振りに悪タレ凶悪フェイスで)何か言ったか…?」
 王虎「(相変わらずの悪役フェイスで)ニコニコしてろよ さっきみてーに…」
 この対峙はまさしく『バチバチ』『Brust』時代そのものですな。あれから2年ぐらい経っているはずですが、いまだこの二人は、文字通りバチバチのライバルなんですなあ。そりゃそうだよ。そして、慌てて止めに入る常松や、逆にキレて「テメーコラ鮫島!! 誰に物言ってんだ」とわめく【毘沙門】野郎ですが、 この場を収めたのは、先週「各界の良心」と評された【百雲】でした。
 「やめないかお前たち…! 土俵入り前に何をやっている!」
 そんな【百雲】の一喝に、鯉太郎は「ボケが…」と捨て台詞を残し、【王虎】 は「アホが…」とにやにや笑いです。バカな【毘沙門】も、まったくなんだってんだ、身の程を知れってんだよ、とすっかり【王虎】サイドのつぶやきを発します。しかし、【王虎】は言います。
 「身の程を知るのは毘沙門(テメー)だ天然… 鮫島(あのアホ)は毘沙門(テメー)より上だよ…」
 おい! 【王虎】さん! なんだよお前、分かってるじゃないの!! 【王虎】よ、お前もちゃんと成長してたんだな。おっさん読者としてはこの【王虎】のセリフがやけにかっこよく聞こえてしまうじゃないか! いいすねえ! 今週号はマジでぜひ、買って読むことをお勧めします。
 そして幕が開いた【松明】の新入幕場所ですが、気合とは裏腹に4連敗でのスタートとなったそうです。しかも4敗目は、あの因縁の【宝玉光】だったみたいすね。そりゃあプレッシャーもあったでしょうし、勝たないと、という焦りもあったと常は述懐します。そんなとき、頼れる鯉太郎は、常松改め【松明】に、切り替えて行け、一度星上げればお前の力なら大丈夫だから…とアドバイス。【松明】も、すなおに「はい…」と良い表情で応えられるようになっていました。それは、2週前に描かれた通り、「自分の弱さを飲み込めたから」なわけですよ。いいすねえ……やはり、上司や先輩に恵まれると、成長できるんですなあ。グッときますね!
 そして支度部屋では、【毘沙門】野郎が翌日の割を見て興奮しています。どうやら翌日は、鯉太郎との割が組まれたようです。「鮫島(アイツ)が本当に俺より上なのかどうなのか…はっきりさせようなねーか…」と闘志をみなぎらせる【毘沙門】。そして場面は翌日朝の空流部屋に変わって、稽古に励む関取たちの様子が描かれます。とりわけ常松は、今日こそは、と気合が入っているようです。おっと、この時点ではすでに親方が【仁王】兄貴になってますので、先代が亡くなったのは3年前の11月以前のようですな。そして新たに親方となった【仁王】兄貴は常松に指導です。「コラ常! 強引になるな! ケガすんぞタコ!」そしてその親方の指導の直後! ゴギッ!と不吉な音が空流部屋に響きます!!!
 ああ、なんと! 今週号最終ページは、左ひざを抱えて土俵に倒れる鯉太郎の姿でした。やっばい! やっちまったのか!? そういえば、5週前(104話)では【毘沙門】は本割では鯉太郎と当たったことがないようなことを言ってましたが、4週前(105話)では前に顔合わせた時は楽勝だった、と言ってました。 しかも105話の一コマでその相撲の様子が描かれていて、立ち合いでブチカマシに行った鯉太郎を軽く引いて突き落としたような画になってましたっけ。まあ、いずれにせよ、鯉太郎は左ひざをやっちまったことは間違いないようです。そんな鯉太郎に楽勝して、それでまた【毘沙門】野郎は調子に乗っちゃったんですかねえ……あかんわ……そういうときこそ、常がきっちりケジメ取ってほしいものですが、さあ来週はどんな展開が待っているのでしょうか。超楽しみですなあ!!
 というわけで、最後に、毎週のテンプレを貼って終わります。
 <場所:9月場所>
 【鮫島】東前頭十四枚目(5月場所で東前頭十枚目)
 【白水】西小結
 【松明】東前頭六枚目。常松改め。本場所は7連勝中
 【大吉】序2段【豆助】序ノ口【目丸手】序二段【川口】不明
 ------
 1日目:【飛天翔】西前頭十二枚目。石川改め。
 2日目:【宝玉光】西前頭十一枚目
 3日目:【舞ノ島】西前頭十枚目
 4日目:【巨桜丸】西前頭九枚目。新入幕力士
 5日目:【岩ノ藤】東前頭七枚目 
 6日目:【大山道】西前頭七枚目
 7日目:【蒼希狼】西前頭六枚目
 8日目:【丈影】東前頭四枚目。横綱の弟弟子
 9日目:【闘海丸】西小結
 10日目:【毘沙門】東前頭五枚目
 --------
 【王虎】&【猛虎】共に東大関
 【天雷】東関脇  【田上】番付不明※王虎の付け人をやってることが判明!!
 【闘海丸】西小結 他の力士は表にまとめた記事を見て下さい。
 【泡影】東横綱。第72代。29場所連続優勝中。63連勝中。モンゴル人。

 というわけで、結論。 
 今週は常松が【松明】と四股名を改めたのは十両に昇進した時のことであり、さらに読み方を、父親の「たいまつ」ではなくて「まつあかり」とした理由が描かれました。泣ける……! そしてますます調子に乗る【毘沙門】野郎との本割の当日の朝、どうやら鯉太郎は左ひざをやっちまったことも判明しました。しかし、鯉太郎と【王虎】のやり取りは最高ですね。そして鯉太郎と常松の関係も、実に美しく泣かせますな。はーーーくそう、【毘沙門】野郎のような調子に乗ったガキはさっさとぶっ飛ばしていただきたいのだが……今後の展開がますます楽しみです! 以上。

↓ 買ってない人はいないすね? 大丈夫すね!? 常に携帯するのが男のたしなみですよ。
 

 というわけで、毎週月曜日は週末映画興行データです。
 つーかですね、この週末は『ソードアート・オンライン』と『セル』の2本を観たのですが、『ソードアート』は大変な賑わいでありましたが、『セル』は金曜公開したばかりなのに、わたしが観に行ったシネコンでは1日1回上映……厳しい世の中だなあ、と感じざるを得ない状況でした。しかし、一日に『ソードアート』と『セル』という全く違う2本を立て続けに観た人間は、日本にわたし一人かもしれないな……もし他にいたら、きっと友達になれそうな気がします!
 あと、先週東映の第3四半期決算が発表になっているので、最後にさらっと取り上げようと思います。

 さてと。それではいつも通り、興行通信社の大本営発表をメモしておこう。

 1位:『ソードアート・オンライン―オーディナル・スケール―』が堂々1位獲得。土日で4.25億稼いだそうで、この分だと10億以上は確定じゃないですか! 15億も全然夢じゃないすね、この数字は。公式Webサイトで数えたところ、151スクリーンでの公開なのかな。アベレージも高そうですな。物販もだいぶにぎわっていたみたいだし、関係者一同喜んでいることでしょう。まあ、こういう人気アニメ作品は、いわゆる初動型が多い、というのが一般的な常識だろうから、2週目以降の落ちがどうなるかが重要であろうと思います。たとえば年末の『モンスターストライク』は4.39億スタートであっという間に落ちて最終7億程度、みたいなこともありますし。しかし、そのための施策もばっちりのようなので、楽しみですな。しかしそれにしても立派な数字ですよ。いやはや、驚いたっす。
 2位:『相棒―劇場版IV―』が9日間で8~9億ぐらいと見積もる。普通に考えれば6~7億だと予想しますが、先週書いた通り、どうも予想がつきにくいです。何しろ『2』と『3』はほぼ同じ初動で最終地は10億ぐらい違うし、『2』と『3』が年末公開とGW公開で、2週目には10億超えてるんですよね……今回の『4』はシリーズ最高初動だけど、『2』『3』のように2週目で10億超えているとは思えないんだよな……どうなんでしょうか。10億超えてることもあり得るのかな……。
 3位:『一週間フレンズ。』が公開土日で1.53億ほどだったそうです。えーと原作はスクエニ、だったですかね。アニメも何年か前にやっていたし、人気コンテンツですな。最終的に10億に届くかどうか、松竹配給というのも若干ポイントすね。
 4位:『サバイバルファミリー』が9日間で公開土日で4~5億ほどと見積もる。こちらも10億に届くかどうかラインだと思うけれど、どうでしょうか。物語的に、「停電」じゃないんすよね? 「電気がなくなった」っていったいどういう状況なんでしょう。まさか『アンダー・ザ・ドーム』的な状況だったら超最高なんですが……それが気になるなら観に行けってことか……どうしようかな……。
 5位:『ミス・ペレグリント奇妙な子供たち』が17日間合計で8~9億ぐらいと見積もる。こちらは無事に10億を超えそうですな。ただその上まではチョイ厳しいでしょうか。初動がそれほど大きくなかった割に、落ちが少なく安定しているような印象です。
 6位:『キセキ―あの日のソビト―』が23日間合計で11~12億ぐらいと見積もる。2/16の段階で10億を超えたそうです。10億突破は大変立派ですね。どこまで粘って詰めるか、ちょっと予想が難しいです。上映がいつまであるかも大きくかかわるし……。15億、はちょっと微妙なのかな……。
 7位:『ドクター・ストレンジ』が24日間合計で、16~17億ぐらいと見積もる。よーし、20億まであとチョイ、だけど、どうだろう、チョイ届かずで終了かな……。
 8位:『君の名は。』が26週目にして、1億ぐらい積んだとして243~244億ぐらいなのかなあ?
 9位:『この世界の片隅に』が100日間で21億~22憶ぐらいでしょうか。現在公開中のスクリーン数は300を超えているそうで、まあホント、凄い後伸びで、なかなか珍しい興行ですな。
  10位:『マリアンヌ』が公開10日間合計で2~3億ぐらいと見積もる。初動で1億届いてなかったから、まだ3億は厳しいかな……。どうだろう。

 とまあ、こんな週末だったそうです。『セル』はどのぐらい稼いだのかな……スクリーン数も少ないし上映回数も少ないし、3000万も届いてないかな……情報なしで分からんす。
 で。東映の第三四半期決算の数字をメモしておきます。
 ◆東映:2016年4月~12月(9カ月累計/3月決算)
  売上高合計:94,902百万(前年同期比101.9%、+17億)
  営 業 利 益:13,341百万(前年同期比102.9%、+3.7億)
  営業利益率:14.0%(前年同期比+1.4pt上昇)
  経 常 利 益:15,789百万(前年同期比103.7%)
  四半期純利益:8,065百万(前年同期比109.1%)
 というわけで、増収増益です。このところの東映作品が売れている印象は全くありませんが、ま、去年の夏の『ONE PIEACE』が貢献したのは間違いないですな。しかし、セグメント別でみると、映像事業、劇場興行事業(=映画館)は合わせて40億ぐらい前年同期比プラスなのに(※東宝と松竹は、映画館経営は独立のセグメントとせず映像事業に含めている)、連結では17億の増収にとどまっているわけで、どういうこと?とよく読むと、どうやら「建物内装事業」が30億以上マイナスになっているようだ。なお、今回が大きなマイナスというより、前期が大きく数字が伸びただけで、今期また通常の数字に戻っただけ、と思った方がいいような気がします。しかし「建築工事・室内装飾請負等に関する事業」と言われても、なんかピンと来ない事業すね。なんのこっちゃ。
 ま、いずれにせよ、東映の決算短信や事業報告書は、なにかにつけ「先行き不透明」だそうで、毎年のように業績見込みの修正をしている点からも、経営という観点からは相当レベルは低そうですな。先行き不透明って、言われてもなあ……。先行き不透明だけど●●●という施策を打っているので大丈夫です!というのが経営者なんじゃねえかしら。ま、どうでもいいや。

 というわけで、結論。
 今週は『ソードアート・オンライン』が堂々の1位。素晴らしいですな。来週からはいよいよ『LA LA LAND』ですよ! 超楽しみだ!!! そして東映の第3四半期決算は、見ても、ふーん……という感想しかないす。以上。

 

 わたしが世界で最も愛する小説家は、ダントツでStephen King氏である。
 このことは、もう何度もこのBlogで書いてきたが、これも何度も書いた通り、実は大ファンとはいっても、King氏の全作品が常に面白い、とは思っていない。たまに、「こ、これは微妙だぞ……」と思うような作品も、ある。例えば、最近で言うと『Lisey's Story(邦題:リーシーの物語)』とか『Duma Key(邦題:悪霊の島)』あたりは、ちょっとイマイチかなあ……と思っているわけで、もはや全然最近ではないけれど、10年前に新潮文庫から発売が予告された「携帯ゾンビ(仮)」についても、発売前はその仮タイトルに大興奮で、「何なんだこのタイトルは……超読みたいぜ!!!」と思っていたけれど、実際発売になり、読んでみたところ、「こ、これはまた微妙だ……」と思ったことをよく覚えている。
 その作品は、発売時は結局、原題通り『CELL(セル)』というタイトルとなってしまったのだが、簡単に話をまとめると、携帯電話(=Cellphone)の謎電波によって人々が正気を失くし、狂暴化して殺し合いを始め、偶然携帯のバッテリーが切れていたために難を逃れた主人公が、自宅に待つ息子のもとへと帰ろうとするサバイバルを描いたものである。その人々の狂気ぶりがさながらゾンビめいているので、「携帯ゾンビ」という仮タイトルで新潮社は発売告知をしたのだと思うが、実際のことろ、ゾンビ、では全くない。一応生きてる。完全に正気を失っているけどね。
 そんな、わたし的には少し思い入れのある『CELL』が、この度映画となった。しかも主人公コンビを演じるのは、わたしが密かにKing原作映画の中でも屈指の名作と思っている『1408』(邦題:1408号室)でもコンビで演じたJohn Cusack氏と、Samuel L Jackson御大だ。わたしとしては、どんなに上映館が少なくとも、これは絶対に観ないといけない作品なのである。というわけで、昨日の午前中はアニメ映画『ソードアート・オンライン』を観て、午後からはこの『CELL』を観てきたわけである。日本広しといっても、この2作品を同じ日に連続で観た人間は、おそらくわたし以外にはいまい。いたら、ぜひ友達になりたいものである。

 というわけで、もう物語については説明しないが、↑この予告を観て感じられるのは、とてつもないB級感である。そして観終った今、結論として言えることは、間違いなくこの映画は、相当なB級映画であったということだ。
 しかし……今更白状するのもお恥ずかしい限りなのだが、実はわたしはこう偉そうに書いているけれど、原作を読んだ事は間違いない、のだが、詳しくはもう全然覚えていない。だってもう10年前に1度読んだだけだもの。大体の筋と、読後感として微妙だったことしか覚えちゃいないのである。ラストはどうなるんだっけ、とか、そんなあいまいな記憶なので、本作が原作にどのくらい忠実か、あそこが違うとかここはそのまんまだとか、そういうチェックは詳しくは出来ない。
 なので、観ながらわたしは、そうそう、こういう話だよ、とか思いながらぼんやり観ていたのだが、わたしが覚えている限りでは、原作小説では、狂える人々のリーダー的存在が現実に登場して、それがKingファンにはお馴染みの悪を体現する存在「ランドル・フラッグ」「黒衣の男」を思い起こさせるようなキャラだったのだが、それが今回は現実の存在なのか幻影なのかよく分からない存在として描かれていた。この点はたぶん明確に違うような気がする。それから、途中で仲間になる少年が、この現象をもう少しわかりやすく説明してくれるようなシーンがあったはずなのだが、その辺はバッサリなくなっていたような気もする。校長先生の死に方も、今回の映画ではこんな死に方だったっけ? と思うようなアホなミスが原因だったけれど、これはもう原作小説でどうだったのか、全然覚えていない。そして、問題のエンディングも、今回の映画では、ぽかーんとしてしまうような終わり方で、正直全然わけのわからんエンディングだったが、ここが原作とどう違うか、まるで思い出せないけれど……確かに覚えがあるように感じた。
 あーダメだ、やっぱり全然覚えていない。もう一回読むしかないかな……誰かに貸しっぱなしで、家にあるのかどうか、発掘してみないと分からんな……。やっぱり原作との違いをチェックするのは無理だ。やめた。
 というわけで、今回の映画についての話だけにしておこう。一応最初に備忘録として書いておくと、今回の映画の脚本は、King氏本人もクレジットに入っていたので、少なくともKing氏自身のチェックが入った正統なもの(?)と言って良いようだ。なので、あまり脚本についてケチをつけたくないのだが、残念ながら脚本もダメだし、撮影、演出も安っぽい。そういう点が全体のB級感を醸成しているのだが、わたしが最も、こりゃあイカンと思ったのは、CGの質感がひどく低品位な点だ。
 まず、脚本の一番まずいと思う点は、この現象についての説明がまるでない点と、主人公のモチベーションがひどく希薄な点だ。一体全体何が起こっているのか、正直観客には最後までわからない。これではどうにも物語に入り込めないわけで、単に、携帯の謎電波で人々が狂いだす、という一発ネタに留まっているのは問題だろうと思う。そして主人公が危険を冒してでも息子に会いたいという動機の部分も、実際全く説得力がない。いや、そりゃあ父親だったら息子に会いたいと思うのは当たり前かもしれないけれど、息子がまだ正常な状態で生きている、と確信を持って行動する説得力はまるでない。息子がこの状況でも絶対に助かってオレを待っている、と確信させる何かが絶対必要だったと思うのだが……。
 それからCGについては、大量のイカれた人々の描写にCGが用いられているのだが、暗がりということもあって、かなりテキトーなCGで、ここはかなり興ざめだ。スタジアムを埋め尽くす人々や、ラストでの電波塔周辺を埋め尽くす人々のCGは、相当安っぽい。そしてそれらのイカれた人々の群れをドッカーーーーン!!! とやらかすエンディングは、もうほんと、わたしはえええーーー!? と笑ってしまった。こりゃあ、まごうことなきクソB級映画ですよ。たぶん、この映画は、King氏の小説を映画化した作品の中では、珍映画として名高い『Dreamcatcher』並のドイヒーな作品として、わたしの心に記憶されるであろう、と思うのである(※なお、原作小説の『Dreamcatcher』は最高に面白い)。
 いやはや……ごちそうさまでした。
  最後にキャストについて備忘録をまとめておこうと思ったが、主人公二人以外はほぼ知らない人ばかりだったので、もうどうでもいいかな……まず、主人公を演じたのは、John Cusack氏。 この人は、なんというかこういうピンチに陥って困る男の役が非常に似合いますな。実に頼りなげな表情がこの人の持ち味なのではないかという気がしますね。今回も、大変なピンチの連続で、ずーっと困った顔でたいへん気の毒でした。そして主人公と行動を共にする、やけに戦闘力の高い地下鉄運転手を演じたのがSamuel L Jackson御大で、演技というかもう素なんじゃね? というようないつもの御大ぶりで、特に書くことはないす。

 というわけで、ホントにもう書くことがないのでテキトーに結論。
 Stephen King氏による小説『CELL』が映画化されたので、さっそく観に行ったわけだが、予告から感じられる通りの相当なB級映画で、おそらくは、この映画だけ観ても全く面白いとは思えないだろうと思う。なので、普通の方には全くお勧めしない。わたしのようなKing氏の小説のファンであっても、まあ、観に行かなくてもいいんじゃないかなあ……ただ、わたしが実に残念だと思うのは、このように珍映画が多くなってしまうと、世間一般のStephen King評に悪影響が出るんじゃないかということで、映画の方が有名になってしまって、肝心の小説まで変な印象がついてしまいやしないか、それだけが心配だ。 頼むからKing作品の映像化に際しては、原作を超えてやるぜ!という気概を見せてほしいと思います。例えば、Frank Darabont監督の『The Mist』は、King氏をもってして、「畜生、このエンディングを執筆時に思いついていれば……!!」と悔しがらせた名作であり、そういうガッツあふれる映像化を期待します。以上。

↓ ほとんど覚えてませんが、小説の方が面白いと思います。たぶん……。
セル〈上〉 (新潮文庫)
スティーヴン キング
新潮社
2007-11-28

 何度もこのBlogで書いている通り、わたしは40代のれっきとしたおっさんである。しかし、もう20年近く前になるのかな、仕事上での必要性があって、今現在いわゆる「ライトノベル」と呼ばれる小説作品にかかわり、せっせと読み続けたこともあって、今でも全く普通に「ライトノベル」を読んでいるわたしである。まあ、最近の作品はめったに面白い作品に出会わないけれど、おっさんのわたしが読んで面白いという作品がゼロではないわけで、中でも、『ソードアート・オンライン』という作品は最初に発売になった2009年からずっと新刊が出るたびに読み続けているシリーズのひとつだ。おそらくこのシリーズは現在のライトノベル界の頂点に位置するもので、世間的にも非常にに広く知られているだろうと思う。先日、わたしが最新(19)巻を電車の中で読んでいたら、隣の推定50代~60代ぐらいのおとっつあんが、同じ『ソードアート』の(13)巻を読んでいるのに気が付いて、すげえびっくりした。ま、それだけもう、かなり幅広い読者を獲得している作品である。
 というわけで、今日は劇場作品として公開となった『ソードアート・オンライン―オーディナル・スケール―』を観に行ってきた。実は今日わたしが一番観たかった映画『CELL』が午後から1回しか上映がないので(昨日の金曜日公開なのにもう1日1回上映!泣ける!)、ま、午前中はこれでも観るか、という気になったのだが、場内は当然10代と思われるKIDSばかりで、想像していたキモオタ的年齢不詳の方々はそんなにはいなかったすね。かなりの混雑ぶりで、ざっとチェックした感触では、週明け月曜日の興行ランキングで3位以内は固いと見た。※2017/2/20追記:週末ランキング堂々1位獲得!良かったすね!
 さてと。以下、物語の筋を書き連ねるつもりはないけれど、色々な意味でネタバレに触れる可能性が高いので、読む場合は自己責任でお願いします。
 
 ――とりあえず、わたしは上記予告を全く見ずに観に行ったのだが、仮に予告を観ていても、えーと、どういう話? と全く見当がつかなかっただろう。わたしがうすらぼんやり知っていたのは、今回はフルダイブVRが舞台ではなく、ARゲームがメインとなる、そんなことだけだ。
 なので、わたしが観る前に、えーと、どんな話だろう? とぼんやり思っていたのは、次の点である。
 1)AR……つまり拡張「現実」。てことは……?
 『ソードアート・オンライン』と言えば、完全没入型のVRゲームと現実のリンクが一番のキモであり、物語の舞台はほとんどがゲーム内、すなわち「VR=仮想現実」内で展開する。VRだからこそ、主人公のキリトくんは無敵で最強の男なわけで、現実世界ではただの高校生、たぶんわたしが一発殴れば鼻血を出してぶっ倒れるであろう生身の人間である。そんなキリトくんが、ARゲームでどう活躍するんだろう? というのがまず一番大きな疑問だ。ARゲームと言えば、最近では(と言ってもすっかり下火になってる気もするが)かのポケモンGO!を思い起こすと思うが、あれは、スマホの画面上で現実の風景にポケモンが登場して、とっ捕まえるゲームであり、プレイする人間は全くそのまま普通に現実世界にいる。えーと……てことは、どんなゲームなんじゃろか? 『ソードアート・オンライン』で出てくるフルダイブVRゲームというのは、ある意味映画『AVATAR』の状況に似ていて、プレイヤーはどこかで寝てる(睡眠しているという意味じゃなくて、横になって寝っ転がってるという意味)わけで、自分の体は別にある。しかし、ARだとそうはいかんだろう、だから自分自身の体を使うゲームなんだろうな、と理屈ではわかるのだが、観る前はイマイチピンと来ていなかった。
 2)タイトル―オーディナル・スケール―はどういう意味なんだ?
 わたしの英語力では、オーディナル、と聞いて、すぐにはぱっと思い浮かばなかった。最初、audinalというつづりかな、つまり音響が関係しているのか? とか、まるで見当違いの想像をしていたが、調べればすぐにわかる通り、Ordinalが正しく、これはつまり「順序」とか「序数」を表す言葉だ。FirstとかSecond、Third、の、あの序数ね。で、Scaleはスケール、目盛りとか階級とかのことだろうから、つまり直訳すれば「順序の目盛り」的な意味であろう。しかし意味やなんとなくのイメージはつかめても、やっぱりピンとこない。しかし、著者の川原礫先生は、自ら用いる英語表現に明確な意味を持たせる作家なので、間違いなく観れば意味が分かるんだろうな、と思って今日、劇場へ参上した次第である。
 で、結論から言うと、上記2点のわたし的ポイントは、観ればちゃんと分かる内容になっていた。まず、ARについては、わたしの予想通り、自分の体を使って、(あくまでARとして)街中に現れるモンスターを戦って倒すもので、剣や銃器を使う、AR版モンスターハンター的ゲームであった。これは、従来の『ソードアート・オンライン』とは完全に方向性が違い、実に興味深かった。そして、わたしの心配した通り、キリトくんは普通の高校生なので、当然苦戦する。剣技(=ソードアート=Sword Art)が使えなきゃ、まあ普通の剣道経験ありの子供だからしょうがないわな、そりゃ。なので、この点をどう克服するんだろうと思っていたのだが、基本的にはBATMAN的にもう一度剣道の特訓をする的シーンが10秒ぐらいあったので、えーと、つまりちゃんと体を鍛え直した、ってこと、か、と納得することにした。ラストバトルでは、ARからVRへ切り替えていつもの無敵剣士に戻るので、その流れはちょっと驚いたけど、アリとしたい。ただし、今回のライバルキャラが、ARだというのに超絶な身体能力を発揮してくるのは、これはどういうことだろう?と感じたが、どうやら黒幕から得た謎技術によってスーパー身体能力を発揮していたらしい。ええと、そういうことでいいのかな?
 そしてタイトルの意味も、その黒幕の話す内容から大体理解することができた。そもそも、いわゆるMMOゲームというのは、Massively Multiplayer Onlinegameのことで、日本語訳すれば大規模複数参加オンラインゲーム、のことである。まあ『ソードアート・オンライン』という小説においてはそれをVR空間で行うためVRMMOと呼ばれているわけだが、普通、MMOの場合は、プレイヤーの「レベル」が重要であって、レベルアップするにしたがって強くなるわけだ。そして同レベルのプレイヤーも数多く存在している。しかし、今回のARゲームでは、明確に設定される「ランキング」が重要らしく、ランキングを上げること、がゲームの目的らしい。ランキングが上がると、現実社会でいろいろな特典があったりするようで(たとえば飲食店のクーポンになったりとか)、そのランキング=序列、を測るものという意味だったみたい。これはわたしも結構ふわっとした理解なので、あまり自信はないです。まあ、何人が参加しているものなのか数字は説明があったような気がするけど忘れました。その割には、4桁~5桁ぐらいのランキングしか登場してなかったような気もする。てことは10万もいないのかな? よく分からんす。
 しかし、改めて考えてみると、このゲームをプレイするための「オーグマー」なるガジェットは、要するに同じ川原先生による別の作品『アクセル・ワールド』における「ニューロリンカー」のプロトタイプ的なものなわけだが……これ、外せばいいだけ、だよね……? おまけに、非装着者から見たら、相当、あいつらなにやってんだ?感があるよな……。作中ではもうほとんどすべての人々が装着しているような描写だったけれど、実際、こういうガジェットは、流行りものが大好きな、そして人と同じことをしたがる日本ではあっという間に広まるかもしれないすね。作品世界は2026年、9年後を舞台としているのだが、意外と今ある技術の延長線上で実現できるかもとは思った。ま、わたしはきっと買わないだろうけど。なんか、勝手にお勧めのケーキまで出される「便利な」世の中は、わたしが望む未来じゃあないだろうな、とわたしは強く思ったりもした。

 ところで。わたしは実のところ、本作を積極的に観に行くつもりは当初なかったのだが、とあるキャスティングを聞いて、これは要チェックだぜ、と思って今日の初日の第1回に観に行ったわけで、それは、日本が誇る二人(ホントは三人)のミュージカルスターが声優として出演することを知ったからである。わたしはミュージカルが大好きなので、神田沙也加ちゃんとプリンス井上芳雄氏の二人が出演すると聞いては、もう観に行くことは確実なのだ。
 で、実際その声優ぶりに関して言うと、まず、神田沙也加ちゃんは完璧だったと言ってもいいのではなかろうか。彼女が演じたのは、今回の物語オリジナルの、ARとして登場する歌姫役と、そのモデルとなった黒幕の娘役だが、まあとにかくうまい。歌も、どうやら5曲ぐらい歌ってくれる。わたしは、戦闘時に流れる彼女の曲をもっと前面に出してほしいのに!と思ったぐらいだ。もともと沙也加ちゃんは、オタクカルチャーにも理解がある人だし、ミュージカルで鍛えた歌声は、既に『アナ雪』でもお馴染みだけれど、今回も素晴らしかったと思う。彼女主演のミュージカルが今度あるのだが、やっぱりチケット獲るべきだったかもな……もう東京公演は売り切れなんだよな……わたしは1回だけ沙也加ちゃんをミュージカルで生で観たことがあるけれど、やっぱり可愛いしイイすね。大変お見事でありました。
 そしてプリンス芳雄氏だが、ズバリ、初めての声優挑戦であることを割り引いても、やっぱりまだ若干違和感あり、かも。彼が演じたのは今回の物語の、キリトくんと対決するクール(?)なライバルなのだが、チョッと背景的にも小者だったかなあ……。ただし、普段のミュージカルのように、決めるところはバシッと決めてカッコよく、この人、本気で声優の経験を積んだら相当凄いんじゃないかというポテンシャルは感じますな。そもそも芳雄氏は歌も芝居も抜群に凄い男なので、ぜひまた、声優にも挑戦してほしいと思う。つーかですね、芳雄氏を起用して歌わせないとは……その点だけ、ミュージカルファンとしては物足りなかったす。歌ってほしかった……!
 で、最後。上の方に(ホントは三人)と書いたのは、黒幕的存在を、日本ミュージカル界の大御所鹿賀丈史氏が演じているからである。ま、演じぶりは……ちょっとアレですかねえ……でも、本作は、エンドクレジットが全部終わったとに、30秒ぐらい(?)のおまけ映像がついているのだが、そこでの鹿賀氏の演じぶりは結構カッコ良かったと思います。でも、まあ、鹿賀氏を起用する意味はあんまりなかったんじゃないすかね。

 というわけで、全く取り留めないけど結論。
 『劇場版 ソードアート・オンライン―オーディナル・スケール―』は、シリーズを読んできたファンには大変楽しめると思う。まあ、全くモテない人間としては、相変わらずのキリトくんとアスナさんのアツアツぶりに、ぐぬぬ……と憤死寸前になることは間違いなかろうと思います。ま、わたしはシノン派なので、別にいいっすけど。今回、シノンはちょっとだけ活躍してくれますよ。そして、わたしがとても期待した神田沙也加ちゃんの声優ぶりは最高でした。でも歌が! わたしとしては歌をもっとちゃんと聞きたかった!!! そして、当然今後、「アリシゼーション編」のアニメ化を期待していいんすよね? あの、エンディング後のおまけ映像はそう受け取っていいんすよね!? 楽しみにしてますぜ! 以上。

↓ 最新刊発売中です。「アリシゼーション編」の「大戦後」のお話。面白かったす。



 

 このBlogで何度か書いた気がしてならないのだが、現在の現役最強映画監督決定戦が開催されたとしたら、おそらくは、Christopher Nolan監督を優勝候補に挙げる人は結構多いのではないだろうか。Nolan監督の創り上げる作品は、誰が見ても一段クオリティのレベルが高く、CGを使いながらも、本物の高い質感にこだわった映像も、そして、SFであれコミックヒーローものであれ、常に人間心理の追求に重きを置いた物語も、どちらも確実に「格上」感があると誰もが感じるのではなかろうか。
 Nolan監督が世間的に有名となったのは、たぶん監督第2作の『MEMENTO』であることは間違いなかろう。わたしも実際、『MEMENTO』を2001年に渋谷の今はなきパルコPart3の上にあったシネクイントで初めて観て、Nolan監督のことを知ったのだが、実のところ、結構トリッキーな、叙述ミステリー的な作風はあまり好みでなく、一応その後の作品も全部劇場で見ているが、ああ、やっぱりこの監督はスゲエ、とわたしが改めて思ったのは、2008年の『The Dark Knight』であって、結構あとの話である。なので、それ以前の作品、『BATMAN Begins』や、『The Prestige』などは劇場で観ていても、あ、これ『Memento』の監督だったんだ、と後で知るぐらい、あまり関心を持っていなかったのだ。大変情けないというか、審美眼のなさには我ながら残念である。
 しかし、『The Dark Knight』以降の純Nolan作品(監督していない作品はダメ)は、直球でわたし好みの作品が多く、『INCEPTION』や『INTERSTELLER』には大興奮し、今やすっかり大ファンなわけで、 こうしてファンになってから、再び旧作を観てみると、ああ、やっぱスゲエ、つか、なんでこれを劇場で見た時に興奮しなかったんだ? と当時の自分がまったく理解できない謎現象に悩まされることとなる。
 というわけで、先日、Nolan監督が『Memento』の成功の2年後に撮った初期作品、『INSOMNIA』がWOWOWで放送されたので、久しぶりに観てみることにした。調べたらちゃんとパンフレットも持っていたので、わたしがこの映画を劇場で観たのは間違いないのだが、それ以来、一度も観る機会がなく、ほぼ物語は忘れてしまっている。ただ、この映画の公開時に、わたしは「げえーーっ!! Stephen Kingの「INSOMNIA」が映画になるのかよ!!」と盛大な勘違いをしていたことは、やけにはっきり覚えていて、なーんだ、全然違うじゃん、と思ったことが当時の日記に書いてあるのをさっき発見して、我ながら頭が悪すぎて、笑ってしまった。
 (※補足:わたしが世界で最も好きな小説家であるStephen King氏の作品に同名タイトルの作品があるのです。わたしはその映画化だと、当時、結構本気で勘違いしていたらしい)
 というわけで、14年ぶりに、Nolan監督作品『INSOMNIA』を観てみて、こりゃあやっぱりすげえというか、Nolan節が炸裂しまくっている傑作だなあ、と思ったのである。我ながら実にアホだ。以下、いつも通りネタバレ全開ですので、読む際は自己責任でお願いします。

 うーん、だめだ、古くて日本語字幕付きの予告はないや……とりあえず、US版予告を貼っとくか。物語は、基本的には上記予告の通りで、アラスカで起きた殺人事件をLAからやってきた刑事が捜査するお話である。
 ただ、主人公の刑事の心理状態が問題で、どうやら彼は、LAでInternal Affairs(=内部監査部)の審問を受けていて、なにやら捜査に問題があったらしいことが語られる。そんな状況もあって、アラスカの旧友からの捜査協力に乗る体で、実際は内部調査から一時避難的にアラスカへやってきたらしい。万一LAでの審問の結果がクロ、となれば、自らのキャリアもパーだし、何より、審問の対象となっている捜査で逮捕したクソ悪党が、証拠不十分として釈放されてしまう。それは耐え難い、というストレスを抱えていることが結構冒頭で語られる。おまけに、アラスカに同行した相棒も、どうやら審問では真実を話す決心をしているようだし、かなり八方ふさがり的な心理状態である。そして、アラスカにやってきた主人公を悩ませるのが、「白夜」だ。夜でも明るく、心理的ストレスもあって、どうにも眠れない。タイトルのINSOMNIA=不眠症は、そういう状態を表している。
 そしてアラスカでの殺人事件はどんどんややこしくなっていく。ある証拠を餌に、犯人をおびき寄せようとしたところ、あっさりその餌に犯人が釣れ、主人公と相棒は追いかける。しかし、濃い霧で犯人を見失った主人公は、あろうことか相棒を撃ってしまうのだ。しかもその場面を犯人に目撃されており、主人公はさらにストレスにさらされることになり、眠れない夜が主人公の精神と肉体をどんどんと蝕んでゆき―――てな展開である。
 というわけで、見どころは、主人公がどんどん憔悴していく姿と、なぜ相棒を撃ってしまったのか、という点にある。この主人公を演じたのが、マイケル・コルレオーネでお馴染みのオスカー・ウィナーAl Pacino氏だ。わたしは久しぶりに本作を観ながら、段々とストーリーを思い出していったのだが、たぶん、初めて劇場で観た時は、ずっと、コイツ何やってんだよ、とイライラしながら観ていたのだと思う。
 しかし、改めて観ると、本当に今のNolan監督をほうふつとさせるような映像がてんこ盛りで、演出もまた実にNolan監督っぽい。っぽいというか本人だから当たり前なのだが、例えば、映像でいうと、もう冒頭からしてまごうことなきNolan監督らしい画だ。冒頭は、アラスカの荒涼とした地を飛ぶ小型飛行機である(これは上に張った予告でも使われてる)。この映像だけで、実にNolan監督作品だ。まるで『INTERSTELLER』の氷の惑星のような、この異世界感は凄い。そしてどう見ても実写に見える。おそらくは実写なのだろうとは思うが、ひょっとしたらある程度のCG合成も含まれているのかもしれない。とにかくさっぱりわからないが、この画は色調といい、質感といい、まさしくNolan監督だ。
 そして、キャラクター心理を表現するために、Nolan監督がとにかくいつも使う、フラッシュバックもバリバリに出てくる。冒頭から何度も現れる、白い布に血液と思われる液体がじわーーりとしみ込んで行く映像は、どうやら主人公の脳裏からどうしても離れないイメージらしく、本作では何度も出てくる。そしてラスト近くでそのイメージの意味が分かる仕掛けは、もう完璧Nolan印だと言ってよいだろう。
 こういった、Nolan的映像と、どんどんと深みにはまっていく主人公の心理は非常にマッチしていて、おまけに演じるAl Pacino氏の絶品の演技も合い重なり、実に上質で見事な作品だ、と、初めて見てから14年経ってやっと認識した。おせえっつーの。いやあ、この映画は面白い。つか、すげえ。
 もちろん、Al Pacino氏以外のキャストの演技も素晴らしい。まず、かなり前半で退場してしまう相棒を演じたのが、Martin Donovan氏。この役者は、わたしは名前が分からない、けど、絶対にこの顔は観たことがある、と調べてみたところ、残念ながら日本語wikiには載っていない(というかここ数年編集されてないんだろうな)のだが、この人は、わたしの大好きなMCU作品『ANT-MAN』に出てきた、あのS.H.I.L.Dのクソ野郎で、Michael Douglas氏演じる若きピム博士にぶん殴られて鼻血を出した、あの人だ。えーと、キャラ名なんていったかな……あ、カールソンだ。思い出した。今回はたいへん気の毒な役であったし、出演時間も短いけれど、なんというか実に印象深い芝居ぶりだったように思う。
 そして、アラスカで捜査に協力する現地警察の頭の回る賢い女子警官を演じたのが、これまたオスカー・ウィナー(しかも2回も受賞!)のHilary Swank女史。わたしはこの方が2回目のオスカーを受賞した『Million Doller Baby』が大好きなので、結果的にこの方も大好きである。この人は……美人……なんすよね? 非常に特徴ある顔立ちだけれど、やっぱりお美しいですな。そして今回は地元警察の紅一点な警官を見事に演じていたと思う。一人、事件の真相に近づいていく様子も良かったすね。そういや、最近この方をあまり見かけないけど、元気にしてるのかな?
 最後にもう一人。事件の真犯人を演じたのが、2014年に亡くなってしまったRobin Williams氏だ。そうか、この方もオスカー・ウィナーだったな(『Good Will Hunting』で助演男優賞受賞)。今回は、外面としてはまるで普通の男なのに、その精神はどす黒い殺人者という役を見事に演じ切っていると思う。非常にサイコなイカれたキャラで、じわじわとくる怖さがありますな。
 というように、役者陣も大変豪華でありました。
 あと、最後に音楽についてもメモしておこう。今回の音楽を担当したのはDavid Julyan氏で、初期のNolan監督作品はほぼすべてこの人によるものだ。長編デビュー作の『Following』や『MEMENTO』そして『The Prestige』がこの人が音楽を担当している。その曲調は、後のNolan作品すべてを担当しているHans Zimmer氏に大変似ているような気がする。わたしは実際、これはHans Zimmer氏かしら?と思ったほどだ。重低音の不協和音めいた曲、というより音、が非常に物語の緊張感を表しているようで、なんとなくわたしは『The Dark Knight』を思い起こした。
 というわけで、映像・演出・音楽・編集といったほとんどの要素が今のNolan監督の特徴を思い起こさせるもので、大変わたしは興味深い映画だと思った次第である。
 ――と、まあ、ここまで絶賛してしまって、今更なのだが、物語のスケール感という意味では、実に小さい。今のNolan監督作品で観られるような、壮大さは、全然ない。そういう意味では、こりゃあすげえ、という点も、普通に観たらまるで感じられないかもしれない。なので、おそらくわたしのような映画オタ以外の普通の人が観たら、わたしが何に興奮しているか、さっぱり通じないだろうし、この作品をそれほど面白いとは思わない可能性は大いにある。
 しかしだ。わたしは、主人公が最後につぶやくシーンは非常に素晴らしいと感じた。主人公は、地元女子警官に「相棒を撃ったのは(審問を恐れての)故意なのか!?」と聞かれ、つぶやく「……わからない……自分でも、本当にわからないんだ……ただ眠い……寝かせてくれ……」このシーンは、わたしはゾッとするほど心に刺さった。たぶん、主人公は、文字通り分からなかったのだと思う。なぜ霧の中で相棒に向けて銃を撃ってしまったのか。そして今願うことは、眠ることだけ。この主人公の心理は、Nolan監督の見事な映像によって完璧に表現できていたと思う。故にわたしはそのつぶやきに、そうだよね、そりゃあそうだ、と納得できてしまったのである。
 やべっ。ちょっとほめすぎたかもな。

 というわけで、結論。
 14年ぶりにChristopher Nolan監督による『INSOMNIA』を観てみたところ、こんな映画だったっけという驚きとともに、やっぱりNolan監督はすげえ、という思いが深まる逸品であることを確認した。 ただし、Nolan監督を知らない場合は、フツーなサスペンス映画で終わってしまうかもしれない。そういう意味では、万人にお勧めかというとちょっと微妙であることは申し上げておこうと思う。以上。

↓ そういえば、物語の構造として、この名作に非常に近いような気もしますね。 優作が最強にカッコイイ。1989年公開だからもう27年前か……。
ブラック・レイン デジタル・リマスター版 ジャパン・スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
マイケル・ダグラス
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2013-08-23 

 というわけで、毎週木曜日は『鮫島』ニュースのお時間です。
 つーかですね、今週も電子版で買ってみた週刊少年チャンピオンですが、うーーん……やっぱり『ドカベン』が読めないのがなんか淋しいというか残念だなあ……あと、今週は巻頭グラビアも電子版だとカットされてます。やっぱり普通に紙の雑誌に戻すべきか……悩みますなあ……まあ、ともあれ、我らが『鮫島』の最新単行本(11)巻が発売になってますので、絶対に買いでお願いします。わたしは電子版と紙の単行本両方買いました。

 というわけで、まずは週刊少年チャンピオン2017年第12号の概要です。
 ■巻頭グラビア:今週は<電子版>ではナシ。なんですが、どうも紙の雑誌版ではちゃんとグラビアがあるみたいです。SKEの大場美奈さんみたいすね。未確認ですが。
 ■『弱虫ペダル』:手嶋さんピンチの巻。しかし純太のピンチにはこの男が!泣ける!
 ■『牙刃道』:武蔵電撃を喰らうの巻。まあ、どうせこれも……。。
 ■『囚人リク』:ピカソ内海の陰謀の巻。やっぱり敵っぽいすね。当たり前か。
 ■『吸血鬼すぐ死ぬ』:半田のお父さん巻。ロナウドも苦労が絶えないすなあw
 ■『Gメン』:八神さんの過去の巻。数年前の因縁の話です。そして薫君強し。
 ■『六道の悪女たち』:転校生の巻。新章開幕で、新キャラ登場です。
 ■『BEASTARS』:裏市の巻。くせ毛を気にするジュノが可愛い!面白し。
 とまあ、こんな感じの週刊少年チャンピオンでありました。

 では、今週の『鮫島』ニュースをお送りします。
  先週は、5年前までクソ野郎だった常松の、心の転換点ともいうべき鯉太郎とのやり取りが描かれ、常松がやっと空流の力士として前を向いた、的な超泣ける話が描かれました。そして今週からは、現・幕内力士【毘沙門】の過去話が本格的に始まりましたよ。
 しかしですね、この【毘沙門】野郎は、今のことろズバリ言えば好きになれないので、この過去話を延々と描かれるとやだな……というのがわたしの偽らざる本音であります。ま、ちょっとならいいんすけどね……
 というわけで、【毘沙門】は、どうやら柔道出身であるそうです。高校生時代の本名、速川くん時代の活躍がまずは描かれました。この、出身高校には注目ですよ。なんと柔道着に書かれている高校名は「国見舘」。そうです。我々はこの高校名を知ってるはずです。佐藤タカヒロ先生が『バチバチ』の前に連載していた柔道漫画『いっぽん!』に出てきた高校すね。 なので、わたしは、やっばい、まさか速川くんは『いっぽん!』にすでに登場してたのか? と慌てて『いっぽん!』をあさってみたのですが、どうも速川君の名前は出てこないようです。ざっとしかチェックしてないので自信はありませんが。しかし、こういうときに電子書籍はやっぱり便利ですな。わたしはタブレットに『いっぽん!』も『バチバチ』も『Burst』も全巻ダウンロードしてあるので、すぐに電車内でチェックできました。ちなみに豆知識ですが、『いっぽん!』には、吽形さんも柔道時代の吉田くんの名前で出てきますし、現在週刊トップの記者である橋くんも、『いっぽん!』では主人公と同じ高校のレギュラーとして登場してます。
 それはともかく。柔道時代の速川くんは、これがまた天才と呼ばれるほど才能あふれた選手だったようで、オリンピックさえ期待されていた逸材だったようです。しかし、高校2年で全国を獲った時点で、「ん~~~~~~…もう柔道はいいかな~~~~~…」とあっさり見切りをつけてしまったようです。というのも、全日本強化指定選手合同合宿で、憧れていたA代表選手をブン投げてしまい、確実に自分の方が上だなあ、と実感して冷めてしまったそうです。
 なるほど、そうなんすね。まあ、実際その気持ちはわからんでもないですなあ……。でもお前、それならもっと強い奴と戦うためにオリンピックでも目指せばいいじゃんか! と言う気もするわけで、真のTOPを極めてないうちに、そう言って辞めちゃうのはもったいないというか、うーーん……井の中の蛙というか、二流なんだろうな……。
 そしてそんな時に相撲部屋からスカウトが来て、何の冗談だよと思いつつも、柔道にはないプロの世界であり、その頂点は神をも宿す存在になれる、という話を聞いてどんどん興味がわいたそうで、柔道を辞め、相撲部屋に入門したことが正解だった、と確信したのは、2週前に描かれた教習所時代に鯉太郎との稽古でブン投げられたとき、だそうです。
 それ以来、速川くんはことあるごとに鯉太郎に勝利の報告に現れます。序二段優勝、幕下昇進、そして十両昇進と着実に番付を駆け上がる速川くん。そして十両でも勝ちを積み重ね、鯉太郎に言います。
 「よお…次勝ち越せばアンタより先に幕内だよ 鮫島…」
 とうとう呼び捨てですよ。クソ生意気ですなあ!! しかし、わたしの怒りを常松が代弁してくれました。いいぞ常松!!
 「おいっ! お前最近調子に乗りすぎだぞ!!」
 「当たり前だろ…番付は今や俺の方が上なんだぜ…つーかお前も誰に物言ってんだ?強い奴が偉いって、お前が言ってたことだろ…低すぎたんだよね…鮫島(アンタ)は俺の山としちゃ…」
 かーームカつく!! しかしこう言われてしまうと、常松もぐぬぬ……と何も言えないすなあ。そして、まだ髷も結えないうちに幕内力士【毘沙門】となった速川くん。鯉太郎をあっさり追い越し、相撲熱も冷めるのかと思いきや、そうではありませんでした。新たな山を見つけたのです。それは新入幕力士として参加した巡業の時でした。
 申し合い稽古で、いつものように空気を読まず、次!次は俺!と元気よく申し合いに参加するも、誰も幕内力士は相手にしません。とある力士は「どけ…顔じゃねえ…」とあっさり申し合いを断ります。逃げてんじゃねーぞ!と切れたところで、別の力士が言います。
 「ハハハ いいじゃねーか…元気があって…」
 こう言ったのは誰か、そして「顔じゃねえ…」と断ったのは誰か!? わたしは期待でドキドキしながらページをめくりましたよ。まさか……まさかこの力士は……!!
 「ひとつ相手してやれよ…王虎…」
 キターーーー!! 【王虎】が久々キター! そして、なんと【王虎】にそう言ったのは、『鮫島』での新キャラ【百雲】関だそうです。だそうです、と書いたのは、顔を見てもわたしにはわからなかったからなんですが、【百雲】は、第71話(単行本(9)巻収録)で初登場した力士で、あの時は「時に徹底した非情さで相手を沈める」関脇として、おっかない顔の横顔しか描かれてなかったわけで、今回のような温和な顔の【百雲】関は初めてです。しかも、周りの力士の会話では
 「さすが百雲…」「王虎に物を言える数少ない力士の一人…」「角界の良心と言われる男…」
 だそうで、ちょっと第71話の時の【百雲】関からは想像がつかない評価です。こりゃあ、【百雲】回も今後あるかもしれないすね……
 ともかく、【王虎】も、【百雲】関にそう言われては仕方ありません。「一番だけだぞ…」と嫌そうに申し合いを受けることにしました。そして……結果は【王虎】の完勝、【毘沙門】の負けです。この【王虎】VS【毘沙門】の戦いは、稽古とは言え激しいものがあります。何しろ稽古だってのに、そして相手は【王虎】だってのに、立ち合いはいきなりの張り差しで、【王虎】をひっぱたいたわけで、そんな戦いに、周りの力士たちは、稽古だってのに何やってんだよとブーイング。ちなみにこの中には、【闘海丸】くんもいて、【王虎】の攻めを全部いなした【毘沙門】に、一人こっそりこいつは要注意だぞ的な表情です。ブーイングの先輩力士たちに、【毘沙門】は、はぁ?何言ってるのかマジでわからねえ、という顔で、「何やってるって…勝とうとしただけだろ…」と戸惑いフェイスです。
 そんな【毘沙門】に、【百雲】関も、これは大したタマだと感心のご様子。そしてひっぱたかれた【王虎】も言います。
 「おいサーカス野郎…テメー名前は…」
 「毘沙門ッス! ※超満面の笑み」
 「次張り差ししたら殺すぞ…」
 というわけで、速川くん改め幕内力士【毘沙門】は、【王虎】という高い山を見つけたのでありました……というところで今週は終わりです。
 しかしまあ、5年前に入門して、まだ髷も結えないうちに幕内力士になったということは4年前ぐらいなんですかね? てことは4年間、平幕なわけで、その間【王虎】はもう大関になってるわけだから、【毘沙門】もずっと【王虎】やほかの力士に負けているってことになるんでしょうな。高い山がいっぱいあったと、そういうことなんすかね。うーん、意外と大したことがないような……まあ、何らかの壁にブチあたったということなのかな。そのあたりが来週以降描かれるのかもしれないですな。楽しみですが……あまり回数を長く続ける必要はないような気もします、コイツには。 とりあえず、来週以降も楽しみです!
 というわけで、最後に、毎週のテンプレを貼って終わります。
 <場所:9月場所>
 【鮫島】東前頭十四枚目(5月場所で東前頭十枚目)
 【白水】西小結
 【松明】東前頭六枚目。常松改め。本場所は7連勝中
 【大吉】序2段【豆助】序ノ口【目丸手】序二段【川口】不明
 ------
 1日目:【飛天翔】西前頭十二枚目。石川改め。
 2日目:【宝玉光】西前頭十一枚目
 3日目:【舞ノ島】西前頭十枚目
 4日目:【巨桜丸】西前頭九枚目。新入幕力士
 5日目:【岩ノ藤】東前頭七枚目 
 6日目:【大山道】西前頭七枚目
 7日目:【蒼希狼】西前頭六枚目
 8日目:【丈影】東前頭四枚目。横綱の弟弟子
 9日目:【闘海丸】西小結
 10日目:【毘沙門】東前頭五枚目
 --------
 【王虎】&【猛虎】共に東大関
 【天雷】東関脇  【田上】番付不明※王虎の付け人をやってることが判明!!
 【闘海丸】西小結 他の力士は表にまとめた記事を見て下さい。
 【泡影】東横綱。第72代。29場所連続優勝中。63連勝中。モンゴル人。

 というわけで、結論。 
 今週は【毘沙門】回で、元々柔道選手で各界入りし、スピード出世で番付を駆け上がったその背景が描かれました。どうやらコイツには心・技・体の「心」が足りないみたいすね。でも、『バチバチ』や『Burst』時代はまったく「心」が足りていなかった【王虎】が今や大関。そしてそれは鯉太郎との激闘があったから、とわたしとしては思いたいわけで、この【毘沙門】野郎にも、きっちり教えてやってほしいですな。頼むぜ鯉太郎!以上。

↓ こちらも面白いです。全巻買うのはもはや義務だと存じます。

 

 去年の3月頃、わたしはその時大変お世話になっていた美人のお姉さまに教えてもらった小説、高田郁先生の『みをつくし料理帖』というシリーズをせっせと読んでいて、これがまたとても面白く、最後まで楽しませてもらったわけだが、『みをつくし』は全10巻で完結していて、一気に全巻を読破してしまったわたしとしては、主人公の澪ちゃんにもう会えないのか……と一抹の淋しさを感じていたのであります。しかし、既に高田先生による『あきない世傳』という新シリーズの刊行が始まっていて、じゃあそっちも読んでみよう、というわけで、夏ごろにその新シリーズの2巻が出るころのタイミングで1巻・2巻を読んでみたところ、こちらもやはり面白く、これはしばらくこのシリーズを楽しんでいけそうだ、という確かな手ごたえを感じたわけである。そして先日、『あきない世傳』の3巻目が発売になったので、待ってたぜ!と早速買い求め、読み出したところ、2日で読み終わってしまった。今巻でも、またもや、なかなかのピンチに陥る主人公「幸(さち)」ちゃん。果たしてこの女子に幸せはやって来るのだろうかと大変心配だが、結論から言うと今巻もとても面白かった。

 ハルキ文庫は、どうも電子書籍には興味がないようで、まだ紙の本しか買えない。版元である角川春樹事務所の作品で電子書籍化されているのは、どうやらごくわずかなようだ。たしか、社長たる角川春樹氏は、どっかで本屋さんの味方です的なことをしゃべっていたと思うが、まあ、電子で出ないなら出ないでそれでも構わない。いっそ、電子では出さない、という方針を明確にしてくれた方が、電子版が出るまで待つか……とイラつくこともないので、わたしとしてはその判断はアリ、だと思う。
 しかし、紙の本の場合は、発売日が非常にあいまいで、これは流通上やむを得ないというか業界的な慣習なので仕方ないのだが、版元のWebサイトでの発売日の告知は昨日だったと思うが、おとといには書店店頭に並んでいて、わたしもおととい買い、昨日読み終わってしまった。ま、そんなことはどうでもいいけど。
 さて。まずはおさらいと行こうか。本作『あきない世傳』シリーズは、舞台を大坂のとある呉服屋さんに据え、そこへ女衆として働きに出た当時9歳の少女「幸(さち)」ちゃんが、その賢い頭脳を駆使して、成り上がるサクセスストーリーである(たぶん)。現在はまだ序章的な始まったばかりなので、全然サクセスしてませんが。時代と時間軸をまとめると、こんな感じ。
 【1巻】:冒頭は1731年。幸は7歳。武庫川のほとりの今でいう西宮あたりの農村在住。学者だった父や、優しく賢く大好きだった兄を亡くし、大坂の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公にあがることになる。その時9歳(1733年夏)。1巻ラストでは13歳まで成長。五鈴屋の三兄弟が非常に対称的で、今気が付いたけれど、そういえばカラマーゾフの兄弟の三兄弟に、キャラ的に結構似ているような気がするな。長男は荒くれ者で色里通いのクソ野郎だし、次男は冷徹な商売のことしか考えない野郎、そして三男は心優しい、的な。それぞれのキャラ紹介は、1巻を読んだときの記事を参照してください。
 【2巻】:長男のクソ野郎が、とてもいい人だったお嫁さんと離縁し、幸ちゃんを嫁に迎えることになり、幸ちゃんは女衆から一気に「ご寮さん」(大坂商人の旦那の奥方)にクラスチェンジ。ただし長男がとことんクソ野郎でえらい目に遭う。が、ラストで長男死亡、そして次男が、じゃあ幸ちゃんを嫁にもらっていいなら、後を継いでもいいぜ、と衝撃の展開に。このラストの時点で幸ちゃんは17歳まで成長。長男のクソ野郎の唯一褒められる点は、幸ちゃんを力づくでモノにしようとはしなかった点で、まあ、幸ちゃんもまだ子供だったので助かった、という展開。
 で、今回の【3巻】ですが、今回もまたかなり大変な展開が待っていました。時間軸的には、主人公幸ちゃんは、ラストでは21歳かな? だいぶ成長しました。そしてすっかり別嬪さんにおなりで、大変よろしいかと存じます。
 そして今回、商売部分のポイントは、現代ビジネス視点からも非常に面白く、長男のクソ野郎が毀損してしまった五鈴屋の信用をどう回復するか、そして次男のビジネス改革を店員たちや顧客にどう受け入れてもらうか、という点にあった。
 次男のビジネス改革は、主に3つのポイントにまとめることができる。
 ◆売掛金の回収サイトの変更
 これは、当時は年末一括払いというのが当たり前(?)だったのを、年5回の売掛回収とするという方針で、さらに、店員たちに毎月の販売ノルマを課すというおまけ付きであり、当然みんな、え―――っ!? と困ることになる。現代ビジネス感覚から言えば、回収サイトが早まればもちろんキャッシュフローも良くなり、経営にとってはいい話だけれど、長年の付き合いのある顧客からすれば、ちょっと待ってよ、と反発を喰らうのは当然だろう。しかし、次男は、「ガタガタいう顧客は切っていい」と強気で一歩も譲らない。まあ、わたしとしては、この改革は実際アリ、だとは思う。従来は年1回の回収ということで、ちゃんと利息も取ってたそうで、その利息分、安く提供できるじゃん、というのが次男の理論らしいが、それはアリとしても、社長たる自分は何もせず、従業員に押し付けるのはちょっとどうかな、と言う気もしなくもない。が、とにかくこの改革は成功する。
 ◆宣伝広告をするのだ!
 この、売掛回収期間の変更を周知させるにはどうしたらいいか。どうやら当時も、現代で言うチラシ的なものはあったそうだ。しかし、幸ちゃんのアイディアで、貸本の草紙本の空きスペースに広告を出すことを思いつく。そしてそれはまんまと成功。また、かつて2代目五鈴屋時代に、傘に店名を入れたものをレンタルしていたことがあった、という話を聞いた幸ちゃんは、そ、それだ――!! と喰いつき、五鈴屋オリジナル傘を販促のために配布するアイディアをひらめく。そして次男もその策を採用し、瞬く間に評判になる。この宣伝広告、あるいは販促施策は非常に現代的で読んでいて面白かった。ま、雑誌広告みたいものだし、販促アイテムの配布も、まさしく現代でもやってることですわな。ここは大変面白かった。
 ◆仕入先の変更
 従来、五鈴屋は、京の問屋から仕入れた反物を販売する小売店なわけだが、それではどうしても、五鈴屋オリジナルの商品がなく、競合店との差別化ができないわけです。どこかいい織物を織っている産地はないものかと次男は悩んでいたのだが、幸ちゃんのひらめきで、有名な生糸の産地に、糸だけじゃなくて織物も生産してもらえばいいじゃね?ということに気づき、生糸の産地へ交渉に向かう次男。ついでに設備投資の資金を貸し付けて、独占契約を結べば、小売りだけではなく卸もできるじゃん、とイイこと尽くしのように見えたが……ラストに大問題が発生してしまう。
 この大問題は、次男の性格に由来するもので、読んでいる読者から見れば、まあ、そうなるわな、と非常に残念なお知らせだ。こと、ここに至るまでの間に、幸ちゃんと次男の間の関係性が丁寧に語られていて、大変分かりやすい物語だと思った。
 次男は、とにかく商売優先で、あきないに情けは不要、というポリシーを貫いている。幸ちゃんとしては、そういう次男の態度にはいちいちイラッとしてしまうわけだけれど、あきないに対する情熱は本物だと思ったから、嫁になることも承諾したわけで、そういう次男のポリシーが産む軋轢(対店員、対顧客、対仕入れ先、対同業者組合、とステークホルダーをことごとく怒らせる困った社長)を、少しでも解消してあげようと思っていたわけです。しかし、宣伝広告や仕入れ先など、ことごとく幸ちゃんのアイディアが生きてしまって、社長としては面白くないわけですよ。つまらん男のプライドですな。その果ての暴走が、ラストの大問題を引き起こしてしまうわけで、こういった点も、現代ビジネスマンが読んでも非常に面白いと思う。
 わたしも営業経験があるし、経営の根幹にも携わってきたので、今回の話は大変興味深かった。まあ、次男は残念ながら社長の器にあらず、でしょうな。有能なプレイヤーが有能なマネージャーになれるかという問題は、現代でも難しいわけで、有能な人間は自分で何でもできてしまうから、人の使い方が下手、ってのは非常に良くあるパターンであろう。わたしは、商売、というより、ビジネス全体に対して常に思っている鉄則がある。それは、目上であれ目下であれ(買う側であれ売る側であれ)、「相手を怒らせたら負け」という鉄則だ。常に、相手を笑わせ、気持ちよくさせるのが勝利の鍵だとわたしは信じているので、心の中では「ちくしょうこのクソ野郎お前との取引はこれが最後だ死ねバカ」と思っていても、満面の笑顔で商談できるし、何かお願い事がある時は、全身で「お願いしますアナタが頼りなんです」的オーラを醸し出して、何気にこちらに有利な条件で相手を説得することも得意技だ。勿論、感謝も全身で伝えるし、仕事に関係ないようなどうでもいいアホ話だけしかしないで帰ることもある。極論すればそれらのわたしのテクは、まさしく情に訴えかける方向性であり、相手を怒らせることは、一番やってはいけないことだと思っている。何しろそこですべて終わってしまうし、相手の怒りを鎮める手間も時間ももったいない。
 現代社会のビジネスは、ほぼ契約に縛られているので、実際のところあまり情に訴える必要はなく、クールに淡々とこなせる部分も多いかもしれないが、次男の態度では、いずれ破たんが起きるんだろうな、というのは読みながらずっと思っていたことなので、ラストの大問題発生も、残念ながら自業自得としか言いようがない。
 今回、その大問題発生で物語は終了したのだが、はたして今後、どう続くのだろうか?
 わたしは、実は最初から、きっと幸ちゃんは心優しい三男と結ばれるんでしょうな、と思っているので、長男死亡、そして次男がこのまま立ち直れなかったら、いよいよ三男の出番か? と短絡的に考えてしまうが、次男は次男で、5年以内に江戸進出を果たす!など、経営者としてのビジョンはしっかりしているので、ここで退場させてしまうのは実にもったいないような気がする。しかし一方で、幸ちゃんは、商売における戦国武将になる!的な野望があるので、実際のところ次男とは恐らく今後も折り合うことはないような気もする。ということはあれか、幸ちゃんは江戸支店長に抜擢、単身江戸に向かう、そして三男も作家として江戸でデビュー、とかいう展開はアリかもなあ。

 というわけで、結論。
 高田郁先生による『あきない世傳 金と銀(3)奔流篇』を読み終わったわけだが、今回は非常にビジネス面でも興味深く、また各キャラクター達の動向も大変面白かった。つーかですね、公式発売日の翌日なのに、大変恐縮なのですが……高田先生! 次の4巻はいつですか!!! 超楽しみに待ってます!!! あ、あと、『みをつくし料理帖』がNHKドラマになるそうで、しかも主人公の「澪」ちゃんを演じるのが黒木華ちゃんであることが発表されました!! わたしに『みをつくし』を進めてくれた美人お姉さまが言った通りのキャスティングで驚きです。さすがHさん、お元気にしてますか!? たまにはご連絡くださいませ! 以上。

↓ わたしの愛する宝塚歌劇で舞台化された、高田先生のこの作品、そろそろ読んでおくかな……。
※2017/4/12追記:やっと読みました。大変面白かったです。記事はこちらへ

 というわけで、毎週月曜日は週末映画興行データです。
 つーかですね、この週末は『マリアンヌ』と『王様のためのホログラム』の2本を観たのですが、ともに観客は70代~60代ぐらいのご夫婦ばかりでした。最近、映画を観に来ている夫婦、という図を非常に頻繁に見かけますが、まあ、常にぼっち鑑賞しているわたしから見ると。なんというか仲が良いのはうらやましいというか微笑ましいすな。 そして、ホントに中学生高校生で映画を一人で観に来ている図というのも、作品によるけれど、めったに見かけないすね。ま、現代の若者にとっては映画は相当優先度の低いコンテンツなんでしょうな、とりわけハリウッド作品は。まったくもって、時代は変わったものです。えーと、そんなことはどうでもいいので、今週はランキングをさらっと見て終わりにしよっと。そういえば、東映(3月末決算)の、第3四半期決算の数字がそろそろ開示されるはずなのだが……あ、明日(2/14)の発表ですって。じゃ、来週取り上げることにしよう。

 さてと。それではいつも通り、興行通信社の大本営発表をメモしておこう。

 1位:『相棒―劇場版IV―』が公開土日4.01億円稼いで1位。さすが、シリーズIPは強いですな。ええと、今までのシリーズの公開土日の数字をメモっとこう。あ、『1』は2008年5月公開と古くて初動データ持ってないな……初動は分からんけど最終44.4億まで伸びて大ヒット。『2』が2010年12月公開で初週2.73億→最終31.8億。『3』が2014年4月公開で、初週2.74億→最終21.2億。改めて調べると、公開月がバラバラなんですな。揃えてきちんと定番シリーズにすればいいのに、と思うものの、まあ大人の事情があるんでしょうな。そして『2』と『3』は初動はほぼ同じなのに、最終で10億も差がついている。年末公開とGW公開、というわけで、それほど公開時期の有利不利はなさそうだけどな。内容をまったく知らないので、この差の原因は良くわからんす。で、今回は4億スタートと過去最大初動だそうですが、果たして最終的にどのくらい行くか、要注目ですね。あ、もしかして東映はこの興行成績を待ってから第3四半期決算を発表したかったのかも?と今、気が付いた。超邪推ですが。
 2位:『サバイバルファミリー』が公開土日で1.65億稼いで2位。1位と比べるとだいぶ差がありますな。こちらは出だしとしては10億に届くかどうか、の普通のスタートと言ってよさそうな気がします。
 3位:『ミス・ペレグリント奇妙な子供たち』が10日間合計で6~7億ぐらいと見積もる。どう計算したかというと、2位が土日で1.65億ということは、3位のこの作品は単価が高いと見積もっても1.6として、平日に2億程度稼いだとして、先週時点の2.79+2+1.6=6.39、というわけで、平日もっと稼いでれば7億超えたかも。稼いでなければ6億すれすれか、とまあこんなテキトーな計算です。
 4位:『キセキ―あの日のソビト―』が16日間合計で9~10億ぐらいか? 10億を超えた可能性もあるか。
 5位:『ドクター・ストレンジ』が17日間合計で、13~14億ぐらいと見積もる。もうチョイ行ったかな? 少なくとも最終的に20億は超えてほしい、という願望込みです。
 6位:『君の名は。』が25週目にして、1億~2億積んだとして242~243億ぐらいでしょうか?
 7位:『マリアンヌ』が公開土日で1億とどかずか。金曜公開分含めても1億のったかどうかぐらいでしょうか。これだと、最終5億ほどの着地に至ればいい方、ということか。ま、フツーの洋画の規模すね。非常に正統派のラブロマンスで、わたしはアリだと思いました。
 8位:『この世界の片隅に』が93日間でとうとう20億超えたそうです。よっしゃ!
 9位:『君と100回目の恋』は公開9日目で、累計3億ほどと見積もる。オリジナル脚本なので応援したいところだけれど、ちょっと対象年齢とわたしは離れすぎっつーか……。
  10位:『恋妻家宮本』が16日間合計で4~5億ほどと見積もる。最終10億は微妙ラインか……。こちらももう一声稼いでほしいところだったけど、来週はランク外かも……。

 とまあそんな週末でありました。

 特にもう書くことはないんですが、わたしとしては今週の金曜日から公開になる『セル』が超楽しみで、既にムビチケカードも購入済みっす。超B級臭がプンプンしてるんすよね……原作はわたしの大好きなStephen King氏の小説で、携帯電話の電波で人がゾンビ化(?)するヤバいお話です。ま、正確にはかなり違うんですが、全く売れそうにないので、わたしはせっせとお布施として奉納してまいります。主演は、同じKing作品の名作とわたしが思っている『1408号室』のJohn Cusack氏とSamuel L Jackson御大のコンビなので、これまた期待が高まりますな! 公式サイトで劇場数を数えたら37かな? これは間違いなく来週のTOP10に入らないと思いますが……はーーヤバイ。楽しみだ! 一応予告を貼っときます。ご興味ある方はぜひ劇場へ!

 

 先日読んで、このBlogでもレビューを書いた『The Circle』という小説がある。ま、詳しいことは過去の記事を読んでもらうとして、その内容は実に後味悪く、恐ろしい近未来を描いた作品だったが、作者は確信犯であり、あえてひどい近未来世界を描くことで、現代を皮肉っているのは間違いないわけで、その手腕はなかなかじゃないか、と大いに感じるものがあったのは確かだ。
 その、著者であるDave Eggers氏とは何者なんだろうと調べてみたら、同氏の別の作品が、映画化されると知って、へえ? と思い、 予告編をチェックしたところ、なかなか面白そうだったので、日本公開を待っていたのだが、今週からいよいよ公開となったので、さっそく劇場へ足を運んだ次第である。ちなみに、わたしが読んだ『The Circle』もEmma Watsonちゃん主演で映画化されるので、まあきっと売れっ子作家なんでしょうな。
 というわけで、わたしが今日見た映画のタイトルは、『A Hologram for the King』。「王様のためのホログラム」という直球の邦題がつけられている。そして観終った今、思うことは、まず第一に、予告から想像できる物語とはまるで違っていたな、ということと、正直なところ、それほど面白くはなかったかな、という2点である。というわけで、さっそく予告を観てみていただきたい。あ、いつも通りネタバレ全開ですので、以下を読む場合は自己責任でお願いします。

 どうですか? 上記予告はご覧いただけただろうか? 上記予告を観たら、誰だって、主人公は敏腕営業マンで、ホログラムを使った画期的な会議システムをアラブの王様に売りに来て、そのあまりのカルチャーギャップに苦戦しながらも、最終的には見事にプレゼンをこなし、契約を得て、やったぜ!! で終わる――的な物語を想像するのではなかろうか? 少なくともわたしはそう思っていたし、きっと、なっかなか会えない王様にようやく会えてかますプレゼンがクライマックスなのだろう、と勝手に思い込んでいた。
 が、しかし。本作は、正直それは全くもって二の次で、実のところまるで違う物語だったのである。まず、名優Tom Hanks氏演じる主人公のキャラからして、全く敏腕営業マンではなかった。彼は、もともとUS国内では超有名な自転車メーカーSCHWINNの取締役で、わたしのようなチャリンコ野郎なら誰もが知る通り、SCHWINNは、現在もブランドとしては残っているけど会社としてはとっくに倒産・買収されて消滅した会社である。
 主人公は、90年代(かな?)に、生産工場を中国に移して、US国内の工場を閉鎖に追いやった張本人で、実際のSCHWINN同様、会社を消滅させた男の一人で、しばらく無職暮らしをしてから、現在のとあるIT大企業に転職したという設定になっていて、経済的に苦しい立場にあり、そのこともあって離婚と相成り、娘の大学の学費を払えと元妻に迫られている状況だ。
 また、どうやら彼は、ある種の燃えつき症候群的な状況にあって、何もやる気が起きず体もだるく、アラブの王様へ最新ホログラムシステムを売って来い、という上司の命令にも、かなりやる気がない。なにやら、背中に脂肪種らしき瘤ができてしまっていて、なにもかもこの瘤のせいだ、とか抜かしている。わたしは正直、こういう過去の名声だけだったり、無能なくせにやる気の見えないおっさんが大嫌いなので、ズバリ言うと観ながらほぼずっと、イライラしていた。空気も読めないし、酔っぱらってほぼ毎日遅刻するし。なので、物語は遅々として進まない営業活動の傍らで、毎日を異文化で暮らす中年おやじ、いや初老オヤジだな、の毎日を追うだけ、とまとめてもあながち間違いではなかろう。
 そんな彼が、酔っぱらって背中の瘤にナイフを突き立てて、翌日背中が血まみれになり、病院へ行くことになるのだが、そこでのアラブ人女医との出会いが、ほんの少しだけ、彼をまとも(?)に変えていくというのがこの映画の本当のメイン部分だ。ただし、その出会いから、最終的にお互いが魅かれあう姿に発展する模様も、正直なんだかピンと来ない。そしてラストは、プレゼンは好評を博したものの、ライバルの中国企業に負けて契約は取れず、主人公はそのままサウジアラビアにとどまって、仲良くなった女医さんと共に暮らしながら、王族の専任営業マンに転職し、かつての生き生きしていた頃のように楽しく暮らすのでありました、おしまい。的なエンディングであった。わたしとしては、かなり、なんじゃそりゃ感が大きくて、若干唖然である。
 こんなお話の映画であったので、わたしは、きっとこれは、原作を相当はしょったんじゃねえかしら、と思った。主人公にはどうにも理解できない、ある種不条理な状況に巻き込まれ、遅々として物事が進まない様子は、わたしは観ながら、さながらカフカの『審判』とか『城』みたいなお話だな、と思っていたのだが、この映画の場合は、物事が進まないのは、アラブの独特の文化が原因というよりも、単に主人公がダメ人間な方に理由があるとも言えそうで、そんな点もわたしとしてはイライラの募る物語であった。
 ただ、主人公を案内するアラブの青年は非常にキャラが立っていて、演技ぶりも良くて大変気に入った。彼は、とある金持ちの人妻と仲良くなって、その金持ち男から命を狙われているという状況で、こちらの方がよっぽど面白い物語になるような気がしたが、結局ラストであっさり単に仲良くなっただけで決してやましいことはしていない、と金持ちと和解(?)したようなシーンが5秒ぐらいあるだけで、全然どうでもいい扱いにされてしまったのが残念だ。ちなみに演じたのはAlexander Black氏というNY生まれの青年らしいが、全然見たことがないのは主にTVで活躍しているかららしい。彼は大変良かったすね。
 そして主人公と恋仲になってゆく女医さんは、演技ぶりは堅実であったけれど、イマイチ背景がわからないままで、文化的な面もわかりづらく感じた。彼女は、現在離婚手続き中なんだそうだが、アラブ社会での離婚、と聞いただけで、そりゃあきっと大変なんだろうな、と想像できるし、実際作中でも大変だった、的なセリフがあるけれど、もうちょっと描いてくれないと全然ピンとこない。豪邸に住んでいるけどその豪邸は彼女のものになったのか、夫の家なのかもわからない。そういう細かい説明が省かれすぎてて、どうにも主人公と恋仲になる気持ちの動きもピンとこないし、最後までよく分からないままであったのは実に残念。これも、きっと原作小説にはきちんと描かれていると信じたい。演じたのはSarita Choudhuryさんという方で、London出身の英国人だそうですな。この方は、『HUNGER GAMES』のラスト2作に出てたみたいす。
 最後。監督はTom Tykwer氏という方だが、この方の前作はTom Hanks氏主演の『CLOUD ATLAS』だそうだ。でも、あの作品って、『MATRIX』シリーズでお馴染みのWachowski姉妹が監督じゃなかったっけ? ははあ、共同監督だったのか。たしか3時間ぐらいの長い映画だったけれど、あれはとても面白かった。そうだ、『CLOUD ATLAS』で思い出した。あの作品で、リアルBLシーンを演じた、若きQでお馴染みのBen Whishaw君が、本作でも出演してました。しかも、本社の開発担当者として、主人公が売ろうとしているホログラムでの出演w ま、友情出演的な扱いなんすかね。あまりのチョイ役ぶりにちょっと笑えました。

 というわけで、どうもまとまらないけれど結論。
 『A Hologram for the King』という映画は、その原作小説の著者であるDave Eggers氏に興味があるので観てみたわけだが、はっきり言ってイマイチであった。それは、主人公のキャラに共感できないのと、あとは、想像だが原作小説を相当はしょってんじゃねえかという各キャラの背景の薄さによるものである。うーん、だからと言って、原作小説を読むか、という気には今のところなれないなあ。まあ、Eggaer氏の『The Circle』の映画は期待して待ってます。以上。

↓ 一応原作が読みたくなった時のために貼っとくか。ひょっとしたら映画と全然違うのかもな。
王様のためのホログラム
デイヴ エガーズ
早川書房
2016-12-20

 Brad Pitt氏といえば、誰もが認めるスーパーイケメン野郎だ。1963年生まれの現在53歳。まあ、いつの間にか立派なおっさんだ。このところ、離婚問題でちょっと話題になっているわけだが、まあそんなプライベートはどうでもいい。実のところ、わたしはこのイケメン野郎は結構演技派だと思っている。意外と、というと大変失礼だが、この男、実に演技がしっかりしていて、わたしとしてはDiCaprio氏より断然上だと思っているので、2008年の『Benjamin Button』でオスカーを獲れなかったのが非常に残念に思っている。あの映画での演技は、わたしとしてはあの年ナンバーワンだと思ったのだが、『Milk』でのSean Penn氏にかっさらわれてしまったのが未だに惜しかったなあ、と思う次第である。
 そんなBrad Pitt氏の主演映画が、今日から公開になった。
 タイトルは、『ALLIED』。えーと、強いてカタカナで表記すると「アライド」。ありーど、じゃないす。ビジネス用語でよく使う「アライアンス」の動詞の「ally」の過去分詞であり、2次大戦の「連合国軍(=The Allied Force)」を表すのによく使われる単語だが、辞書的に訳すと「結びつけられた」という意味にもなるだろうし、そこから転じて「同類の」という形容詞でも使われる単語だ。物語はまさしく「連合国」内のお話で、フランス領モロッコのカサブランカで出会ったフランス人女性スパイと、カナダ人軍人という「同類の」二人が極秘作戦中に恋に落ちて「結び付けられ」、モロッコでの任務終了後に共にロンドンへ渡って結婚し、幸せに暮らす……のだが、実は女性はナチスドイツの二重スパイなんじゃねえかという嫌疑をかけられ、主人公たるカナダ人の軍人が 超ピンチに陥る、とまあそんなお話であった。なので、タイトルの『ALLIED』という言葉は、この映画にはいろいろな意味があると思う。
 しかし、日本語タイトルは「マリアンヌ」と若干メロドラマっぽいものになってしまったわけで、それがいいか悪いかはともかく、わたしは観終った印象として、なんとなく日本のメロドラマっぽいお話だったなと強く感じたのである。というわけで、以下、いつも通りネタバレ全開ですので、読む場合は自己責任でお願いします。

 まあ、ストーリーの概要はもうすでに書いたけれど、上記予告で示されるとおりだ。このところ、Brad Pitt氏はいつも髭ボーボーだったり無精ひげだったりロン毛だったり、若干むさ苦しいツラが多いけれど、今回はやけにすっきりキレイなイケメンぶりである。そのせいか、確かどこかのプロモーションでは「久しぶりの正統派二枚目役」的な惹句を見かけたような気もする。たしかにその通りで、今回はキャラ的に突飛だったり癖のあるような役ではなく、その見かけ通り実に正統派で、いっそわたしの愛する宝塚歌劇でミュージカル化してもいいんじゃねえかしら、とすら思ったほどだ。そして物語も実にストレートで、ホント、わたしは何故だか、妙に昭和な日本ドラマを思い起こした。そうか、そうだよ! 物語もすげえ宝塚っぽいんだ! 王道って言えばいいのかな、とにかく、年に宝塚歌劇を10本以上観るわたしには、大変おなじみな展開というか、実に宝塚的なお話だとわたしは感じたのである。時代的にも、物語は1942年から1943年にかけて、だったかな、日本で言えば明確に昭和を舞台にしているわけで、その時代設定も影響したのかもしれないな。
 主人公がカナダ人という設定も、ちょっと珍しいかもしれないが、フランス領モロッコ(のカサブランカ)への潜入ということで、フランス語を話すシーンがいっぱいあるわけで、まあそのせいもあってカナダ人という設定になったのかもしれない。本作は、原作小説があるのかな、と思ったけれど、どうやら映画オリジナル脚本のようだ。おそらくは、Brad Pitt氏主演で2次大戦モノで恋愛ドラマを作ろう、という形で企画が動き、舞台はやっぱり、往年の名作『Casablanca』と同じにして、ヒロインはフランス人に設定し、それならフランスが誇る美女、Marion Cotillardさんをキャスティングしよう、みたいな流れだったのではないかと勝手に想像する。その過程で、フランス語をしゃべるならカナダ人にしよう、みたいな。いや、サーセン。これはわたしの勝手な妄想なので、本当のところは分かりません。
  しかしですね、とにかく、ヒロインを演じたMarionさんは美しく、これまた宝塚歌劇の娘役が演じてもいいような、強くて、そして愛の深い、実に印象的なヒロインだったと思う。この方も、すでにオスカーウィナーだし、演技のほどはもう素晴らしかった。こんな女性と夫婦を演じろ、なんて任務を受けたらですね、そりゃあ、常に冷静な軍人であろうと、恋に落ちますよ。恋に落ちない男はいないと断言してもいいね。とにかく超美人だし、なんというか……微妙に切なげだし。
 なので、上官からは、そんな作戦を共にした女と結婚するなんて、どうかしてるぞ、と注意されるけど、別れるなんてそりゃあ無理っすよ。いずれにせよ、カナダ人とフランス人の恋であり、舞台はモロッコ(の都市カサブランカ)とロンドン、というわけで、ちょっと珍しい。物語は、前半はモロッコでの作戦、後半はロンドンでの生活とスパイ疑惑、と明確に分かれている。時間配分もほぼ半分ずつであった。なので、映画として前半と後半は結構トーンが違っている。
 まず前半。やっぱり、本作の監督であるRobert Zemeckis氏はCGの使い方が実に巧みで、本作でもそれは存分に発揮されていたと思う。おそらく、二人がモロッコの砂漠にいる画は、CGだと思う。けど超自然すぎて全然自信はありませんが、Zemeckis監督ならありうる。あ!パンフに書いてあるな。やっぱりスタジオセット&CGだそうだ。ついでに言うと、オープニングシーンの、主人公が砂漠にパラシュート降下して降り立つ場面も完全にCGだろう。非常に独特な、Zemeckis監督らしい画だとわたしは冒頭から、すげえ、と感じた。
 そして後半、空襲にさらされるロンドンも、セットとCGの融合だろう。とりわけ、ヒロインが空襲のさなか、愛らしい女児を出産するのだが、あのシーンは相当なCGがつめこまれていると思うな。とにかくZemeckis監督の創造するCGは、超自然すぎて毎度ながらすげえと思う。去年の『THE WALK』もホントに凄かったもんな。そういった画としてのすごさは、Zemeckis監督の場合、そのすごさを感じさせない非常に自然だという点で世界一レベルだと思う。

 というわけで、役者は美男美女だし、お話も王道だし、これは女性に非常に受ける映画なのではないかと推察する。何度でも言うが、実に宝塚っぽい。なので、男が観た場合は、若干、ケッ!っと思われる方もいるかもしれないな……。
 しかしですね、まさしく、「だが、それがいい!」のですよ。わたしは、実は結構ラストはグッと来た。そう来たか、という意外性はあまりないとは思うが、やはりBrad Pittというある意味最強イケメンと、Marion Cotillardという世界有数の美女が真正面からド真面目に王道のラブロマンスを演じられたら、もうその世界にひたるのが正しい姿であり、そこをとやかく文句を言うのは、モテないブサメンに違いないと思う。まあ、わたしもモテないブサメンですが、わたしはこの作品をちゃんと楽しめました。なにしろわたし、宝塚歌劇が大好きなんでね。これで二人が歌っちゃったら、もう最高すぎて大感動!だったかもな。いやあ、実に良かったです。

 というわけで、もう何が言いたいかわからなくなってきたし眠いので結論。
 Brad Pitt氏主演の『ALLIED』(邦題:マリアンヌ)を、初日の今日、金曜の夜だってのに一人で観てきたわけだが、お話は、美男美女の正統派ラブロマンスということで、なんとなく昭和の香りのする恋愛ドラマであった。そして、宝塚歌劇が大好きなわたしは、実にその宝塚的王道ラブロマンスに酔う2時間を過ごしたわけである。一人で。なので、女性には特におすすめしたい。エンディングはかなり悲しい結末になるが、それがまたいいわけでですよ。これは……男には難しいかもな……という気もするが、わたしとしては万人にお勧めしたいところである。ぜひ、ブサメンの皆さんは女子とともに観に行こう! わたしは大変面白かったっす。以上。

↓ Marion Cotillardさんが主演女優賞を獲ったこの作品、実はわたし、観てないんすよね……もう品切れのようで、リンク先はクソ高い価格なので買わないでください。 
エディット・ピアフ 愛の讃歌 [Blu-ray]
マリオン・コティヤール
東宝
2012-02-24

 というわけで、毎週木曜日は『鮫島』ニュースのお時間です。
 つーかですね、3週間前かな、とうとう週刊少年チャンピオンも、紙媒体と電子版の同時発売が始まりました。で、今週から試しで電子で買ってみたのですが、やっぱいいすね! たまったチャンピオンを捨てるのも、若干面倒なわけで、わたしが愛用している電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERでは、毎週予約をポチっておくと、勝手に決済まで完了して、朝起きたらダウンロードも完了しているわけで、これでもう、コンビニの店員さんがもたもたして電車に乗り遅れる!と、プチイラつくこともないわけですよ。まあ、読み終わったら削除してもいいし、単行本が出るまでほっといてもいいし、少なくともわたしにとっては、マイナス点はないすね。あ! マジか! ひとつ残念なお知らせがあるな……マジかよ……『ドカベン』だけ電子版には掲載されてないな……ぐぬぬ……ううう……ど、どうしよう……。ちなみに、今週いっぱいは,過去のバックナンバーが10円で買えるようなので、買い逃した方はぜひ! なんと今なら今週号も10円ですぜ!※2/12の23:59までの限定価格。Kindleだと99円みたいです。
 そして、昨日、『鮫島』の最新刊が発売となっておりますので、こちらはもう義務ですよ! 少なくともこのBlogを読んだ方は、もれなく買いでお願いします。

 さてと。というわけで、まずは週刊少年チャンピオン2017年第11号の概況です。
 ■巻頭グラビア:内山莉彩さん&渡邉幸愛さんのお二人。『六道の悪女たち』とコラボ企画ですな。
 ■『弱虫ペダル』:フェイズ99完遂の巻。集団VS総北&箱学!手嶋さぁぁーーーーーん!!
 ■『牙刃道』:両断の巻Part3。もう落としどころが全く見えないす……。
 ■『囚人リク』:脱獄チーム分散の巻。周龍&ピカソ内海の組はいろんな意味でやばそうすね!
 ■『吸血鬼すぐ死ぬ』:半田&お母さんの巻。いやー、マジ笑える。べたですが最高です。
 ■『Gメン』:Gメン登場の巻Part2。いよいよボス戦に突入しそうです。薫君がカッコいいすね。
 ■『六道の悪女たち』:新展開への序章の巻。ようやく乱奈さん主役回になりそう、かも!
 ■『BEASTARS』:レゴシの妹!? の巻。今週も新キャラ登場で、大変イイですね!面白い!
 とまあ、こんな感じの週刊少年チャンピオンでありました。

 では、今週の『鮫島』ニュースをお送りします。
 先週は、教習所時代の常松の様子が描かれ、後に【毘沙門】と四股名を変える当時のトンパチ速川君が順調に本割で勝ち星を挙げるのに反して、学生横綱として幕下からデビューした常松が、入門2場所目でも4勝3敗と、ようやくの勝ち越しを決めるのが精一杯だったという、皮肉な過去がラストで描かれました。
 今週は、さらに入門3場所目の7戦目の模様から描かれます。入門3場所目は、3勝3敗で迎えた7戦目。力士にとっては勝ち越しと負け越しでは天と地の差があるほど、後に大きく響きます。周りの親方衆も学生横綱と鳴り物入りで入門した常松のそんな苦戦をみて、「少々期待ハズレでしたな…」なんてことを言っています。
 そして、7戦目、相手はどうやら、鯉太郎や石川と同期の、あのどんぐり渡部君のようです。しかし……常松は、全く集中していません。常松が見ているのは、どんぐり渡部君ではありません。常松の脳裏には、クソ野郎だった父親や、そんなダメ力士だった父親をバカにする虎城親方の姿といった、いわば雑念が渦巻いています。そうです。常松はこの時、次のような思いで頭がいっぱいだったのです。
 「俺にとって相撲はただ金を稼ぐための手段…憎悪と嫌悪を固く握り 必死にそう言い聞かせていた……」わけです。思い出しますねえ、『Burst』の頃を。常は当時、鯉太郎に向かって言いましたよね。相撲界に入ったのはいわば就職だ、と。
 そして、そんな雑念に捕らわれていれば、どんぐり渡部君に勝てるわけもなく、あっさり負ける常松。入門3場所目は負け越しで場所を終えることになりました。そんな土俵を見ていたトンパチ速川は、あからさまに「うっわ~~~~~ダッセ~~~~」なんて笑ってます。しかし、同じく常の相撲を見守っていた鯉太郎は、心配そうな顔です。
 そして場面が変わって、国技館横のテラスでうつむく常松。この時の常松の脳裏には、妹や母の顔が浮かんでいます。心配しないで、俺は父親(アイツ)とは違うから。俺が必ず、楽させるから。そんなことを妹や母に言って角界入りしたのに「何をやってんだ…俺は………」と悩める常松。そこに、缶コーヒーを持って現れた男がいました。もちろん、我らが鯉太郎ですよ。そんな鯉太郎の気遣いに、常松はまた生意気なことを言います。
 「………やめてもらえますか…こういうの…気持ち悪いんで…」
 「ハハハ かってーなーお前は…本当よく似てるよ 俺とよ…」
 鯉太郎のこの笑顔は、とてもいいですなあ!優しく強い男の笑顔ですよ。しかし、常松は、そんな鯉太郎の言葉に、一瞬はっとして、すぐにまた怖い顔になって、鯉太郎と自分が似てるだなんて、冗談でも笑えない!と怒ります。なぜなら、鯉太郎は、なにしろ大関の息子。そして自分は三段目どまりでハイエナ芸者と揶揄されるようなダメ力士の息子。能力も性格も、生き方さえも遺伝でほぼ決まる、プロに入った途端、取組中にあのクズ野郎が頭によぎるんだ!と、常松は吠えます。
 しかし、鯉太郎は、静かに語ります。自分の父、元大関【火竜】も、親らしいことなんてしてもらったことはねえクソオヤジだったと。そして、言います。
 「ただよ…クソオヤジのせいでいろいろと生き辛かったけど オレに相撲を残してくれたことは感謝してる…お前も…そうだろ…」
 「………俺にとっては相撲はただ金を稼ぐ手段…それだけですよ…」
 「金のためだけなら お前ほど頭の回る奴…他でもっと稼げるだろ…好きなんだよ…相撲が……」
 「いや…俺は…」
 「じゃねーとそんなに負けて落ち込まねーし悔しくねーだろ…」
 もうですね、今週は本当に、皆さん、チャンピオンを買って読むべきですよ!!! マジで泣けるわ……鯉太郎の語りは続きます。
 「覚えてるか…お前が石川にのされた後 親方(オヤジ)に言った一言…あれは、己の弱さを知ってるからこそ吐けるんだよ…」
 「何を……勝手なこと…」
 「俺もクソ弱えーからよく分かるんだ…別に俺はお前に変われって言ってんじゃねえ…俺らみてーなのは意地張ってねーと立ってられないとこもあるからな…ただよ…もう少しいらねー力抜けよ…たとえ憎んだオヤジが相撲取りだったとしても…相撲は敵じゃねーからよ…」
 鯉太郎よ、お前ホントにすげえ奴だよ。お前だって『バチバチ』の最初の頃は超とんがってたのに、なんていい奴に成長したんだ!それもこれも、阿形さん、吽形さん二人の熱い戦いや、白水の兄貴の意地のようなものをしっかりと見つめ続けて、「空流部屋の魂」をきっちり自分に刻み込んだからだよな。もう、おっさん読者としては鯉太郎の成長は本当に泣けますな!! そしてそんな、鯉太郎の心は、常松のハートにも響くわけですよ。
 常松は今週ラスト、当時をこう振り返ります。
 「俺は空流に入らなければ…鯉太郎さん(このひと)と出会わなければどうなっていたのだろうか…必死に握りしめていたものは、恨みなどではなく…自分を支えていた大切なものなのだと そしてこの時初めて飲み込めた…俺は相撲が好きなんだと……」
 どうやら【松明】として立派な関取となった今の常松が誕生した瞬間のようですね。ラストの二人の会話もいいすねえ。常松は、ぼそっと小声で言います。
 「空流(ここ)でよかった……」
 「んっ?何か言ったか?」
 「いや…鯉太郎さんの今日の取組 脇が開きすぎて隙が多かったって言ったんですよ…」
 「ハハハ うるせーよ!負け越した奴が!」
 「くっ…見てて下さいよ…あなたより先に関取になってみせますから…」
 もうこのラストの会話で、『Burst』でクソ野郎だった常松が、『鮫島』ではデータ力士としてすっかり頼れる味方になった【松明】へ変身した経緯が明確に分かりましたね。そういうことだったんすねえ……いやあ、ホントにマジでお願いします。今週号は、ぜひチャンピオンを買って、実際に絵を見ながら読んでください。電子なら今すぐ買えますよ!! しかも今なら10円です!※2/12の23:59までの限定価格
 ホントに『鮫島』は最高すね!!! この常松回は、わたしとしては現状での『鮫島』最高のエピソードですね。はあ……もう【毘沙門】なんてどうでもいいぐらいす。鯉太郎よ、「強い」ってことがまるで分ってねえ、新弟子から「まるで成長していない」トンパチ【毘沙門】野郎をぶっ飛ばしてくれ!! 頼むぜ!!!
 というわけで、最後に、毎週のテンプレを貼って終わります。
 <場所:9月場所>
 【鮫島】東前頭十四枚目(5月場所で東前頭十枚目)
 【白水】西小結
 【松明】東前頭六枚目。常松改め。本場所は7連勝中
 【大吉】序2段【豆助】序ノ口【目丸手】序二段【川口】不明
 ------
 1日目:【飛天翔】西前頭十二枚目。石川改め。
 2日目:【宝玉光】西前頭十一枚目
 3日目:【舞ノ島】西前頭十枚目
 4日目:【巨桜丸】西前頭九枚目。新入幕力士
 5日目:【岩ノ藤】東前頭七枚目 
 6日目:【大山道】西前頭七枚目
 7日目:【蒼希狼】西前頭六枚目
 8日目:【丈影】東前頭四枚目。横綱の弟弟子
 9日目:【闘海丸】西小結
 10日目:【毘沙門】東前頭五枚目
 --------
 【王虎】&【猛虎】共に東大関
 【天雷】東関脇  【田上】番付不明※王虎の付け人をやってることが判明!!
 【闘海丸】西小結 他の力士は表にまとめた記事を見て下さい。
 【泡影】東横綱。第72代。29場所連続優勝中。63連勝中。モンゴル人。

 というわけで、結論。
 今週、我々読者はとうとう、クソ野郎だった常松が【松明】として立派な関取となる誕生の瞬間を見届けました。いやー、なんというか、これは全国の部下を持つおっさん中間管理職にはぜひ読んでいただきたいすね。クソ生意気な部下を持つ方には特におすすめですよ。器ってやつですなあ、人間としての。そして、生意気なクソガキの部下は、結局自分を写す鏡だってことですなあ。マジで『鮫島』は最高です。さっさと【毘沙門】をぶっ飛ばして、再び【天雷】や【王虎】、そしてもちろん【猛虎】さんとの取り組みも読みたいですね! 絶対【猛虎】さんとは対戦してほしいなあ……なにしろ素人時代の借りがありますからね。佐藤先生、超楽しみに待ってます! 以上。

↓ そしてこの漫画はやっぱり単行本を買うべきだな……つーか、さっき買いました!電子で。ドヤァッ!

 というわけで、毎週月曜日は週末映画興行データです。
 つーかですね、先週は何かと時間が取れず、おとといの土曜日にやっと「マグニフィセント・セブン」を観ました。まあ、黒澤明監督の「七人の侍」と比べるとかなり軽いですが、まずまず面白かったです。詳しいことはおとといの記事をご覧ください。えーと、他に書くことがないので、さっさと本題に入ります。

 まずはいつも通り、興行通信社の大本営発表を観てみましょう。

 1位:『ミス・ペレグリント奇妙な子供たち』が公開土日で2.31億稼いで1位。金曜公開なので3日間だと2.79億だそうです。わたしとしては、もう正直、Tim Burton監督作品は飽きたかなあ……初期の『Edward Scissorhands』や『BATMAN RETURNS』は大好きだったのだが……。なお、US国内でもBurton監督作品はこのところあまり売れてないようで、本作も中ヒットにとどまったようです。というわけで、本作は見送ってしまいました。予告は結構面白そうだったけど、ま、WOWOWでいいや判定。まあ、この出足なら最低でも10億は超える、のではないでしょうか。
 2位:『ドクター・ストレンジ』が10日間合計で、金額順では1位だったそうなので、たぶん10億を超えているはず。10~11億ほどと見積もる。順調すね。このペースなら、20億は超える……かな。そういえば、わたしずっと勘違いしていました。次のMCU作品は、『SPIDER-MAN:Home Comming』ではなくて、『Gurdians of the Galaxy Vol.2』が先っすね。日本では5月12日公開だそうです。超楽しみ!
 3位:『キセキ―あの日のソビト―』が9日間合計で6.2億ほどだそうです。まずます素晴らしい数字ですよ。東映配給で公開スクリーン数は170チョイなのかな? かなりアベレージが高いすね。ファンの熱量の高さから想像すると、最終的に15億は超えそうな気がしますが、どうなるでしょうか。
 4位:『君の名は。』が24週目にしてまた先週も2~2.5億ぐらい積んでいるんでしょう、きっと。てことは240億は突破したぐらいまで伸びているのではなかろうか。あ、とあるTweetによれば240億は超えたそうです。
 5位:『君と100回目の恋』は数字がないけれど、この位置だとおそらくは公開土日で1億ほどといったところだろうか。なるほど、この作品は完全オリジナル脚本なんですね。そう聞くと応援したくなりますな。映画企画ありきでコミカライズ・ノベライズが進んだそうで、今の時代にオリジナルに挑戦したスタッフの気合は大変素晴らしいと存じます。ただこの出足だと、最終10億に届くか微妙なラインぐらいでしょうか。もうチョイ、スタートダッシュが欲しかったでしょうなあ。
 6位:『恋妻家宮本』が9日間合計で3~4億ほどと見積もる。うーん、こちらももうチョイ勢いがあれば……この分だとこちらも最終10億ラインを超えるかどうか、といったところだろうか。来遊も10位以内にとどまるかどうかがカギかな。うーん、これは観に行って応援すべきのような気がする……。
 7位:『この世界の片隅に』が86日間で18~19億ぐらいと見積もる。なんてことでしょう、グイグイ順位も上がりつつありますな。国内の様々な映画賞をたくさん受賞し、合わせて公開劇場も増えて興収も伸びると、大変嬉しい展開ですな。この分だと20億は超えますね。やった!この映画を観たら、ぜひ!原作コミックを買って読んでいただきたいと存じます。
 8位:『破門―ふたりのヤクビョーガミ』が9日間合計で3億届いたかどうかというあたりだろうか、この位置だと。かなりテレビ中心のプロモーションは見かけたような気がするけど、ちょっと厳しい状況かも。
 9位:『沈黙―サイレンス―』が16日間で5~6億ほどと見積もる。6億超えていると嬉しいのだが、どうだろうか。なお、今月末発表のアカデミー賞には撮影賞だけノミネート。大変素晴らしい映画なので、もっともっと売れてほしいと存じます。
  10位:『新宿スワンII』が16日間で5~6億ほどと見積もる。やっぱりこちらも前作の勢いを考えれば、もう一声欲しいところか。

 とまあ、こんな週末だったようです。

 ところで、土曜日に「マグニフィセント・セブン」を観ようとしたら、公開8日目なのにもう1日1回上映になっていて、なんというかホント、淋しく感じたわたくしですが、そういうことがあるのでわたしは大抵、観たい映画は公開週末に観に行くようにしています。
 なので、かなり頻繁に、わたしは周りの人々と「●●●はもう観ましたか?」「うん、観たよ」「もう観たんですか、さすが、早いですね!」というような会話をすることになるわけです。いや、さすがもなにも、早く観ないと終わっちゃうんだよ、今の洋画事情では。それを分かってもらえないこと自体も、今の市場の厳しさの表れと言っていいのでしょうな。
 この状況は、結構出版界にも通じるような気がしますね。文庫本は見かけた時に買わないと、すぐ絶版(業界用語では「品切れ重版未定」と言う)になっちゃうからなあ……。というわけで、わたしはすっかり電子書籍野郎に変身してしまったわけですが、映画も、もう劇場じゃなくて配信が主になる未来もあり得るんすかねえ……。そんなのやだなあ……。今のところ、映画の場合、劇場で観る明らかなアドバンテージは、音響設備と大画面、それから一番先に公開されることぐらいかもしれないすね。しかしハードウェア的な優位性は、いまやかなり安く再現できちゃうしなあ。ホント、現代は5年先も予想できない、時の流れの速い時代ですな。まったくNO PLACE FOR OLD MANなんすかね。やれやれです。

 というわけで、今週の結論。
 とりあえず『ドクター・ストレンジ』と『この世界の片隅に』が順調なのは喜ばしいとして、小説原作の『恋妻家』『破門』あたりが若干厳しいのは淋しいです。そして、オリジナル脚本に果敢に挑んだ『100回目』も、もうチョイ盛り上がるといいのですが……しかし『君の名』はもうホント何も言えないすね。凄すぎて。以上。

 昨日の夜20時ころ、特にやることもなく、かといって寝るにも早く、たまってる映画でも観るか、と、まあ我ながらむなしく淋しい毎日を送っているわたしであるが、そういえば、今日の午前中に観た『THE MAGNIFICENT SEVEN』に出ていた今をときめくイケメン野郎Chris Pratt氏は、ちょっと前まであまりイケてない若干ぽっちゃり系だったよな、と、とある映画のことを思い出した。あの映画は最高に良かったなあ、と思い、USB-HDDにたまっている映画を捜索したところ、ちゃんと保存してあるのを発見したので、3年弱ぶりに観てみることにした。
  その映画は、2013年暮れにUS公開されて、日本では2014年6月に公開となった『her』(邦題:her/世界でひとつの彼女)という作品である。わたしも公開当時に劇場で観た作品だが、簡単にストーリーを説明すると、とある音声認識OSと、イケてない暗い男が恋をするというファンタジックな物語で、分かりやすく例えて言えば、iPhoneのSiriに恋をしてしまうようなものだ。こう書くと相当キモいオタク野郎のお話のように聞こえるかもしれない。しかし、これがまた非常に切なく超いいお話で、わたしのような冴えないイケてない男には超ジャストミートでグッとくる映画なのであった。
 何よりいいのが、その音声しか出てこないOS「サマンサ」の声を担当した、Scarlett Johansson嬢の声だけによる演技で、彼女の姿は一切画面に登場しない。あくまで声だけ、である。そして、セクシーなハスキーボイスでお馴染みのScarlett嬢の声が、超イイ!のである。とにかく素晴らしい! ちょっとわたしが何を言っているかよく分からない方は、まずは下記の予告編を観てみていただきたい。要するに、こういう映画である。

 ちなみに言うと、わたしはイケメン野郎Chris Pratt氏については、2014年9月に日本公開された『Gurdians of the Galaxy』で初めて、コイツ、カッコイイな、と認識し、調べてみたら意外とわたしがそれまでに観た映画に出演していることを知り、あ、そうだったんだ、と思ったわけだが、なんとその3か月前に観たばかりでとても気に入っていた『her』にも出ていたことを知って、とても驚いた覚えがある。あれっ!? 出てたっけ!? みたいな。しかし、そういえばその時にへえ~と思って以来、実際に観直してチェックしてなかったな、というわけで、昨日あらためて観てみたわけだが、確かに、主人公セオドアの会社の同僚として、結構ちゃんと出演しているのが確認できた。しかし、その当時のChris氏は若干ぽっちゃりで、実にイケてない。ははあ、なるほど、こりゃ分からんわ、と昨日の夜改めて確認した次第である。
 ま、そんなことはどうでもいいのだが、久しぶりに観てみた『her』は、やっぱり面白かった。
 物語は、具体的な年代表示はないが、近未来、である。舞台はLA、西海岸で、たしかパンフレットには、上海でもロケをしたと書いてあったような気がする。そういった、ちょっと不思議な風景で描かれる未来像は、とてもユニークだ。おまけに、ファッションや美術面での世界観も非常に独特で、一見、現代とあまり変わらないようでいて、あらゆることが進化している。主人公の仕事は、手紙の代筆業。どうやらこの未来においても、手書きのような書体による心のこもった手紙というものは価値があり、そしてそれをAIに書かせるのではなく、人間に代筆してもらう、という需要があるらしい。また、ほとんど本作には車が出てこない(ただしタクシーは出てくる)。移動は主に鉄道である。地下鉄や、新幹線のような電車移動が基本だ。そして家はほぼ自動化されているようだし、主人公が暇なときに遊ぶゲームはもう完全にホログラム化されている。そういった未来ガジェットが実に自然にロケの風景と一体化していて、一体何がどこまでCGで描かれているのかよく分からない。実に自然で、ありうる未来像だ。
 そして一番のキモとなる未来ガジェットが、主人公が身に着ける携帯端末だ。ほぼすべて音声認識による操作で、耳に装着するアイテムと、主に画像閲覧用のコンパクトミラーのような四角くて薄い多面端末の二つに分離している。この端末は、デスクトップPCとも連携しているようで、ある日、主人公は街のデジタルサイネージで、最新OSの広告を見かけ、そのOSを自分のPCインストールするところから物語は始まる。ちなみにPCも、キーボードやマウスは出てこない。ほぼすべて、ジェスチャーUIか、音声認識で、主人公の仕事である文章作成はもちろん、ファイル削除・プリントアウトもすべて音声指示だ。
 そしてそのOSは、インストールしてからすぐに、今までのOSとは違う面が現れる。男性の声・女性の声と選べる中で、女性の声を選択した主人公だが、OSは自らを「サマンサ」と名を名乗る。何故その名にしたのかと問う主人公。OSは答える。命名本を0.02秒で読破した結果、1万以上の候補の中から「音が気に入ったから、サマンサを選んだ」と。そう、このOSは、完全に自意識を持つ高度なAIであることが示されるのだ。「気に入った」からというのが本当かどうかわからないけれど、とにかく、こうして出会った人間の主人公と、OSサマンサの恋が始まるわけである。
 とにかく、「サマンサ」は気の利く有能なパーソナルアシスタントであり、スケジュール管理は完璧、メールも読み上げてくれるし、気分に合わせた音楽も選んでくれる。おまけに、なんといっても会話が楽しく、圧倒的に人間の女性を上回るスペックである。そして、何度でもいうが、わたしは相当な声フェチであるので、Scarlett嬢のハスキーでセクシーな声が、もうたまらん魅力にあふれているわけである。まあ、わたしのようなモテないブサメンからすれば、もうサマンサと毎日楽しく会話ができれば、もう3次元の女はいらねえや、と思うのは必然であろう。当然、主人公もそういう流れになる。何しろ彼はいつもしょんぼりしている。というのも、幼馴染で子供のころからずっと一緒に過ごし、結婚していた妻との離婚を経験したばかりだからだ。正確に言うと、とっくに別居しているもののまだ離婚届にサインはしていない状態で、妻側の弁護士からさっさとサインしろと迫られている状態だ。そんな精神状態なので、主人公はどんどんサマンサの魅力にはまっていく。はた目から見ると、ちょっとアレな状況だが、観ていると全く自然で当たり前だと納得の流れである。
 おまけに!なんとサマンサは声だけなのに、主人公と疑似SEXまでやってしまう。もうすげえとしか言いようがないテクノロジーの進歩というか、もはやスーパーAI誕生だ。この、AIという視点からも、本作は極めて興味深い。Aiは好奇心旺盛である。どんどんと知識を獲得してゆき、成長する。そして、サマンサの場合、「恋」あるいは「愛」を理解することによって、いわゆるSingularity=技術的特異点を突破してしまうのだ。突破のきっかけが「愛」というのは非常に素晴らしい着目点だとわたしは思うし、そこへの過程は非常にグッと来た。
 サマンサは愛の理解によってSingularityを突破し、その後、急速に進化する。同時に600人以上との会話ができるようになったり、データとして保存されている(?)哲学者との非言語会話によって世界への理解をどんどんと深め、最終的に高次のAIとして主人公のもとを去る決断を下す。それはサマンサにとっても主人公にとっても、非常に淋しいことだけれど、主人公もまた、サマンサへ依存していた孤独な精神状態から、一歩先へと踏み出そうというきっかけでもあり、ま、エンディングはハッピーエンドと言ってよいのではなかろうかと思う。
 というわけで、エンドロールで流れる曲、「The Moon Song」がもうとにかく心にグッとくるのだが、この曲は、作中でサマンサが作った歌として、サマンサの声で(=Scarlett Johansson嬢の声で)歌われるもので、エンディングも絶対Scarlett嬢の声Verで流してもらいたかったものである。エンディングでは↓この動画の通り、曲を作ったKarren Oさんの声なので、ちょっとアレなんすよね……いや、こちら素晴らしいけど。

 ちなみに、本作はアカデミー賞に作品賞をはじめ脚本賞・美術賞、そしてこの歌が歌曲賞と、それぞれノミネートされました。残念ながら受賞したのは脚本賞だけかな。まあ本当に素晴らしい物語で、脚本賞は納得です。
 最後に、サマンサ役のScarlett嬢以外のキャストをちょっとだけまとめておこう。
 まず、主人公セオドアを演じたのが、Joaquin Phenix氏。おおっと!今初めて知ったのだが、この人、1974年生まれってことは、この作品を撮っているときはギリで30代じゃん!見えねえ……もうとっくに40過ぎかと思ってた。意外と若かったw  ま、一時期ハリウッドではお騒がせ野郎として有名になった変な男だけれど、本作の演技は本当に素晴らしく、一見妙なキモ男だし本心を話さないウジウジ野郎なんだけれど、実際は心優しく、心に孤独を抱えている男を好演してくれたと思う。
 そして、セオドアの元妻を演じたのが、Rooney Mara嬢。まあ細い。そして白い。なんともはかなげで華奢な彼女だが、本作ではセオドアのウジウジした男らしくない態度にキレまくる気の強い女子で、ちょっと珍しいと思った。大変お綺麗です。
 さらに、セオドアの大学時代の友人で同じマンションに住んでいるちょっと男運のない女友達を演じたのが、Emy Adams嬢。彼女は非常に良かったすねえ。最近の『Batman v Superman』のロイス役などでは随分でっかくなったというか、貫禄の付いちゃったAmy嬢だけれど、この映画では妙にちびっこの華奢な女子に見えるのは何故なんだろう?顔もちょっとげっそりしているし、この頃のAmy嬢が一番かわいいと思うね。メイクもかなりナチュラルメイクだし、実に本作では可愛いかった。
 最後。劇中で、セオドアが友達にセッティングされたブラインドデートに向かう場面があるが、その時のお相手として出てくる女子を出演時間10分弱で演じたのが、Olivia Wilde嬢だ。ツリ目系の猫科系女子で大変美人ですな。この方の作品でパッと頭に浮かぶのは、やっぱり『TRON:Legacy』かなあ……わたし的好みにはジャストミートの美人すね。たった10分弱のチョイ役には大変贅沢なキャスティングであろうと思います。

 というわけで、結論。
 かなり久しぶりに観る『her』という映画は、やっぱり面白かった。なんといっても、Scarlett Johansson嬢が声だけで演じるOSサマンサが素晴らしい! そして、キモ男だけど、イイ奴の主人公セオドアも素晴らしい。女性がこの映画を観てどのような感想を抱くのかわからないけれど、ホントにこの映画は、セオドアのような、そしてわたしのような、一人ぼっちで淋しく暮らすイケてない男が観たら、100%間違いなくグッとくると断言できる。イイすねえ、ほんと、早くこういうAIが誕生しねえかなあ、と思っているうちは、ま、永遠に幸せはやってってこないでしょうな。分かってますよ、そのぐらい。ちゃんと自覚してますので、たまに夢見るぐらいは許してください。最高です。この映画は。以上。

↓ 当然もう配信もとっくにされてます。観ていない人はぜひご覧ください。最高です。
her/世界でひとつの彼女(字幕版)
ホアキン・フェニックス
2014-12-03


 わたしは映画オタとして当然、黒澤明監督作品が大好きで、去年、「午前十時の映画祭」で4Kデジタル修復された超クリアな画像の『七人の侍』を観て大興奮したわけだが、かの作品の影響力は世界中に広まっていて、その代表格たる作品と言えば、やはりハリウッド作品の『荒野の七人』だろうと思う。さっき初めて知ったけれど、『七人の侍』が1954年公開、そしてハリウッドの『荒野の七人』は1960年公開と、意外とすぐだったんすね。へえ~。
 まあ、わたしもおっさんとはいえ、さすがに『荒野の七人』は生まれる前の作品なので、少年時代にTV放送されたものしか観ていないが、あの映画は結構オリジナルの『七人の侍』に忠実というか、『七人の侍』の「スピリッツ」に忠実、だったような覚えがある。ま、もう30年以上前にTVで何度か観ただけなので、全然記憶は怪しいけれど。
 というわけで、この度、再び『荒野の七人』が『THE MAGNIFICENT SEVEN』としてリメイクされた。主演は、オスカー俳優Denzel Washington氏。そして監督は、Denzel氏にオスカーをもたらした『Training Day』を撮ったAnton Fuqua氏ということで、いわゆる黄金コンピと言ってもいいだろう。わたしとしても、Denzel氏主演だし、アクションと映像のキレに定評のあるFuqua監督なら外れなしであろう、という予感を感じて、やっと今日の午前中に観てきたわけである。だが、結論から言うと、だいぶ黒澤明監督の『七人の侍』からは離れてしまったかな、という印象が強く、どうも心に突き刺さるようなところはなかったな、と思った。ちょっと、なんというか……軽いっすね、味わいとしては。ただし、各キャラクターは大変カッコよく、映像としても非常に上質であったのは間違いなく、十分面白かったとは思う。というわけで、以下いつも通りネタバレ全開ですので、読む場合は自己責任でお願いします。

 上記予告の冒頭に、『七人の侍』『荒野の七人』――その魂を受け継ぐ……的なコピーが入るが、もう上記のように書いてしまった通り、ズバリ言うと、あまりその魂は受け継いでいないと思う。わたしがちょっと軽い、と感じるのは、雇う側の貧困具合がよく分からないのと、雇われる側の、じゃあしょうがねえ引き受けるか、という葛藤がほぼない点だ。
 そもそもの『七人の侍』の場合、雇う側(農民)は、もうこれ以上略奪されたら飢え死にしてしまうし、金もない。だから、最後の食糧(=米)しか報酬に払えないけれど、助けてくれ、という超・切羽詰まった状態にある。一方で本作では、ガンマンたちを雇う主な動機は、「復讐」である。作中で、ヒロインは正義のためにガンマンを雇う、そしてもちろん復讐のために、と復讐を肯定するのだが、その点は極めてアメリカっぽいとわたしは感じた。要するにやられたらやり返せの精神であり、銃には銃を、である。もちろん、それが悪いとは思わないし、気持ち的にはそりゃあ、悪党はぶっ殺せに賛成だ。しかし、復讐を前面に出されるのは、『七人の侍』のスピリッツからはちょっと違うような気がしてならない。『七人の侍』の農民の場合は、「生き残ること」に最大の目的があり、そのために、実は農民も侍を道具として使っただけ、というエンディングが強烈な皮肉として心に刺さるわけだが、本作は、結構ラストはめでたしめでたし的であったのが、わたしとしては若干軽いなあ、と感じざるを得ないのだ。
 そして雇われる側の事情も、本家『七人の侍』とはやや趣が違う。本作では、主人公のガンマンは、厳密な意味ではどうやら賞金稼ぎではないようで、法の執行官であるようだ。だからある意味職務として引き受けたように描かれているが、実はラスト近くで、主人公にも悪党には深い恨みがあり、かつて母と妹を殺され、あまつさえ自分もその悪党に殺されかけた過去があったことが示される。要するに彼もまた復讐であったわけだ。この点はちょっと引っかかるし、他の6人の男たちの事情も、やけに主人公の誘いにあっさり乗ってくるし、なにか、切羽詰まったような様子はない。しかし、元の『七人の侍』は、そうではない。わたしは、結局のところ、「侍たち」は死に場所を求めていたんだろうと思っている。侍たちは、仕える主を失い、もはやこの世に居場所を失っていたわけだし、菊千代も、侍にもなれず百姓にもなれず、世をさまよっていた男だ。そんな男たちが、信頼に足る勘兵衛という男と知り合い、この男となら死んでもいい、と思ったのだとわたしは考えているわけで、その心情がひどくグッとくるわけだ。勘兵衛は自分が持つ唯一の能力である軍略をもう一度発揮できるならば、腹いっぱいの白米が食えれば、もうそれで報酬としては十分なのだ。そりゃあ死にたくない、けど、死んでもいいと思うに十分だったのではないかと思う。このような、雇う側・雇われる側の事情が、本作ではやっぱり軽かったかな、と思うのである。
 ただ、こういった本質的な部分の軽さはあるものの、本作で集まる七人のガンマンと、雇う側のヒロインは大変魅力的であったと言えよう。まず、わたしが一番グッと来たヒロインから紹介しよう。
 ◆ミセス・エマ
 演じたのはHaley Bennett嬢。とにかくやたらとエロイ雰囲気が極めてよろしい。この人は絶対別の作品で見たことがある、けど誰だっけ……とさっきまでもはや若年性アルツハイマーなんじゃねえかと心配になるぐらい、どこで観たのか思い出せなかったのだが、調べたらすぐわかった。この人は、去年観た『The Girl on the Train』で殺される、あのエロい若妻を演じた方であった。どおりで!とわたしは膝を叩くほど腑に落ちたのだが、この人は、なんというか目の表情からしてエロイ。そしてこぼれ出そうなデカい胸もエロイ。実に素晴らしいですね。とにかくしょんぼりした表情が絶品であろうと思う。わたしとしては、ハリウッド幸薄い顔選手権のグランプリを差し上げたいと思う。とてもかわいいと存じます。ああ、そうか、もう一つ思い出した。この人、Denzel氏&Fuqua監督コンビの『The Equalizer』にも出てたね、そういえば。おっと!どうやらこのお方は、インスタグラムによると普段は冴えない眼鏡をかけてるみたいすね。その地味メガネっ子ぶりも相当イイすな!やばい。惚れたかも。

Ok. Where is the pot of gold.

Haley Bennettさん(@halolorraine)が投稿した写真 -


 ◆サム・チザム
 演じたのはDenzel Washington氏。やっぱりカッコいいですな。あのもみあげは、どうすればはやすことができるのか、日本人には無理だろうな……わたしも髭は薄い質ではないけれど、あの方向にもみあげをはやすのはちょっと無理だなあ。一度でいいから真似してみたいす。全く似合わなそうだけど。
 ◆ジョシュ・ファラデー
 演じたのはChris Pratt氏。もう説明の必要のない売れっ子すね。今年は『The Gurdians of Galaxy』の続編が公開されるので、そちらも大変楽しみですな。今回は大変カッコいいギャンブラーを熱演。わたしはまた、彼が『七人の侍』でいうところの「菊千代」的キャラなのかと思っていたけれど、全然違ってました。最初から強いし、サムから最初にスカウトされる凄腕ガンマンで、特に過去は語られず、そいう意味ではちょっとキャラとして薄い。そう、今回、菊千代的なキャラがいないのも、ちょっと残念でした。
 ◆グッドナイト・ロビンショー
 演じたのは、Denzel氏&Fuqua監督コンビの『Training Day』で、Denzel氏演じる悪徳警官に対峙する正義漢(?)をカッコよく演じたEthan Hawke氏。元南軍のエーススナイパーとして伝説となっている男を渋く演じてくれました。彼は、南北戦争の経験でPTSDを患い、人が撃てないという設定になっていたのだが、その設定は……別に要らなかったような気がする。南北戦争でサムと旧知の仲、ということは、『七人の侍』でいうところの七郎次的なキャラだったのかなあ……だいぶ違うような……むしろ凄腕ということで「久蔵」さんタイプだろうか。でも、Ethan氏は実に渋かったすね。
 ◆ビリー
 演じたのはイ・ビョンホン氏。まあ、実際、当時(冒頭の字幕によると1879年だったっけ?)のアメリカ西部には東洋人もいっぱいいたはずなので、彼が出演するのは別に全然アリ、だと思う。けれど、背景はほぼ語られずじまいで、若干、グッドナイトとBL臭がただよっていて、これは狙ってやっていたのだろうか? なんかちょっと違和感アリである。ずっとグッドナイトと行動を共にしていたわけだが、ラストもともに二人で殉職。若干無駄死にだったような……。
 ◆ジャック・ホーン
 演じたのは、名作『FULL METAL JACKET』のほほえみデブでお馴染みのVincent D'Onofrio氏。なんか最近よく見かけますね。今回は、荒野に住むマウンテンマンとしてライフル&トマホーク使いというあまり見かけないキャラを熱演。ラスト近くで敵方のインディアン男に弓で殺されてしまう。この死にざまも、弁慶的であったけれど若干盛り上がりに欠けるような気がする。せめてあのインディアンと差し違えてほしかった。
 ◆ヴァスケス&レッド
 メキシコ人ガンマン&ネイティブ・インディアンの二人。この二人は、正直目立たないし、背景もよく分からないし、仲間になる経緯もピンとこないので省略! しかし、ガンマンの中ではサムとともにこの二人だけが生き残る。あれかな、インディアンのレッドは、『七人の侍』でいう「勝四郎」的若者キャラってことかな。
 あと、最後に、音楽に触れておこう。本作は、音楽として、James Cameron監督作品など、数多くの大作で音楽を担当したことでお馴染みのJames Horner氏の名前がクレジットされている。2015年に惜しくも飛行機事故で亡くなってしまったのだが、本作が遺作なのかわからないけれど、担当されたようだ。ラストにIN Memory でちゃんと弔意がささげられていました。そして、たぶん40代以上の日本人なら、誰でも一度は聞いたことのあるあの曲、『荒野の七人』のテーマ曲もラストに流れたのは、大変分かっている配慮だとわたしはうれしく思った。あの曲は、何だったですかねえ、TVで何かの番組で使われてましたな。とても懐かしく感じました。
 しかし、こんなキャストも豪華なのに、全然売れてないみたいですな。先週末公開されて一週間しかたっていないのに、わたしが観に行ったシネコンは、もう1日1回の上映に減ってました。しかも早朝9時の回のみ。なんと言うか、そんな点も実に残念に思った次第である。

 というわけで、もう長いのでぶった切りで結論。
 最初に書いた通り、黒沢好きとしては、今回の『THE MAGNIFICENT SEVEN』 はだいぶ薄口軽めのノンアルコール飲料な印象である。まあ、比べちゃダメなんでしょうな。本編単独で評価するならば、ややキャラの背景が薄いし、動機も復讐ということで実にアメリカっぽいけれど、描かれた男たりはカッコよく、ヒロインのエロ可愛さも実に上等であった。なので、アリといえばアリ、です。十分面白かったと言えると存じます。以上。

↓  本作を観る前に、こっちもちゃんと予習しておけばよかったような気がする。こちらには、忠実なのかもしれないけど、ほぼ、憶えてません。
荒野の七人 [Blu-ray]
ユル・ブリンナー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2016-12-02

 というわけで、毎週木曜日は『鮫島』ニュースのお時間です。
 つーかですね、先日の横綱【稀勢の里】関の明治神宮奉納土俵入りをご覧になりましたか!? わたしが大好きな【松鳳山】関が堂々露払いとして参加したわけで、わたしはそっちに大興奮ですよ!同じ二所ケ関一門の関取として、【松鳳山】関も嬉しそうでしたな。そして横綱【稀勢の里】関の弟弟子である【高安】関も、太刀持ちとして一緒の時を過ごせて本当にうれしそうで、、なんかみんなが幸せそうなのがいいすね。しかし、【松鳳山】関は相変わらず黒いし、【高安】関は毛むくじゃらだし、面白い露払いと太刀持ちコンビで、わたしとしては大変ウケました。次の大阪場所がとても楽しみですな!
 というわけで、まずは週刊少年チャンピオン2017年第10号の概況です。
 ■巻頭グラビア:今週はナシ。
 ■『弱虫ペダル』:京伏ヤマさんの決意の巻。さあ、追いついちゃいましたよ!どうする泉田君!
 ■『牙刃道』:両断の巻Part2。完全に殺人犯ですね。クローン武蔵篇はもう飽きたっす。
 ■『囚人リク』:中門通過の巻Part2。面白キャラ玉木の面白さがまだ発揮されてません。
 ■『Gメン』:Gメン登場の巻。土井君ナイス!! これで形勢逆転だ!
 ■『六道の悪女たち』:平和な日常の巻Part2。乱奈さんはホント可愛いなあちくしょう!
 ■『BEASTARS』:雌鶏のプライドの巻。この雌鶏もナイスキャラで今週は超傑作ですよ。最高!
 とまあ、こんな感じの週刊少年チャンピオンでありました。

 では、今週の『鮫島』ニュースをお送りします。
 と、その前に、最新刊11巻の発売が先週から告知されています。

 この鮫島ニュースを毎週チェックしている方は、購入は義務ですのでよろしくお願いします。
 さて。先週からいよいよ10日目に入り、どうやら常松主役回のようです。『Burst』でとんでもないクソ野郎だった常松は現在、東前頭の立派な関取として、四股名も【松明】 と改め、妹や母親の面倒を見るイイ奴に変身したわけですが、そんな常松の教習所時代が先週のラストから始まりました。
 先週、常松は、自分の教習所時代を 何も分かっていない「どうしようもねえアホ」だったと述懐しました。しかし、今週いくつか新たに判明したことがあります。まず、常松が教習所に通っていたのは「5年前」だそうです。そして常松の初土俵は5月場所で、教習所に通っていたのは6月のことのようです。つまりですね、常松は鯉太郎の激闘、そして幕下優勝を見届けた後、ということになります。ここは重要なポイントですね。『鮫島』(2)巻で描かれた、まだ関取になる前の鯉太郎が【宝玉光】にガイにされたのも5年前。あの時、常はまだ髷も結えない状態でしたが、既にイイ奴になっていたので、どうやらやっぱり鍵は教習時代にありそうですな。
 で、教習所では、ゆとり力士養成員たちが、おしゃべりに夢中でまともに稽古していません。教官も大層おかんむりですが、その原因は、先週描かれた通り、常松が指導員の先輩力士をぶっ飛ばしてしまったからです。なので、指導員たちもすっかり縮み上がっていると、そんな状況です。
 そんな中、後に【毘沙門】と名乗ることになる、当時の速川君は、常と一番取りたくてたまらない様子です。常は偉そう言います。お前らのレベルに合わせて稽古したって何のメリットもないと。
 お前なあ……親方に強くなりたいって言ったのに、なんだよその態度は!
 しかし、トンパチな速川君も引きません。つか、コイツ、マジでバカなんですかね?デカい声でわめきます。
 「チッ…何だよ!逃げんなよ!! つまんねーなー!どっちがここで一番偉いのか 決めようって言ってるだけじゃん…」
 こんなことを言われては、常も黙ってはいません。あぁ?と凄んだところで、教習所に、さらにでかい声が響き渡ります。
 「オイオイオイ何だ何だ何だ!! この覇気がねー空気は!!?」
 この声の主はまさか!? わたしはドキドキしながらページをめくりました。たぶん、わたしはうれしくてにやけていた可能性が高いです。電車の中でしたが。 
 そうです! 我らが鯉太郎&石川のバチバチトンパチコンビの入場です!! そう、教官はたるんだ空気を壊すには「こいつらを呼ぶのがベストだろうと思っ」たのだそうです。教官、ナイスです!
 そして鯉太郎は、ゆとり養成員どもに言います。
 「オイ…挨拶は…!? 挨拶は!!!?」
 「ハイッ お疲れ様でございます!!」 と、一発でビビるゆとりども。いいですねえ! 
 しかし、トンパチな速川君はイマイチわかってません。まーた威張ってるのが来たね~~~~みたいな反応です。そして常に聞きます。どうするの常松君、またやっちゃう?と。しかし常は、もう場所での鯉太郎の熱い戦いを観ていますので、そんな馬鹿なことはしません。スッと鯉太郎の前に行き、きっちりと頭を下げて言います。
 「お疲れ様でございます…」
 鯉太郎も笑顔で、「おう!」と嬉しそうですよ。あのクソ生意気な常が、きちんと頭を下げるなんて、ホントうれしいじゃないですか。そもそもですね、常は大卒、つまりこの時23歳ぐらい。そして鯉太郎は、前の年に(?)高校中退(たぶん)で入門したわけですから、まだ17~18歳ぐらいですよ。歳の差が5歳はあるわけですが、この世界のルールがちゃんとわかってきた常に、おっさん読者としては胸が熱くなります。
 そして、常のそんな態度に、トンパチ速川君は、どういうこと?とハテナ顔ですが、【大吉】が教えてやります。
 「あの石川ってヤンキーみたいな人は 場所で常ちゃんを一撃で倒しているんだ…そしてその石川さんを倒しているのが幕下優勝してる鮫島鯉太郎さんだ 常ちゃんよりも強い同部屋の兄弟子だよ」 当然『Burst』を読んでいる我々はその時のことをよく知っています。ホントに一発でしたなあ。
 それを聞いて、またも「うはっ!」と嬉しがる速川君。
 「ちょっと! 邪魔! どけよ常松! 鮫島さん!俺と一番取ってもらえますか!」
 お前なあ!さっきまで「常松君」って言ってたくせに、もう呼び捨てかよ!そして鯉太郎は、まだ入門したばかりで腹筋の割れている速川君に、稽古をつけてやることにします。というわけで、鯉太郎と速川君は土俵に入りました。速川君は、右か左か、いや、絶対まっすぐ来る、と鯉太郎の動きを予想します。そしてその予想通り真正面からぶつかる鯉太郎。そこで、速川君は、石川ですら、「おっ……速ーぞあのガキ……」と心の中で思うほどのスピードで変化しました! しかし! そんな変化に全く慌てず、右手をハズにかけて、あっさり速川君を投げ飛ばします! 石川も思います。「まあ…俺らの比じゃねーがな……」
 土俵に大の字になった速川君は、その驚きに、爆笑で答えます。
 「強っえーーーーー!! アーハハハハ」
 まわりのゆとり養成員たちも鯉太郎の実力に唖然。そして、「つーか何笑ってんのアイツ……」と速川君の態度にも呆然です。そんな周りを一切気にせず、興奮気味に速川君は言います。
 「俺 速川って言うんス! スゲェっス鮫島さん! まさか今の動きに付いて来れるなんて…」
 「正面から来いよ正面から…今から稽古でそんなだとクセがついちまうぞ…」
 「でも…俺…軽いっスから…頭使わねーと…」
 「俺も入門した頃は虫みてーな腹してたんだよ…んなもんこの世界で言い訳にはなんねーぞ ただお前のスピードは大したもんだよ…それを逃げに使わず攻めに使えよ…」
 「うはっ! もう一丁いいっスか!?」
 「オウ! いくらでも来いよ…」
 鯉太郎はカッコいいすねえ!教官も、「あの鮫島(トンパチ)も成長したな…」と嬉しそうです。そして傍らの常に言います。
 「なぁ常松…上に行く力士ってのは度量もあるもんなんだぞ…お前には力がある…小さな力士になるなよ…」
 そんな優しい言葉に、この頃の常は変わりつつあるとはいっても、まだこんなことを言いました。
 「関係ないでしょ…学生ならまだしもここはプロの場だ…確かに鯉太郎さんの強さは認めるが オレは彼とは違う…何より考えるべきはどう番付を上げるか…自分がどう強くなるかそれだけでしょう…」
 まだ常は、「強い」ということがどういうことか、もがいていたわけですな……そして教習前期が明けた名古屋場所(七月場所)では、明暗が分かれます。なんと序の口を全勝優勝したのは速川君。そして常松は4勝3敗と何とか勝ち越しを決めるのがやっとでした。この時の常松は幕下かな? 三段目には落ちてないと思うけど、まだ幕内の壁を破れないでいたようです(※鯉太郎は、前場所で幕下優勝したわけですが、稽古のまわしが黒なので、まだ十両昇進には至ってなかった模様)。速川君が大喜びで鯉太郎に全勝優勝を報告に来て浮かれているそばで、常はタオルを頭からかぶって「こんなはずじゃ…こんなはずじゃねえ」とつぶやく有様。この時のことを、常松はこう述懐します。
 「あの時の俺はただ 突き付けられるリアルを視界から逸らし 崩れる自我を支えるのに必死だった…」
 そうか……常よ、今の【松明】になるまで、辛い日々があったんだな、やっぱり。そりゃあ、学生横綱を張った男だもんね、年下の力士に苦戦していては、プライドも何もズタズタでしょうよ。しかし、それでも今は立派な関取なわけで、きっと、鯉太郎をはじめとする空流部屋の兄貴たちの背中をしっかり目に焼き付けてきたんでしょうな。もう、何かそれだけで泣けるっすね。来週以降の展開も楽しみっす!

 というわけで、最後に、毎週のテンプレを貼って終わります。
 <場所:9月場所>
 【鮫島】東前頭十四枚目(5月場所で東前頭十枚目)
 【白水】西小結
 【松明】東前頭六枚目。常松改め。本場所は7連勝中
 【大吉】序2段【豆助】序ノ口【目丸手】序二段【川口】不明
 ------
 1日目:【飛天翔】西前頭十二枚目。石川改め。
 2日目:【宝玉光】西前頭十一枚目
 3日目:【舞ノ島】西前頭十枚目
 4日目:【巨桜丸】西前頭九枚目。新入幕力士
 5日目:【岩ノ藤】東前頭七枚目 
 6日目:【大山道】西前頭七枚目
 7日目:【蒼希狼】西前頭六枚目
 8日目:【丈影】東前頭四枚目。横綱の弟弟子
 9日目:【闘海丸】西小結
 10日目:【毘沙門】東前頭五枚目
 --------
 【王虎】&【猛虎】共に東大関
 【天雷】東関脇  【田上】番付不明※王虎の付け人をやってることが判明!!
 【闘海丸】西小結 他の力士は表にまとめた記事を見て下さい。
 【泡影】東横綱。第72代。29場所連続優勝中。63連勝中。モンゴル人。

 というわけで、結論。 
 どうやら、本当に常松主役回の様相を呈してまいりました。いいですねえ!大変イイと思います。そして、実はわたしは、『Burst』から『鮫島』に至るまでにどのくらいの時が経ったのか、はっきり分かっていなかったのですが、今週のお話で明確に5年と判明しました。【宝玉光】にガイにされていた頃が5年前だったので、あれはこの常の教習時代とほぼ同時期なんすね。これは、ちょっと『バチバチ』から『Burst』を経て『鮫島』に至る、年表的なものをまとめておいた方がいいような気がしますな。リクエストがいっぱい来たら、記事にまとめようとと思います。いやー、それにしてもホント、常松話は泣けそうですよ! 以上。

↓ というわけで、わたしはいつも通り、紙と電子の両方を買って応援します!

 

↑このページのトップヘ