今年の初めに実写映画が公開され、先日はアニメ化も発表された『ジョーカー・ゲーム』。柳 広司先生によるスパイアクション(?)小説シリーズであり、昨日の夜、わたしが読み終わった『ラスト・ワルツ』は、その4作目のにあたる、今のところのシリーズ最新刊である。
発売されたのは、今年の1月で、要するに映画に合わせた形での発売であったが、映画の方は残念ながら興行成績も振るわず、また、内容的にも、ややトンデモ映画と化していたので、まあ、映画は全くの別物と理解すべきであろう。映画は残念なことになったが、原作である柳先生の小説は非常に面白く、今回もまた非常に楽しめた。
わたしは柳先生の作品をすべて読んでいるわけではないが、わたしが読んだ限りではやや面白さにむらがあり、これは全くつまらんというものもあれば、こいつは非常に面白いと思うものもある。わたしの好みでいうと、『吾輩はシャーロック・ホームズである』『はじまりの島』『新世界』あたりは良かったが、『キング&クイーン』は全くダメだった。だが、この『ジョーカー・ゲーム』をはじまりとする「D機関」シリーズは、やはり一番面白いというか、わたしの好みに一番合う作品群なのである。
「D機関」シリーズの舞台となるのは、昭和12年からの数年間であり、西暦で言うと1937年から物語は始まるのだが、要するに第2次大戦直前である。1937年というと、1939年(昭和14年)のドイツ軍によるポーランド侵攻を第2次世界大戦の始まりとすると、その2年前にあたる。ドイツでは既にナチスが政権を握り、日本も既に国際連盟を脱退し、世は戦争へ向けた不穏な空気をはらみつつ、戦前最後の華やかさが失せつつある時代だ。この、時代設定が非常に絶妙である。日本が太平洋戦争へとなだれ込む直前の、一番緊張感の高い時期と言ってもよいのではないかと思う。
この一連の「D機関」シリーズは、基本的に短編連作である。各エピソードごとに主人公が違う物語にあって、共通した設定はただ一つ。それぞれの主人公が、「D機関」と呼ばれる大日本帝国陸軍に設置された「スパイ養成学校」出身のスパイである点だ。当時、日本も当然スパイ養成をしていたことは周知の事実で、情報戦としての第2次世界大戦を追いかけてみるのもなかなか面白い。有名なのは、これまでいろいろな映画や小説の題材になっていることでおなじみの、いわゆる「陸軍中野学校」で、これは実在のものである。柳 先生の創作した「D機関」は当然それを下敷きにしているのだとは思うが(※いや、明確に、第1作で、中野学校の対抗軸として創設された、みたいな設定があったかも。すみません。そのあたりの設定は忘れた)、小説としてのエンタテインメント性が高く、非常に優れたスパイ小説であると思う。太平洋戦争へ向けた大きなうねりの中で、果たしていったい、どんな日本人スパイが活躍していたのか。もちろんフィクションであるが、物語を貫く緊張感は非常に高く張りつめている。
だいたい、1冊の作品に短~中編が3~5本、という構成になっているが、とりわけ大きな存在感を放っているキャラクターが、「D機関」を創設した「結城中佐」である。彼自身は、ほとんど物語には登場しない。たまに、各話の主人公たちが、ああ、そういや結城中佐が言ってたな、と回想の中で語られる程度である。だが、ほぼ毎回、結城中佐の存在が感じられるほど、彼のキャラクターは鮮明かつ強烈だ。
スパイは目立ってはいけない。故に「死なず・殺さず」が掟であり、必ず情報を持ち帰ることがスパイにとっての勝利であるとする結城中佐。そんな彼に鍛えられた、それぞれの主人公が活躍する様は、非常にカッコイイ。もちろん、絶体絶命のピンチにも陥るが、「死んではならない」ことを叩き込まれた彼らが、最後の最後まであきらめず、持てる能力をフルに活用して、窮地を脱出する。実に爽快で、なんというか、シャレオツな雰囲気すら感じられる。そういった窮地を脱する場面では、時に、すべてを先読みして準備していた結城中佐の影がちらつくあたり、大変スタイリッシュだ。なんとなく、空気感的には『カウボーイ・ビバップ』を彷彿とさせるものがあり、菅野よう子の音楽が聞こえてきそうなカッコ良さがある。
そんな物語が、「D機関」シリーズであり、今回の『ラスト・ワルツ』にも当然受け継がれている。今回は3話しかなかったが、どれも非常に楽しめた。第1話は、ちょっとした密室系ミステリー。第2話は、若き頃の結城中佐の影を追い求める女性の話、そして第3話はゲッペルスとレニ・リーフェンシュタールと、なんとかの有名なフリッツ・ラングまで登場するドイツ国内を舞台にしたアクション。と、今回も彩り豊かだ。特に3話目は、ラストのどんでん返し(?)まで、わたしは全く気が付かなかった。お見事、である。
どうやら、アニメはそういうテイストを活かして作られる気配があり非常に期待ができそうだ。そもそもこの小説は短編の積み重ねであるため、TVシリーズ向けでもあろう。なので、せっかくの映画化が「あんなこと」になってしまってとても残念だ。柳先生本人に、長編をひとつ書いてもらうべきだったと思うが、まあ、あれは別物という事で一つよろしくお願いしたい。
というわけで、今回もちょっと短いが結論。
柳 広司先生の描く『ジョーカー・ゲーム』シリーズは、読書好きなら自信を持ってお勧めできる作品です。そして最新作『ラスト・ワルツ』も安定の面白さでありました。わたしとしては、シリーズは続いてほしいのだが、一方で、結城中佐が、太平洋戦争においていかなる行動を取ったのか。それがとても知りたい。しかしそれは、シリーズ最終作までは書けない話であろう。
――あ、ええと、映画は観なくていいです。
↓まずは第1作を読むべきでしょうな。文庫化されてますので、とりあえず買いです。
発売されたのは、今年の1月で、要するに映画に合わせた形での発売であったが、映画の方は残念ながら興行成績も振るわず、また、内容的にも、ややトンデモ映画と化していたので、まあ、映画は全くの別物と理解すべきであろう。映画は残念なことになったが、原作である柳先生の小説は非常に面白く、今回もまた非常に楽しめた。
わたしは柳先生の作品をすべて読んでいるわけではないが、わたしが読んだ限りではやや面白さにむらがあり、これは全くつまらんというものもあれば、こいつは非常に面白いと思うものもある。わたしの好みでいうと、『吾輩はシャーロック・ホームズである』『はじまりの島』『新世界』あたりは良かったが、『キング&クイーン』は全くダメだった。だが、この『ジョーカー・ゲーム』をはじまりとする「D機関」シリーズは、やはり一番面白いというか、わたしの好みに一番合う作品群なのである。
「D機関」シリーズの舞台となるのは、昭和12年からの数年間であり、西暦で言うと1937年から物語は始まるのだが、要するに第2次大戦直前である。1937年というと、1939年(昭和14年)のドイツ軍によるポーランド侵攻を第2次世界大戦の始まりとすると、その2年前にあたる。ドイツでは既にナチスが政権を握り、日本も既に国際連盟を脱退し、世は戦争へ向けた不穏な空気をはらみつつ、戦前最後の華やかさが失せつつある時代だ。この、時代設定が非常に絶妙である。日本が太平洋戦争へとなだれ込む直前の、一番緊張感の高い時期と言ってもよいのではないかと思う。
この一連の「D機関」シリーズは、基本的に短編連作である。各エピソードごとに主人公が違う物語にあって、共通した設定はただ一つ。それぞれの主人公が、「D機関」と呼ばれる大日本帝国陸軍に設置された「スパイ養成学校」出身のスパイである点だ。当時、日本も当然スパイ養成をしていたことは周知の事実で、情報戦としての第2次世界大戦を追いかけてみるのもなかなか面白い。有名なのは、これまでいろいろな映画や小説の題材になっていることでおなじみの、いわゆる「陸軍中野学校」で、これは実在のものである。柳 先生の創作した「D機関」は当然それを下敷きにしているのだとは思うが(※いや、明確に、第1作で、中野学校の対抗軸として創設された、みたいな設定があったかも。すみません。そのあたりの設定は忘れた)、小説としてのエンタテインメント性が高く、非常に優れたスパイ小説であると思う。太平洋戦争へ向けた大きなうねりの中で、果たしていったい、どんな日本人スパイが活躍していたのか。もちろんフィクションであるが、物語を貫く緊張感は非常に高く張りつめている。
だいたい、1冊の作品に短~中編が3~5本、という構成になっているが、とりわけ大きな存在感を放っているキャラクターが、「D機関」を創設した「結城中佐」である。彼自身は、ほとんど物語には登場しない。たまに、各話の主人公たちが、ああ、そういや結城中佐が言ってたな、と回想の中で語られる程度である。だが、ほぼ毎回、結城中佐の存在が感じられるほど、彼のキャラクターは鮮明かつ強烈だ。
スパイは目立ってはいけない。故に「死なず・殺さず」が掟であり、必ず情報を持ち帰ることがスパイにとっての勝利であるとする結城中佐。そんな彼に鍛えられた、それぞれの主人公が活躍する様は、非常にカッコイイ。もちろん、絶体絶命のピンチにも陥るが、「死んではならない」ことを叩き込まれた彼らが、最後の最後まであきらめず、持てる能力をフルに活用して、窮地を脱出する。実に爽快で、なんというか、シャレオツな雰囲気すら感じられる。そういった窮地を脱する場面では、時に、すべてを先読みして準備していた結城中佐の影がちらつくあたり、大変スタイリッシュだ。なんとなく、空気感的には『カウボーイ・ビバップ』を彷彿とさせるものがあり、菅野よう子の音楽が聞こえてきそうなカッコ良さがある。
そんな物語が、「D機関」シリーズであり、今回の『ラスト・ワルツ』にも当然受け継がれている。今回は3話しかなかったが、どれも非常に楽しめた。第1話は、ちょっとした密室系ミステリー。第2話は、若き頃の結城中佐の影を追い求める女性の話、そして第3話はゲッペルスとレニ・リーフェンシュタールと、なんとかの有名なフリッツ・ラングまで登場するドイツ国内を舞台にしたアクション。と、今回も彩り豊かだ。特に3話目は、ラストのどんでん返し(?)まで、わたしは全く気が付かなかった。お見事、である。
どうやら、アニメはそういうテイストを活かして作られる気配があり非常に期待ができそうだ。そもそもこの小説は短編の積み重ねであるため、TVシリーズ向けでもあろう。なので、せっかくの映画化が「あんなこと」になってしまってとても残念だ。柳先生本人に、長編をひとつ書いてもらうべきだったと思うが、まあ、あれは別物という事で一つよろしくお願いしたい。
というわけで、今回もちょっと短いが結論。
柳 広司先生の描く『ジョーカー・ゲーム』シリーズは、読書好きなら自信を持ってお勧めできる作品です。そして最新作『ラスト・ワルツ』も安定の面白さでありました。わたしとしては、シリーズは続いてほしいのだが、一方で、結城中佐が、太平洋戦争においていかなる行動を取ったのか。それがとても知りたい。しかしそれは、シリーズ最終作までは書けない話であろう。
――あ、ええと、映画は観なくていいです。
↓まずは第1作を読むべきでしょうな。文庫化されてますので、とりあえず買いです。